浴室もどこか薄暗い。
上の方に格子のはまった窓やスリットがあるが外は雪だし、電気も付いてはいるが湯気で煙っている。
高さはあるが面積はあまり無い浴室は床と男湯との境側の壁は年季の入った板張り、外に面した壁は圧迫感のある石ブロック。
裏通りの地下にあることを含めて凪の湯はどこか日陰の共同浴場といったイメージがある。
その狭い浴室の三方の壁にくっつくサイズ、浴室のほとんどを占めるように木製の浴槽があって、そこに熱いお湯が満たされている。
前に来た時も熱かった記憶がある。
でも今日はそれどころではなかった。
正直に言って、たぶん凪の湯が草津の共同浴場では一番熱い。だってこれ、人間が入る温度じゃない。
煮川乃湯も、清掃直後の白旗乃湯も熱かったが、いやいや地蔵乃湯での時間湯が一番熱かったと思うけれども、今日のこの凪の湯には適わない。
最近根性の無くなった私は無理に入ろうとせず、さっさと諦めて水を足すことにした。
凪の湯は他の共同浴場とは違い加水前提と見えて、水の蛇口から長いホースが伸びて浴槽に引き込んである。
ただ、貼紙にもお湯は止めないで、水は上がる時に止めてとあるように、水は出ていない。これをひねって全開にした。
何だか夏の渋温泉を思い出すな。
草津の共同浴場を回った後、渋温泉の共同浴場を回って、草津は熱いけれど人の入れる温度だけど、渋の熱いのは本当に人の入る温度じゃないと実感した時のことを。
水をがんがん入れたつもりだが、ホースの位置が悪くてなかなか冷めない気がする。
ホースは最大限伸ばしても、ちょうど湯口の反対側、溢れたお湯が出ていくところの近くまでしか届かないので、水を入れても入れても入れた端からその水が出て行ってしまいそう。効率が悪いな。
それに溢れたお湯がまた熱湯なので、それが足元に流れてきただけで火傷しそう。
少し耐えて、ようやく適温に下がった。
思いっきり加水してしまったので、適温・・・つまり熱めを通り越してゆっくり入れる温度になっていた。
やっと入れると思って身を沈めた。
わずかな白濁りのあるお湯。あまりはっきりしたにおいは無い。
この木の床と木の浴槽の縁がいい。
実は凪の湯は草津の共同浴場に多い湯畑源泉でも万代鉱源泉でも無い。西の河原源泉だ。
草津の日帰り温泉でこの冬リニューアル工事中の西の河原露天風呂という大きな露天風呂あるが、そこは名前とは裏腹に西の河原源泉を使っていないが(ちなみに万代鉱源泉)、何故かぽつんとこの凪の湯では西の河原の琥珀の池源泉を使っている。
ちょうど二人組の女性が入ってきたので入れ違いに上がった。
加水してしまったので詫びると、むしろ助かったとお礼を言われてしまった。
二人は私の出した水を止めることなくそのまま入り、おしゃべりを始めた。
長話になりそうな雰囲気だった。