二日目 2003年8月30日(土)
天気予報が心配だったが、雲の多い朝ながら次第に晴れてきた。
病み上がりの体調も心配だったが、不思議なことにこの地に着いてから、体力は使っていると思うのにむしろ体は軽く気分もすっきりとしている。涼しく乾いた気候と、綺麗な空気や景色が、残っている風邪っ気を吹き飛ばしてくれるようだ。
昨日結局、温泉はおろかお風呂に入れなかったので、今日は朝からどこか温泉に行こうという話になった。どこにしよう。
例えばキャンプ場至近の新奈川温泉リフレ・イン奈川や
渋沢温泉ウッディもっくは朝11時とか11時半にならないとオープンしない。そういうところではなく、もう朝からやっている所が良いのだ。
この辺りで朝早いのは何と言っても沢渡温泉。梓湖畔の湯や、上高地ホテルは7時から。御憩み処さとうも8時から外来入浴を受け付けている。もしかしたら夜行バスなどで上高地入りをする人たちが、朝、一風呂浴びてから上高地へ向かおうと、そういう需要があるのかもしれない。
白骨温泉も意外と早い。煤香庵が8時からで、白骨公共野天風呂も9時半にはオープンする。
今夜から
Tetsuさん一家と
れもん一家が高ソメキャンプ場に到着するが、明日は白骨温泉と乗鞍散策の予定になっていた。私とれもんがどうしても白骨に入ってみたいと言ったからだ。
白骨といえば1に
泡の湯旅館の混浴大野天風呂、2に
白骨温泉公共野天風呂だろう。だからこの二つを外して別のお風呂(煤香庵)に入っておくのが得策かなと思っていたが…
上高地・乗鞍スーパー林道ではなく沢渡経由でくねくねと九十九折の山道を登り、温泉街の入り口に着くとまず無料の公共駐車場があった。入り口にあるパーキングで「
白骨公共野天風呂に行くお客様はこちらの駐車場に」と言われて、私はあっさり宗旨替えしてしまった。
そうだ、明日は泡の湯ということにして、今日、公共野天風呂に入っちゃおう。
ちょうど時刻も9時半になったばかりで、公共野天風呂も開いたばかりだ。これはチャンスかもしれない。
駐車場から少し坂を上ると、白骨温泉案内所があり、その正面が公共野天風呂の入り口だ。
ところでガイドブックや白骨で手に入れたパンフレットには7・8月は9時半オープンと書かれていたが実際は今日は8時半にオープンしたらしい。もしかしたら夏の土日など、混雑が予想される日は特別に早く開けているのかもしれない。
川の流れが二本合流して自然の隋道に流れ込む脇に公共野天風呂はある。
入浴するには渓谷に沿って階段を何段も下りなくてはならない。
階段も綺麗に整備されていて洒落た印象を受ける。周りの木々は広葉樹で、これは紅葉の頃は素晴らしいだろうなと思った。
肝心のお風呂は階段からも既に見えている。男湯が丸見えというのは本当のようだ。
脱衣所は広いとはいえない。脱衣籠とロッカーはかなり沢山あるがスペースが狭いので、この籠が全部埋まるような日はさぞや着替えが辛いだろうと思わせる。ドアを開けると少し青みがかった乳白色のお湯をたたえた楕円形の浴槽が待っていた。シャワーのついた洗い場も四つばかり。あとは露天風呂だけのシンプルなつくりだ。
女湯は確かに上部をよしずで仕切ってあるが、それでも変化のある美しい川の流れと対岸の緑は計算されたかのように完璧で、これは景色だけでも比類ない露天風呂の一つだなと感激。夏の終わりの野の花が沢山緑の中に点在していて可憐だ。
子供たちをまずシャワーで流し、一人ずつ入れてやると、「熱い熱い」と言う。
ん?ここの源泉温度は37度くらいしかないはず。
でも確かに手を入れてみると少し熱く感じる。体感温度は41度くらいある(ちなみに外気温は21度)。
「入っていればすぐ熱くなくなるよ」と取り合わず、自分もシャワーの後、入ってみた。
おお、ちょっと熱い。うんでも、すぐ熱さは感じなくなる。刺激は全然ない。まろやかな感じ。最初に一瞬金属っぽい臭いがしたが、すぐゆで卵みたいな硫化水素臭になった。
それにしても想像していた通り、綺麗なお湯の色。
湯口から既に少し白濁していて、湯の中の手もまるで見えないほどよく濁っている。ロケーション、雰囲気とあわせて、確かに
群馬の万座温泉、
秋田の乳頭温泉郷鶴の湯温泉と甲乙つけがたい。
ああ良かった。ここに来て、このお湯に入ることができて。
温泉に心を癒す効果があるとしたら、この温泉は効果覿面だね。
浴槽は石でできていて、お湯の流れるところは白っぽくコーティングされてつるつるすべすべ。白骨の由来は白い船。すなわち温泉成分で船(浴槽)が白くなることだと言われている。これぞ白船だ。浴槽はともかく肌が白くなったかどうかは神のみぞ知る。
入浴後は道を挟んで向かい、斉藤旅館の営む売店の正面にある御食事処 球道へ。崖の上にある店のテラスが張り出すように作られていて、とても眺めが良い。大人は蕎麦と岩魚の塩焼き定食。子供たちはうな重を食べた。
店は洒落た感じのつくりで、白骨公共野天風呂のたたずまいといい、ここはなかなか品の良いリゾートなのだなと思った。
本当はどこかでもう一つ温泉に入ってからキャンプ場に戻ろうかと思っていたが、昼食もこうして白骨で食べてしまったし、時間も中途半端だったのでこのまま一度戻ることにした。
この時点では白骨は青空がのぞき、まもなく合流予定のれもんからも「今朝出た箱根は晴れていた」との連絡が携帯で入る。そう、このときはまだ、今夜から明日の朝があのような天気になろうとは思わなかったのである。
キャンプ場に戻ったのが午後1時。
釣りでもして待っていようかと、高ソメキャンプ場の管理棟に行って釣竿を借りてくる。一本200円。それに練り餌を買う。あとは釣れた重さでお金を払うことになる。
パパがまず釣り糸を垂れたがしばらく収穫は無し。
ちっとも竿が動かないので3歳のレナにやらせてみることにした。
レナが竿を持ってすぐ、近くで小さな水飛沫が上がった。魚が近づいてきたらしい。これはいけるかも…。
と、見る間に竿の先が動いた。
「レナ、釣れてる釣れてる」思わずとんでいって竿を上げさせた。釣り糸の先で大きな岩魚が揺れている。
レナ、大喜び!!
「やったやったぁ!!」
急に空が暗くなり、小雨がぱらついてきた。れもん一家は雨を呼ぶ体質らしい。もしかして早めに到着したか?
テントサイトに戻ってみると、れもんではなくTetsuさん一家が到着してテントを設営している最中だった。
そしてほどなくしてれもん一家も到着した。…本降りの雨と共に…。
釣りの方はその後パパがもう一匹岩魚を吊り上げたほかは、すっかり沈黙してしまった。短い時間に二匹釣れたから案外簡単かもと思ったのに、結局夜までかかってその二匹しか成果は無かった。
でも三家族でわいわいと釣り糸を垂れるのは面白かった。
箱根の芦ノ湖で前日テントを張ってきたれもん一家がお風呂に行こうと言う。
我が家も昨日は入れなかったし、今朝の白骨でも頭を洗ったりはできなかった。だから一緒に行こうと思ったのにパパは火の番をしている方がいいと言う。もう出かけたりせずビールを飲んでいたいらしい。
結局、パパとTetsuさんの二人を残して
渋沢温泉ウッディもっくに行くことにした。
ここもリフレ・イン奈川と同じ公共の宿で、立ち寄り入浴も広く受け付けている。ログハウス風の建物がなかなかいい感じだ。
ボディーソープは備え付けがあるが、シャンプーは無いというので受付で100円の小ボトルを購入した。こんなことなら持ってくれば良かった。
浴室はそれほど広くない。内湯のみで見た感じ特に特徴はない。ただお湯は気持ちのよいにゅるにゅる感があり、とても嬉しい。循環らしいがほとんどカルキ臭もしなかった(今回は病み上がりなので特に鼻は自信が無いが)。
キャンプ場泊のお風呂としては非常に良い。ちょっと熱めなので子供たちはなかなか入りたがらなかった。やっと体も頭も洗えてすっきりすっきり。
テントではパパとTetsuさんがすっかり意気投合していた。
後で白状させたら、なにやらTetsuさんから高級な飛騨牛を頂いていたらしい。うう~む、ずるいぞ~。
岩魚は串で刺して塩焼きに。肉類は焼けた端から子供たちの口の中へ。いつもは小食幼稚園児のカナ、レナしか見ていないから、小学生のお子様たちの食欲には目を見張らせられる。何かが焼けたと聞くといっせいに網の傍へ。焼き鳥やソーセージ、焼肉は瞬時に消えてしまう。いやはや、早いこと早いこと。
そうしているうちにも雨がひとしきり強くなってきた。夕方にはぱらつくだけだったのが、夜には音を発ててタープを濡らしている。時折たるんだ部分に溜まった雨水を逃がしてやらないと、腫瘍のように大きく膨らんでしまう。
ちょっと心配だな…。
今夜は大丈夫かな。
明日の朝には青空がのぞくかな?
カナとレナは早々にテントの中で寝つき、れもん家とTetsu家の子供たちはひとつテントに集ってランタンの明かりでマンガを読んでいたらしい。
大人は火を囲んでしばらくおしゃべりしていよう。雨音にかき消されないようにね。
続く…