榛名湖日記 その4 最終日  ◇群馬サファリパークでキリンにドキドキ◇


12月31日(火)2002年大晦日!!

 今朝は夜明け前に目を覚ました子供たちは、朝日が山を染めるのをわくわくと見ていた。今日もいいお天気だね。予報によるとこれから崩れ、東京など今夜から明日にかけて雪も降るらしいよ。


 ベランダに積もった雪が解けて凍って、つららができている。つららを手にして遊ぶカナとレナ。


 最後の日はどこで遊んで帰ろう。また2月には榛名湖に来るつもりだから、離れるのが寂しいからってそんなに泣かないで、カナ。

 そういえば夜中に、一昨日お世話になった紺碧七さんからメールが入っていて、上信越道を目指すなら、お勧めの温泉があるとのこと。また、甘楽近辺がガソリンが安く、ハイウェイオアシスららん藤岡には群馬のお土産で揃わないものはなく、特に葛湯の元「まゆこもり」お勧めとアドバイスが書かれていた(サンキュです)。

 榛名山を下るのに凍っていなさそうな南麓を降りようということで、最初に向かったのはここ。亀沢温泉センター


 倉渕村には二種類の泉質で知られる倉渕温泉や、オレンジ色の強力なくらぶち相間川温泉などがあるが、亀沢温泉は国道406号線から少し山間に分け入ったところにある一軒宿で、美人の湯という名称の元祖だそうだ。明治時代に湧いた温泉で、当時の古文書には「親の説教と亀沢の湯は後からじんわり効いてくる」とあるという。
 自ら看板に、「隠れた温泉の穴場」と堂々と書くあたり潔くてよいかもしれない。

 駐車場は雪が凍っていてつるつる滑るよ。


 建物はログハウス。新品ではなく、内部などむしろ年季の入った感じ。
 料金設定はかなり複雑。1時間ごとに決まっていて、平日と休日でも違う。清算は滞在した時間に応じて帰りに行う。

 男女別の内湯と露天風呂がある。内湯は洗い場のほか、規模は大きくないもののジャグジー、打たせ湯、泡沫湯、寝湯など揃っている。

 露天風呂は内湯からも脱衣所からも行かれるようになっていて、とても景色が良い。


 正面に杉林があるのだが、とにかく外の景色に対していっさい囲いが無いお風呂と言うのは、女湯では稀有だ。山の中ならではだね。
 今の時期、露天風呂はぬるいという張り紙もあったが、行ってみるとそれほどでもない。湯口からはまあまあ熱い湯が静かに石を伝って流れ出ている。
 無色透明。ごくごく細かい白い湯の花がわずかに、またそれよりちょっと大きめの茶色い湯の花がごくたまに浮いているだけで綺麗な湯だ。
 淡い純粋な灯油臭。薄い塩味とちょっと出汁の聞いた薄い硫黄の味。肌ざわりはほとんどにゅるにゅるもきしきしもしない。
 静かでいいなぁ。
 こんな景色をお風呂から独り占めなんて極楽だなぁ。

 ところでこのとき、カナとレナはパパと男湯に行っていた。
 レナは一昨日のリバートピア吉岡で、いきなり湯にとっぷりと顔をつけるという謎の入浴法を編み出し(頭・髪の毛は外に出ています)、何度も繰り返していたが、この亀沢温泉でもやっていたそうだ。姉のカナもそれを見て真似をしていたらしい。二人ともさぞや美人になっただろう(酸性泉やレジオネラ泉ではやってほしくない…)。
 美人の湯といえば、うたっているだけあって、ここも美肌効果覿面だ。
 初日の上牧風和の湯のようなつるんつるん感ではなく、パウダーをはたいたようなさらさら感だ。川中温泉にとても近い。


 
 さてお昼は富岡町に入って、国道沿いの橘源氏庵というところ。
 ちょっと珍しい「ざる黒うどん」と、鰻丼の「桶まぶし」。
 ざる黒うどんの黒い色は、炭なのだそうだ。口に入れたとき、ほんのりと炭の香りがする。

 次は子供の喜びそうな群馬サファリパークへ。
 ゲートをくぐるとまず駐車場代300円。そこから先は、車で巡るサファリゾーンと、ここの乗り物に券を買って使う小さな遊園地に分かれる。
 サファリゾーンは大人2,600円、子供1,300円、自家用車一台400円とかなりお高いが、せっかくだから入ってみよう。


 おっ、キリンだキリンだー。


 近づいてくる、近づいてくる…


 むぎゃぎゃ~っ。
 …キリン、車の屋根に首をどっかりと乗せて車のアンテナ舐めてます(笑)。
 いや~、フレンドリーなキリンでした。


 子供たち、夢中になる、の図です。


 ふれあいコーナーもあって小動物は餌やりも…。
 入園料は高いが、子供たちは満足。

 というところで、紺碧七さんお勧めの温泉に向かうことに。
 おばあちゃん一人できりもりしていて、念のため事前に電話した方が良いとメールにあったので電話してみた。
 「今日は立ち寄り湯させてもらえますか?」
 「お風呂だけならいいよ」
 「(紺碧七さんから立ち寄りは18時までと教えてもらっていたが念のため)何時までですか?」
 「そんなに遅くならなきゃ別にいいよ」
 これだけの会話を交わすのに何度同じ言葉を繰り返したことか…。ちょっと先行き不安である。


 アプローチは簡単だったが、「湯端温泉」の看板が出ている他はどう見てもただの民家。奥深い山の中でもなんでもなく、田舎道にぽつりとある。
 車を停めたパパは、ほんとにここでいいの?と怪訝顔。
 …そう言われると不安になる。

 入り口のドアをがらりと開けて更に不安は増す。
 外観よりはるかにオンボロな内部。いきなりタイムスリップしたかと思った。
「すいませーん」声を張り上げてみるが返事どころか人の気配ひとつない。
 玄関に「御用があれば押してください」とスイッチがあるが、もちろん押しても何の音沙汰も無い。パパが、これ、壊れているみたいだぞと言う。こんなパターンは初めてだ。特に群馬では小奇麗な施設ばかり巡ってきただけに面食らう。

 ええい、ままよ。
 勝手に靴を脱いで上がらせてもらう。右手はすぐ行き止まり。左に通路が続いている。
 「こんにちはー、すいませーん」
 相変わらず返事は無い。廊下をどんどん進んでいくが、主も客もいる様子が無い。

 あきらめて引き返そうかと思ったとき、ひょいと黄色い目が角から現れた。顔とお腹の白い黒猫だった。
 カナが近寄ると、怖がる様子も無く逆に寄ってきた。しかしレナがはしゃいで駆け寄ったら、さっと飛び退り、逃げ出した。追う子供たち。猫は角を曲がって階段を駆け上がる。子供たちも追って階段の上まで行ってしまった。


 廊下も凄かったが、階段も凄い。この通り、洗面器やら洗濯物がところかまわず放置してある。階段の一番上には洗っていない洗濯物の山らしきものが雪崩れており、一番下には、片方だけの穴の開いた靴下…。
 ここは本当に現役の温泉施設なのだろうか…。

 階段の下まで来ると、廊下の先で何か音が聞こえた。どうもこの先に宿の主がいるらしい。
 「すいませーん」
 まだ返事は無い。耳が遠いのかもしれない。
 物音は廊下の左手から聞こえる。角を覗くと土間のようなところが見えて、手前には厨房らしい部屋があった。まあこの厨房も火事場泥棒にあった後みたいなありさまだったのだが、ここで再度、「こんにちはー」と声を張り上げると、
「あら」とようやく返事があった。
 腰は曲がっているものの、とても元気そうなおばあちゃんだ。

「はいはい、お風呂ね、大人500円、子供300円」
 一応男湯と女湯とあるようだが、女湯らしいピンクのタイルの方を先に見て、お湯の温度が芳しくなかったらしく、男湯の方に案内された。
 まあ、浴槽は見ての通りのサイズ。家庭用を気持ち程度大きくした感じ。飾り気が無いのはいいけど、窓のところには前の客が放置していったのか、使い捨ての剃刀が二つぐらい、あと使用済みの歯ブラシやら歯ブラシの入っていたビニール袋やら転がっているし、せせこましい脱衣所には色あせた柄の違う足拭きマットが三枚くらいあったのだが、白い粉がいっぱいついていたので何かと思えば天井の漆喰がぼろぼろでひびが入ってこぼれ落ちてきているのだ。
 …はたしてあのおばあちゃん、掃除とかしているのだろうか…。


 お湯は冷鉱泉なので沸かしているようだが、ちょっと熱かったので少し水を入れた。浴槽の真ん中の壁のところに下向きの赤い矢印が見えると思うが、ちょうどこのあたりの浴槽内の壁に二つほど穴が開いていて、そこから熱い湯が出てくる。
「ぬるくないー?」とおばあちゃん。
「大丈夫ー」
 とくにきしきしもにゅるにゅるもしない。磯海苔の香りのする湯で、味は香りほどには強くないごく薄い塩味。無色透明。

 なにやら妙に落ち着かない。洗い場にも使いかけのシャンプーだのボロボロのスポンジなど適当に置いてあるからかもしれない。
パパが「まあ、家族揃って入れたし」と言ったので、そういえば今回初めて家族全員で入ったなと思った。夏休みの東北旅行以来だった。

 脱衣所で着替えている間にも、ドアのすりガラスに猫が足を掛けて早く出て来いと呼んでいるのが判る。
 子供たちは服を着るのももどかしく、親もおいて猫を追いかけて出て行ってしまう。


 湯端温泉休憩室のテーブル下にて…。
 なんとこの温泉、さびれ尽くした様子や風呂場のサイズからは想像もつかなかったが、和室の休憩室を備えている(だからといって赤ちゃん連れには決して薦めない)。
 まあ、休憩室というか、宴会場。カラオケ設備もついている。
 テレビにも出たらしく、芸能人と写ったその時の写真や、湯端温泉小唄なんてものも貼ってある。活気のあった時代もあるのだろう。



 そのうえお土産まで頂いてしまった。子供たちにりんごを二つ。
「また、おいでね」なんて言われるとね…。
 いやはや最後は笑顔になったけど、最初はどうなることかと思った。
 接客担当の黒猫は、クーパーという名前。木に登ってスズメを取るのが得意なのだそうだ。おりこうさんで随分娘たちと遊んでくれた。帰りもずーっと見送ってくれたよ。

 話の種には良いが、2002年最後の湯にするにはあまりに凄まじかった湯端温泉なので、勢いでもうひとつ温泉に入っていくことにした。
 湯端温泉からも近く、吉井ICまで車で5分という立地条件にある、吉井温泉 牛伏の湯


 ここは金曜日の午後6時過ぎに入館すると、入館料に炒飯などの食事がサービスにつく。今日、大晦日も、6時過ぎなら年越し蕎麦がサービスだったが、残念ながらまだ4時過ぎ。
 疲れたレナが到着前に寝てしまったので、そうっと降ろし、そのまま休憩室に運んだ。ここは休憩室も広く使いやすい。既に地元の方らしいお客さんが大勢入っていた。

 レナが寝ているので大人は交代でゆっくり入った。
 塩化物強塩泉で、かなりしょっぱい湯だ。今回入った中で、一番にゅるにゅるしている。
 内湯は石で出来ていてかなり大きい。露天風呂は箱庭風の周りに囲いがあるが、囲いの向こうの木々も見える。もう暗くなりかけていたので、あまり景色はよく判らなかったが、手前に落葉樹があるので、紅葉など綺麗だと思う。わりと開放感もあって良い露天風呂だ。
 臭いは弱い海水風。味は磯海苔と塩味。さっきの湯端温泉もそうだったが、海から遠いこのあたりの温泉は、何故か海っぽい。

 大晦日にここでこの時間に立ち寄り湯している観光客は少ないのだろう。みな地元の方らしく、里帰りしてきた孫自慢などしていて微笑ましい。子連れ、三世代なども多いようだ。
 湯上りは塩分の濃い温泉らしく、あがった直後に相当肌がひりつき、よく温まる。ここの湯は、温泉法で規定された成分が6種類も入っているのが自慢なのだそうだ。

 上信越道に乗ったら、道の先で事故渋滞との表示。
 渋滞が消えるまで、紺碧七さんお勧めの、ハイウェイオアシス・ららん藤岡に入ってみよう。
 ららん藤岡はサービスエリアとしてだけでなく、小さな観覧車など、子供の喜びそうな遊具もあり、高速からも一般道からも出入りできる。
 もう夜なので、遊具は動いていなかったが、イルミネーションが綺麗だ。


 大晦日ということでいろいろイベントをやっていた。昼間なら今日は観覧車にも無料で乗れたらしい。


 お囃子の音とともに、獅子舞が始まった。焚き火もあるので暖を取りながら見学。
 まもなく無料で年越し蕎麦と甘酒が振舞われるらしい。牛伏の湯では終始寝ていて夕食を食べ損なったレナもお蕎麦を食べられるかも…。


 ここで出たお蕎麦も、ちゃんと目の前で打っている。なかなか本格的だ。しかし高速道路で甘酒…? やばくないか?

 さあ今年の旅はこれでおしまい。2002年はどんな年だった? 楽しかった? また行こうね。


おしまい

 リアルタイムでこの旅行記を読んでくださった皆様、今年も大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

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