14.渋温泉と鍵付き外湯に関する一考察
昔ながらの石畳の続く渋温泉には九つの外湯がある。
これを巡浴手拭いに朱印を押しながら全て巡り、最後に渋高薬師にお参りすると、満願成就が達成できるとされ、これを渋の巡浴九湯巡りとか、厄除け巡浴外湯巡りなどと称する。
九つの外湯は一番から九番まで順に、
初湯、
笹の湯、
綿の湯、
竹の湯、
松の湯、
目洗いの湯、
七操(ななくり)の湯、
神明滝の湯、渋大湯となっていて、最後の
渋大湯は結願湯と呼ばれる。
前述の通り、ここの外湯もがっちりと鍵がかかっている。
鍵を持たぬ者、入浴せざるべしだ。
ガイドブックやテレビで渋温泉を紹介するときには、必ず「宿泊者だけが鍵を持って九湯巡りをすることができる」とされているはずだ。
しかし、ネットで検索してみれば、日帰りで九湯巡りをした体験談が沢山見つかる。その方法は、有料駐車場や土産物屋を使い、そこで鍵を借りるというものだ。
実際に現地に足を運びいくつかの筋で聞いたところでは、これは決して正式に認められた方法ではないということだ。
渋温泉旅館組合は日帰り客が外湯を使うことを認めるつもりはない。当然宿泊客の囲い込みができなくなるからだ。
だから渋温泉の外湯に日帰りでも入浴できるという情報を流しているのは個人ベースのものばかりになる。
日帰り客を取らなくてもいける。日帰り客に外湯の門戸を開かないことこそが渋温泉の興隆に繋がる、旅館側にはそういう考えがあるのだろう。
しかし、違う考えを持つものもいる。
宿泊客を対象とする旅館とは別に、日帰り客もまた自分たちの客であるから付加価値をつけてでも利用してほしいと思う商売の人たち、すなわち駐車場や土産物屋だ。
古い温泉街の中で利益を求めるいろいろな立場の思惑が錯綜している。そんな感じだ。