子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★★ 泉質★★★★★
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★☆ 休憩室あり、混浴あり、宿泊なら貸切風呂(無料)を自由に使える
子連れ家族のための温泉ポイント
四万温泉積善館と言えば、千と千尋の神隠しのモデルになったとも雰囲気が似ているとも言われる木造の由緒ある旅館だ。
四万温泉は日帰り含めて何度も出かけているけど、憧れの元禄の湯には入ったことがないし、いつも通りがかりに見る赤い橋の由緒正しい宿にいつか泊まってみたかった。
私は豪華な宿より歴史的建造物の方が好きなのだ。
四万温泉の積善館には本館、山荘、佳松亭という三つの棟があり、それぞれに異なる趣を持っている。
本館は、朱塗りの橋のある表通りに面した江戸から明治にかけて建築、増築、修繕された建物で、現在は日本最古の湯宿建築として群馬県の重要文化財だ。
最近では山荘、佳松亭と同様の夕食を付けたプランも出ているようだが、基本的には湯治棟の扱いで食事もオプションで積善館オリジナルの弁当となる。
山荘は手狭になった本館を昭和初期に増築したもので、本館の奥に繋がるように建てられている。
ここはここで本館ほどの歴史は無いものの、それでも十分に古式ゆかしい桃山風建築で、国登録文化財、群馬県近代化遺産に指定されている。
もっとも新しいのが昭和の終期に建てられた佳松亭で、山荘のさらに奥、朱塗りの橋が掛けられた四万温泉のメインストリート側ではなく、四万バイパスからアクセスした方が良い。
つまり、積善館には入口が二つあり、片方は本館に面した朱塗りの橋、もう片方は佳松亭に面した四万バイパス側の玄関となる。
なお、三種類の棟のどこに泊まるにしても、駐車場は佳松亭側にあるので車で来た場合は四万バイパスから入った方が良い。
積善館には四種類のお風呂がある。
本館にあるもっとも有名な元禄の湯。
同じく本館にある唯一の混浴風呂 岩風呂
山荘にある隣り合った二つの貸切風呂 山荘の湯
そして一番新しく豪華な杜の湯。杜の湯には露天風呂も併設されている。
一番最初に訪れたのはもちろん元禄の湯。
とにかく積善館と言えばここ。ずっと入ってみたかった。
元禄の湯は玄関を出て左前方に建っている。
雨の日もぬれずに移動できるが別棟なのだ。
朱塗りの橋を渡ってきた場合は、右手にある建物がそれだ。
建物の右から岩でできた飲泉設備、男湯入口、女湯入口となっている。
男湯、女湯ともに簡易な下駄箱が置いてあり、大きな暖簾が下がっている。
暖簾をめくり戸をあけると湿度の高い空気がむわっと出てきた。
ここは浴室内に脱衣スペースのあるレトロな作りなのだ。
浴室内は思っていたより広く、壁が白いため明るく見えた。
行儀よく五つ並んだ長方形の浴槽、アーチ型の意匠を凝らした窓。写真で見ていた元禄の湯がそこにある。
床下に温泉を流しているのか乾いたタイルの上でも足の裏がかなり熱い。
入ってすぐのところに脱衣籠や脱衣棚が備え付けてある。
一番手前の少し大きな浴槽は先客がいたので、窓際の小さめの浴槽を独占することにした。
少し丸みを帯びた縁に腕を掛け、頭を乗せる。
うわぁ、すごくいい湯。
それぞれの浴槽には同じ位置に源泉を出すと思われる蛇口がついているが、今はそのほとんどが腐食し用をなさない。
いくつかはたらたらと湯を出し続けているが、止めることはできない。
残りは既にお飾りになっているのか湯を出す気配も無い。
湯は浴槽の中央辺りからほどよい温度でじんわり静かに出ているようだ。
既にオブジェと貸した蛇口にはクリームソーダさながらの青と白の析出物がもこもこと育っている。
いいなぁ、四万の湯は。
さっき入ってきたこしきの湯が硬く不器用だとすれば、積善の元禄の湯はもう少しこなれたような柔らかさがある。
ああでもなんで元禄なんだろう?
どう見ても江戸時代の元禄じゃなくて鹿鳴館の明治時代や大正浪漫系なのに。
お風呂に身を置いたまま、白壁のちょうど目線の高さに小さなドアがある。
そこは蒸し風呂、いわゆる温泉蒸気を利用した旧式のサウナで、そこから人が出てきた。
入るときは札を返して利用するようになっているのだが、無人になったので中をのぞいてみる。
ごく狭い一人分のスペースがあった。狭いところの苦手な私は早々に退散。
杜の湯は積善館の三つの棟のうち、一番後から建てられた佳松亭にある。
それぞれに違った個性のある三棟の中で、一番新しく豪華な印象のある佳松亭のお風呂なので、浴室も十分に広いし露天風呂もある。
ちなみに積善館は立ち寄り入浴が可能な宿だが、日帰り利用の場合は入れるのは元禄の湯のみになるので、杜の湯は宿泊者専用だ。
大浴場の浴槽は角を落とした横に長い長方形で窓が広く取られている。
窓際中央の竹筒から湯が落ちているが、それが浴槽の縁からざんざんと気持ちよく掛け流されていく。
他に人がいなければ、この贅沢な湯が一人占めできる。
歴史ある元禄の湯もいいけど、空いているときの杜の湯も捨てがたいなぁ。
山荘の湯は角度を変えて隣り合った二つの浴室がある。
その両方が貸し切り利用するための浴室で、入口の札を使用中に返して入るようになっている。
貸切風呂と言えど、中に入るとかなり浴室が広いことに驚かされる。
床はタイル張りで、やはりタイル張りの円形とアーチ型の浴槽が二つある。
そうなのだ。入ってみると判るが、これは今でこそ貸切風呂として使用されているが、元は二つの浴室がそれぞれ男湯と女湯だったと思われる。
だから浴室が二つあり、それぞれ双子のように似ているのだ。
山荘の湯は広さも中途半端で少し傷みもあり、洒落た感じも小奇麗な感じも特にしないが、円形の浴槽につかって見上げればどことなく元禄の湯に通じる作りの部分もある。
しかし何であんなところにと思うような場所に扇風機が。
隣り合ったもう一つの浴室との境の壁の天井近く。
上層の空気攪拌のためだと思うけど、設置してあるのが頭の部分だけじゃなく胴体も含めて本当に普通の家庭用扇風機みたいで違和感があって笑える。
お湯は溜め湯になっていてぬるかったので、源泉湯口を捻って好みの湯加減に。
誰もいない浴室に湯のしぶく音が響き渡る。
最後は混浴の岩風呂。
たぶん積善館の中でこの岩風呂が一番目立たないと思う。
混浴に入りたい人も多くは貸切風呂の山荘の湯で満足してしまいそうだし。
四万の湯は無色透明なので混浴は入りづらいのだ。
この岩風呂は脱衣所は完全に男女別だが、脱衣所から下がって湯船に入る作りも含めて女性にはなかなかハードルが高い。
女性専用タイムも設けられているが、昨夜はそれも失念していたので、先に夫に浴室に先客がいないことを確かめてもらってから入浴した。
横長の浴槽は浴槽内の岩で大小二つに分けられている。
お湯の行き来はあるが温度を違えることができるようにと。
ごつごつした岩や少し黒ずんだ壁などが、どことなく鳴子あたりの湯治宿にある浴室を彷彿とさせる。
このほか積善館は宿泊すれば夕方に名物社長直々に行う館内歴史ツアーに参加することもできる。
日常生活で自分の周りに流れている時間とは別世界のような、巻き戻された過去の時代に
立っているような、奇妙な感覚が味わえる稀有な宿であると感じる。