子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★☆☆☆ 泉質 ★★☆☆☆ 露天風呂は適温、女湯は熱い、泉質はほとんど刺激なし
- 設備★★☆☆☆ 雰囲気 ★★★★★ 赤ちゃん向けの設備は無いが鄙びた趣と景観の良い露天風呂有り
子連れ家族のための温泉ポイント
米沢八湯のひとつ滑川温泉は、500年ほど前に平家の侍斉藤盛房が前川で滑って転んで温泉を発見したという由来がある。
開湯はそれから200年以上たった宝歴13年のこと。当時の上杉藩主の許可を得て、一軒宿の福島屋は湯治場として栄えてきた。
今も最上階の3階に殿様用の部屋が残されており、ここに泊まれば四方を見渡すことが出来る。
滑川温泉は自分にとって思い出深い温泉である。
それは7、8年前のある年のゴールデンウィークのこと。雪のどっさり降った後に春が急ぎ足でやってきたような年だった。
まだ子供たちもおらず、私たち夫婦と仲の良い友人たちとで滑川に出かけた。
実は数日前に滑川温泉の一軒宿、福島屋から一本の電話が入ったのだ。何でも雪崩の危険があるのでゴールデンウィークの宿泊予約をキャンセルしてもらえないかというものだった。
でも私たちは出かけてしまった。予約はキャンセルでも、飛び込みで泊めてもらおうと思って。
福島屋に着くと、無理を言ってきてしまったにも関わらず温かく出迎えてくれた。
本当なら連休で大勢の泊まり客がいるところ、古めかしい黒ずんだ旅館内は静まり返り、私たちと数人の常連湯治客、そしてご主人と女将さん、住み込みの従業員さんと数えるほどだった。
夜にはそのただ一人の従業員さんと鍋をつついて酒を酌み交わし、昔話など聞かせてもらった。
ぎしぎしとなる階段、床板の隙間から階下の灯りが漏れる二階の廊下。
予定外のキャンセル事件に、露天風呂もまだ眠りから覚めていなかった。
冬の間放置されていた混浴露天風呂は、藻などが生い茂りすっかり池のようになっていた。
翌日到着した従業員さんたちが、見違えるように綺麗に露天風呂を清掃してくれて、私たちはわくわくと今年一番最初の湯がたまるのを待った。
10センチ、20センチ・・・なんと待ちきれない瞬間だったことか。
そうして贅沢にもその年の滑川温泉の一番風呂を心からありがたく頂戴したのだ。
そんな滑川を再訪したのは2004年の5月。山桜が頬を染めるように色づくゴールデンウィークのことだった。
4歳と6歳の娘を連れて湯治部に4泊したが、以前と変わらず温かく迎えてくれた。
滑川のお湯は青みがかった乳白色。特に晴れた日は空の色を吸い取ったように青くなる。
濁りはそれほど強くなく、沈めた足先までうっすらと見えるくらい。
湯の花は混浴内湯は小さな白い羽毛みたいな感じだが、露天風呂や女湯では消しゴムかすみたいな大きなものもうようよしている。
強いゆで卵みたいな硫黄の臭いがするが、刺激などは特にない柔らかいお湯だ。しばらく入っているととても温まる。
露天風呂からは前川の流れがよく見えて、気持ちがいい。子連れなら、夏などこのまま川に降りて水遊びもできる。
内湯は混浴大浴場と女性専用とあり、どちらも石の浴槽と木の壁で天井が高く、湯治場の雰囲気をよく残している。
混浴内湯の近くに古い成分分析表があり、そこに上の湯と下の湯という記載があるが、今は上の湯は使用されていないそうだ。現在使っている源泉は、下の湯を入れて三本。
混浴内湯が下の湯と、もう一本の混合。下の湯が湯口から出ているぬるい湯で、ゆで卵のような臭いや味は薄くその代わりに淡い金気臭がする。
女湯内湯は混浴内湯で混合しているもうひとつの源泉を単独で使っており、一番熱い。加水しなければちょっと子どもは入れないくらいの温度で、ゆで卵臭や硫黄らしい刺激は最も強く感じる。湯口も析出物でごてごてだ。
最後の一本は混浴露天風呂で単独使用しており、女湯ほどではないがゆで卵臭が強い。
滑川温泉のこの三つのお風呂全てに入れるのは女性だけの特権だ。混浴が多いが、露天風呂には午後4時から6時までとちゃんと女性専用時間も設けられている(立ち寄り時間外なので宿泊者専用)。
なんとなくお気に入りの温泉を再訪するのは楽しみでありながら、怖くもあった。
期待ばかりが膨らんで、記憶にあるよりも大したことがなかったとがっかりしたり、以前とは変わってしまったと
ショックを受けたりするのではないかと、直前まで心配に思っていた。
それらは全て杞憂に終わった。
今も又、いや改めて、
滑川温泉福島屋は我が家のお気に入りなのだ。