願いもむなしく十王堂の湯はやっぱり混んでいた。
昨日の真湯よりは浴室が広いが、真湯と同じ状態。数人の観光客のおばさま方が水の蛇口をいっぱいに捻って桶でかき回している。熱いのだろう。
近づいて、うわっちっと思わず悲鳴を上げそうになる。
昨日から沢山の外湯を回って、なんだ野沢温泉って言ってもそんなに熱くないやなんて高をくくっていたことを後悔する熱さ。
源泉に加えて加水の分、大量のお湯が浴槽の縁を越えてざばざば流れてくる。それがとにかく熱い。これはいくらなんでも入れない。
ふと、湯口の傍から伸びているパイプに気付き、昨日の河原湯で意外なところから水が出たことを思い出した私は、掛け流されてくる熱湯を乗り越えて、パイプの先に繋がるカランの傍の蛇口をひねった。
じゃばばばば。
そこからも勢いよく水が出てきた。
それでようやく少しだけ温度が下がって入れた。
入れたけど、入ったのは私だけで、かき回していた人たちはそれでも熱くて入れないと嘆き、結局桶ですくった源泉にカランの冷水を足して何度か掛け湯をした後、諦めて服を着て上がっていってしまった。
加水したとはいえ、やっぱり熱い。入ってはすぐに出て膝下を冷まさないと痛くなる。
何度か出たり入ったりして、でもついにゆっくり入れるほどの温度にはならなかった。
この旅行で最も熱かったのはこの早朝の十王堂の湯だった。