車の上に積もった雪は、たむらの従業員がきれいに落としてくれた。
チェックアウトを終えて、たむらの前の急坂を降りる。
雪をかぶった
積善館。
雪をかぶった
河原の湯。
ぎりぎりまでお風呂に入っていたので、車の中で化粧しようとジェルタイプの口紅を出したら、半分凍って固まっていた。
寒かったんだねぇ、四万は。
四万温泉を離れる前に小枝子パパにメールした。
「ありがとうございました。また来ます」
四万温泉ではあれほど白かった景色は、中之条まで降りてくると一転して何も無かったかのようだった。
雪どころか、路面は湿ってさえいない。
さっきまでの雪が嘘のようだ。
「どこから高速に乗るの?」
「昨日小枝パパが沼田より月夜野の方がいいって言ってた」
既に地図の古いアホタレカーナビに月夜野を入力すると、沼田の市街地を突っ切ろうとする。
それじゃ意味無いじゃん。市街地を通らず赤根峠をトンネルで越す県道を認識しないらしい。
仕方ないので近くまで行ったら口頭でナビすることにした。
ええと・・・高山村の新田という信号で左折すればいいのね。
この手持ちの地図だって最新とはいかないから、どこまで信用できるかわからないが。
高山村・・・高山村・・・。
「確かこの辺りにまだ入ってないけど入ってみたいなぁと思ってた温泉があるんだけど」と私。
「・・・近いの?」
「うーん、あのね、今走っている道は沼田へ向かう沼田街道で、今から月夜野方面に向けて県道36号線に曲がるんだけど、、この角をちょっとショートカットというか、手前で曲がって行くとあるんだよね。全然遠回りじゃないよ。ほとんど通りがかり」
「ほーんとー?」疑わしそうなパパの返答。
いや、ほら、あの、とりあえずこういうとき嘘をついたことはないじゃん。まあ距離の感覚が私とパパとで少し違っていたことはあったかもしれないけどさ。
「とにかく今回は本当に遠回りじゃないって。地図見せてもいいから」
私はすり寄って、運転しているパパに説明を始めた。
「温泉の名前は高山温泉で、一般受けするセンター系の日帰り温泉と、いわゆるマニアが喜ぶ地元の方中心の年齢層が高い温泉があるの。センター系の方は
高山温泉ふれあいプラザって言う名前で、プールもある大きな施設で確か道からも特徴的な建物が見えたような気がするな」
「ああ、何か見たことあるかも」パパも相槌を打つ。
「私が行きたいのはもう一つの方で、
いぶきの湯って言うの」
「マニアだと認めるわけね」
「認めないって。そうじゃなくてー、プールもあるようなセンター系だとざばっと入ってざばっと出るって感じでもないでしょ。地元向けのお風呂だけがあるような施設だったらささっと一人で入ってささっと出てこられるから」
「・・・いいよ。ささっと出てきてくれるなら」
やったー。