10.滝の湯は坂の上
さて足湯とかめやの間の細い道を行くと、温泉街を見下ろすような高台に出る。ということはこの先は、さっき車で通った麻釜だろう。
道の出口に黄金屋とまつみや商店いう二軒の土産物屋があり、T字路にぶつかった。左に折れると右手に雪を被った薬師堂。左手にはぐらぐらと煮えたぎっているのかもうもうと湯気の上がる麻釜。熱湯で危険なので観光客は入らないよう看板がある。地元の人が茹でものをするのはOKなのだ。野沢菜とか茹でるんだろうな。
麻釜の正面には御岳神社。
野沢の守り神は釜神様だ。釜神様は別名温泉神(ゆのかみ)。大己貴神と少彦名神をあらわす。
御岳神社の横には温泉の噴出口もあった。
麻釜から坂を下りないで、道なりに登っていくと、行き止まりに三つ目の外湯が見えてきた。
滝の湯。
河原湯、
大湯と同様、それぞれ外湯ではここしかない源泉から引いている。
町の中にあった河原湯、大湯と違い、ここの湯小屋は背景が雪山で建物は似通っていてもまったく違った風情があった。
ここも脱衣所と浴室は繋がっている。というか、
野沢の外湯はきっとどこもそういう作りなのだろう。少なくとも湯船から自分の持ち物が常に確認できるだけで、事件は減るのだと思う。今まで入った脱衣所と浴室が繋がっていた共同浴場でも、ほとんどの所は、浴槽から脱衣棚は見えなかった。例えば
草津の白旗の湯しかり、
飯坂温泉の鯖湖湯しかり、
小野川温泉の尼湯しかり。それが野沢は浴槽の回りにぐるりと脱衣棚をつけてあるので、非常に判りやすい。
滝の湯のお湯は緑色だった。
なかなか久しぶりにこの色を見たような気がする。濁ってはおらず、透き通った緑だ。
緑の温泉は苦い。ここも苦みが非常に強く、ゆで卵の臭いより薬っぽい苦みの方が先に立つ。色といい
熊の湯温泉を彷彿とさせた。
タイル張りの浴槽は適温で、湯の花の量も多い。消しゴムかすの小さいような白い湯の花と、もう少し大きいものは核が白く縁取りが黒っぽい紫だ。どうも野沢の外湯というのはどこも湯の花が自己主張している。