夏休み東北日記 九日目


8月2日(金)

 朝は水の流れる音で目覚める。
 子供の頃はお盆の時期になると、母の田舎である長野県へ毎年行っていたが、そこは沢沿いの古い建物で、馴れない枕で目覚めると、いつも沢音がして、外は明るいのに大雨だろうかと思ったことを思い出した。



 朝のランプ。つとめを終えて、回収されるのを待つ。

 昨夜はなんだかんだで、青荷にある全ての風呂を一人で回ってしまった。どこへ行ってもひとけが無く、そろそろ出ようかと思う頃に誰かがタオルを片手に入ってくるので、そのタイミングの良さに嬉しくなった。

 朝風呂はやっぱり一番好きな龍神の湯にしよう。
 館内を朝風呂の行き帰りらしい夫婦連れなど何人も行き来しているのに、今朝もまた龍神の湯はひっそりと静まり返っていた。
 窓から竜ヶ滝が正面に見える。だから龍神の湯なのだな。湯船の大岩を龍の頭に、滝の瀬を胴体に見立てているのだ。

 さて、今日のスケジュール。
 今日は青森を離れて、宮城の松島まで南下しなくてはならない。
 青森の最後の湯はどこにしよう。温川温泉か八甲田方面に行くか考えたが、パパが八甲田への道の方が走りやすかったし、ここを往復して黒石から高速に乗ると言うので、猿倉を選ぶことにした。今日は昨日とはうってかわって青空が見えているので、露天風呂に入りたい。


 昨日の酸ヶ湯を過ぎて、更に行くと、猿倉への分岐点が見えた。ここからすぐ。もっと山小屋風の建物を想像していたが、かなり新しい。本館の右手にはコテージ風の半独立の棟が並んでいる。
 酸ヶ湯は朝から混雑している風だったが、こちらは落ち着いている。入り口でビニール袋にキュウリを沢山詰めて、冷水で冷やしている。
 子供達は、ここにもカッパが遊びに来るのかな?とわくわく。


 振り返ると背後に八甲田。



 帳場からすぐのところに、露天風呂だけの入り口がある。こちらはそこの女湯。
 上と下に二つ浴槽があって、上はぬるめ、下は気持ち程度熱め。でもどちらも子供が入るのに適当な温度と深さだ。

 上の湯は、青みがかった白濁。しかし、底は見える。飲専用コップがあったので飲んでみると、ゆで卵のような匂いから想像されるとおりの、ゆで卵のような味。
 下の湯は、あまり濁っておらず透明度が高く、非常に綺麗な淡い青色。こちらは匂いも味も上の湯より少し薄く、白い細かい湯の花が少し舞っている。

 レナは上のぬるい湯が気に入り、一人で出たり入ったりしている。開けた展望はあまり無く斜面の緑を見て湯に浸かるという感じだ。
 カナはパパと入っていたが、レナと遊びたくなったらしく、一度出て女湯にやってきた。上の湯で二人で何時までも遊んでいる。仲がいいときは本当に仲良しなんだけど、すぐ喧嘩も始める。レナが風呂に入る際、猿倉の駐車場から石を一つ拾ってきたので、それを二人で洗ったりしていたが、今度は取り合いになったらしい。レナは傍若無人なので、しばしば姉のカナが泣かされる。
「レナちゃんが石を貸してくれない~」
二歳の妹に泣かされるとは情けない。

 酸ヶ湯などに比べるととても軽い感じの湯で、見た目のインパクトはあるが、のんびり何時までも入っていられそうだ。
 と、思ったら、男湯から「出るぞー」とパパの声。後でカナが、パパが出るって言ったのは、アブが来たからだって教えてくれた。女湯にはトンボと蝶しかいなかったよね。

 猿倉と言えば湯量が豊富なことでも知られる。
 十和田湖温泉郷の湯は猿倉が供給しているものだ。

 奥にも内湯と露天風呂があるというので、見に行ってみた。

 
 内湯は手前がぬる湯浴槽で、奥が熱い湯。ここには露天風呂もあって、たぶんここの男湯側が八甲田山を臨みながら入浴できる露天風呂になっているのだ。でも女湯の展望は、さっき入った方とさして変わらない。露天風呂はかなりぬるい。
 こちらの湯は白濁が強い感じだが、ぬる湯は特に黄色みがかった濁り湯だった。
 天然蒸し風呂というのもあってちょっと気になった。ドアを開けた感じは普通のサウナのようだけど、地面から出ている本物の蒸気を使っているのかな?

 これで青森ともお別れ。青森最後の湯は猿倉になった。
 また来たいな。でも本当に遠いな。
 青荷がいたく気に入ったカナは、また絶対連れてきてねと言っていた。蛍も見られなかったものね。ママだけ見たとは絶対に言うなとパパに口止めされているのであった。

 高速に入り津軽SAでいったん休憩。リンゴシャーベットを買って、子供達に食べさせる。器もリンゴだね。これが気に入ったカナは、その後プールにも風呂にもこのリンゴを持ち歩く。



 午後2時半、松島到着。チェックイン時間までにまだ30分ほどあるので、遅い昼食にしよう。


 松島さかな市場。
 ここなら新鮮な魚を食べられるだろうか。


 美味しそうな岩がき。他にもウニ、ホタテ、毛ガニ…待てよ、どうして海のそばなのに、ここに並んでいる魚介類は北海道産とか、日本海産とか、果てはアラスカ産とかなんだ?? ごく単純な疑問。
 この岩がきだって、秋田(日本海)産。ここは宮城(太平洋)じゃなかったっけ?


 一階に並んでいる魚介類を刺身など調理してもらって、二階で食べることも出来る。取りあえずイクラ丼とトロ丼。こっそりイクラをつまみ食いしているところをスクープ。

 松島の海が見える大型旅館にチェックイン。ざばっと雨が降った後なので、窓から見えるホテルのプールに子供達は興味津々だが、外には出られない。
 …と思っていたら、勇気ある親子が水着姿でプールサイドに現れた。
 それを見て、
「プール行く!!」とカナ。
「プーリュ行くぅ!!」とレナ。


 笑っちゃうのは、子供連れはみな同じように窓から機会をうかがっていたらしく、あっと言う間にわらわらと大勢の子供達がプールに現れたことだ。
 肌寒いし、まだ時々雨がぱらつくのにね。
 中央で泳いでいるのがカナ。プールサイドでお尻を振っているのがレナ。

 泳いで体が冷えた後は大浴場へ。どんなに浴槽が広くても、露天風呂もついていても、ここは温泉じゃない。水道水を湧かしただけの湯はつまらないなぁとひとりごちる。もう温泉無しではいられなくなってしまった。どうしよう。日常に戻れない。
 猿倉ではあんなに、出ない、もっと入っていると言っていたレナが、この風呂はまったく入りたがらない。体が冷えているので嫌がるのを無理矢理入れた。小さい子どもにも違いが判るのだろうか。


 ここの嬉しかったことは、子供達にも甚平を用意してくれたこと。
 子供用の浴衣がある宿もあるが、幼児用の甚平まではなかなかない。
 自分の分もあると、一人前に扱ってもらっているようで嬉しいんだよね。

 夕食は館内の和食処で。


 駄目。食べてるところ見ちゃ。
 一番大きなエビをまるまる取られてしまった。やはりレナ、美味しいところはすかさず貰っていくタイプ。

 天気が悪いと言うことは、少し体を休めよとの神様の計らいだね。

つづく


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