子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★★ 泉質★★★★★ 四万のお湯は熱めだがここは加水が多く適温
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★☆ ロッカーなどの施設は大浴場 甍の湯を利用すると良い
子連れ家族のための温泉ポイント
今年の紅葉は遅かった。
11月の半ばを過ぎたというのに、まだ四万の葉は赤や黄色に染まっていた。
露天風呂から溜息をつきながら、湯面に映る秋の色を見ていると、はらりはらりと鈍色の空から粉雪が舞い降りてきた。
そう、今年の秋は出足が遅く、そして短い秋が終わる前に、もう四万には冬の足音が聞こえていた。
上毛三山の一つ、榛名山の北麓を降りると、正面に奇怪な岩山がそびえている。
その名を岩櫃山。
岩櫃山を背に難攻不落の岩櫃城を構えたのが上州の名士齋藤氏であり、齋藤氏に仕えたのが清和源氏の流れを汲む四万たむらの初代当主 田村甚五郎清正であった。
四万の新湯川と日向見川に挟まれたに10万坪にも及ぶ広大な敷地を有する四万たむらは、まさに四万温泉の歴史と共に歩んできたと言える。
四万たむらとはそのような宿なのだ。
初めて四万を訪れたときうっかりと四万たむらの入り口に迷い込んでしまったことを思い出す。
四万温泉の新湯エリアに入り、坂道をそのまま登っていくと、それはどこかへ続く道ではなく、四万たむらへそのまま招き入れられる玄関に着いてしまう。
真っ直ぐ進めばどっしりとした入母屋造り茅葺き屋根の建物が出迎える。
重厚であり、歴史を感じさせ、何より建物までのスペースの取り方が、悠々として贅沢感を感じさせる。
「うっわぁい」
それはもう素敵な露天風呂だった。
森のこだまと名付けられた露天風呂は、紅葉に染まった新湯川を少し上から見下ろすようになっていて、屋根はついているものの開放感も十分だ。
お湯はそれほど熱くない。
ちょっと加水しすぎだと思うくらいだ。
きしつく中に少しぬるぬるする感じもあって良い肌触りで、身のうちからぽかぽと温まってくる。
大好きなんだ、四万温泉のお湯は。
草津より好きだと思う。
森のこだまは二階建てになっていて、上が女湯、下が男湯。
上から川と黄葉を見下ろす女湯と、傍らに立つ赤い紅葉の色を湯面に写す男湯と、どちらの方が景観が上かは判断がつきかねる。
ただ、このお風呂は夜にはライトアップもするので、せっかく泊まったのにうっかりとその時間に入りそびれてしまったことが残念だった。
景観よりもお湯を重視するなら、源泉に近い岩根の湯か花湧館の翠の湯へ行くのが良いそうだ。
翠の湯は縁と底が檜でできていて、簀の子状の底からぷくぷくと泡と共に源泉が立ち上ってくる。
泡の出てくる真上に体を浮かせて、ただのんびりと時間を忘れたいお風呂だ。
花湧館は四万たむらの湯治館。
自炊などはできないが、リーズナブルに宿泊できて、もちろんお風呂は全て自由に入ることができる。
檜と言えば、総檜の御夢想の湯も忘れてはならない。
四万の御夢想の湯といえば、日向見にある共同浴場だが、ここもネーミングの由来は同じだ。
大江山の酒天童子を退治した碓井貞光の夢枕に童子が立ち、霊泉を授けたと言われる伝説が起源だ。
思ったより広々とした綺麗な浴室で、湯気が籠もっている。
先ほどの森のこだまと違って、出汁のような臭いがほんのりと漂っている。
てっきりアブラ臭の一種かなと思ったのだが、後でやませみさんにそれは木の臭いだと教えていただいた。
浴槽や浴室の材質で、こんなにもお湯の印象が変わるのだなと実感させられた。
御夢想の湯の脱衣所からは、もうひとつ庭園露天風呂 甌穴へも出ることができる。
こちらはかなりぬるめ。晩秋の気温からすると寒いほどだった。
最後に混浴の幻の湯 竜宮を紹介しよう。
川縁にあって水かさが増すと沈んでしまうので幻の湯と呼ばれている。
浴槽は二つあって、ひとつは適温、もうひとつは入れないほどに熱い。
ちょうどお風呂の後ろに男性用大浴場甍の湯があるので、なかなか女性には入りにくいものがある。
けれどひと気も無い真夜中にそっと入りに行くと、心おきなく湯船を独占できるかもしれない。
冷えた体を肩まで湯に沈めると、これ以上のお湯はあるまいと思う。
暗い中、川のせせらぎが聞こえる。
空を仰ぐと、早い雲が風に流され、やがて星が見えてきた。
※ 現在は花湧館及び翠の湯はありません