暖簾の下がった入り口から男女別。
入って直ぐに受付があって入浴券を入れる箱が置いてある。
病院にあるような衝立があって、簡素な脱衣所。女湯の先客は二名ほどらしい。
「失礼しまーす」
タイル貼りの、いかにも共同浴場らしい佇まいの浴槽だ。
角を丸めた四角形をしていて、中央に湯口。背中合わせに二本のパイプがあってそこからどぼどぼとお湯が出ている。
湯口の下に温度計がついていて、えーと・・・46度を指していた。
熱いかな。
しかし恐る恐るお湯を掛けるとまるで熱くない。
2、3回かぶって、すぐに中に入った。
無色透明。すんなりと肌に馴染む。ああいいお湯だ。
石の甘いような臭いは
新飯坂のお湯より少し淡いような気がする。
しゃきっと目の覚める湯だ。
先客は桶で湯口の湯を汲んでいるが、両手に桶を持って、二つある湯口両方からいっぺんに汲んでいるのを見て笑ってしまった。
上がるとすぐに常連さんの一人も上がってきた。
「今日のお湯はぬるめですか?」
「そうねぇ、ちょっとぬるかったかしら。日によって違うのよね」
やっぱりぬるいと感じたのは気のせいではなかったか。でもそれにしては温度計が46度を指していたのが解せない。それとも地元の人にとっては46度などぬるくて入っていられないというところか。
何しろ二年前、朝一番の
鯖湖湯に入ったときは私も熱くて熱くて飛び出しそうになったから。
それでも何とか加水せずに入ってみたが、掛け湯しただけで足は真っ赤。入ったら体中ひりひりで膝下は痛んだ。
だから
八幡の湯もそのくらいの熱湯を覚悟していたのに拍子抜けだ。いや別にこのくらいの温度はそれはそれでゆったり入れるから良いのだが。
「どちらから?」
「東京からです。昨夜は飯坂の旅館に泊まって・・・」
「旅館のお風呂は循環だったでしょ。ここのお湯の方がずっといいわよ」
・・・そうなんだ。飯坂温泉の旅館には循環湯が多いのか。団体客など多いと如何にも浴槽を大きくしそうだし、最盛期にはどこも循環装置を設置するお金も有り余っていたからか。でもどちらかと言えば繊細で奥ゆかしい飯坂温泉のお湯を軽々しく循環しては益々良さが判らなくなってしまうんじゃないだろうか。
「あっ、一応泊まった旅館は掛け流しだったみたいです」
「あらそうなの」
意外だったみたいだ。
「でもここみたいに沢山は出ていなかったでしょう。熱いけど、その分新鮮なのよ」常連の奥さんは嬉しそうに言った。
「私はね、自宅のお風呂に入るとすぐに肌が痒くなってしまうの。でも共同浴場に来るとすぐに治るのね。一回入っただけで数日効き目があるわ。それに飯坂のお湯は無色透明だから髪を洗うのにもいいのよ」
確かに新飯坂はシャワーも源泉だったから、昨夜は私も温泉で髪を洗ったことになる。普通備え付けのリンスインシャンプーなど使うと翌朝ごわごわになって仕方ないが、不思議と今朝はふっくらすべすべしていた。飯坂の湯で髪を洗うっていうのはなかなかどうしてポイントが高いかもしれない。肌に良い湯は髪にも良さそうだ。