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◆がんばれ新潟 雪国に春は来たか◆3-10


10.兎口源泉 植木屋旅館

 食後は松之山の兎口源泉、植木屋旅館に行くことにした。
 目の前の町営温泉センター鷹の湯にも後ろ髪が引かれたが、自遊人付録のパスポートで無料になる方を選んでしまった。
 ここは敷地内に町営の翠の湯という露天風呂があるが冬季は閉鎖。今日もせっかくの晴天なのに露天風呂には縁がないようだ。

 松之山温泉街を少し戻って、じょうもんの湯おふくろ館と町営露天風呂翠の湯の看板に従って山の方へ曲がる。
 雪で見通しの悪い道。社の前で曲がる。町営翠の湯は冬季閉鎖中なので露天風呂は入れないとの看板が手前にあった。
 駐車場はすっかり雪の壁に囲われている。なかなか車から降りてこない子供たちをおいて、先に一人で坂の上の建物へ向かう。
 植木屋旅館は鄙びた外観。
 なんとなく建物は、同じように古くても、凌雲閣のような高級さはなく、むしろ庶民的な気安さがある。
 出てきた女将さんに日帰り入浴はできるかうかがうと、先回りするかのように向こうからパスポートなどお持ちではないですか?と聞かれてしまった。
 「大人二人分はあります。子供が小学生と幼稚園生なのですが」
 「お子さんの分は宜しいですよ、どうぞお入り下さい」
 本当に家族四人、タダで宜しいのですか? ありがとうございますー。

 入り口で雪遊びをしていたカナとレナを呼び寄せて、いかにも古そうな浴室へ向かった。
 先客が二人ほどいたが既に上がるところだった。
 がらがらと戸を開けて中を見ると、狭いながらもいい感じに色づいた木造の浴室。四角い木の浴槽が二つ並んでいて、鈍い緑色の濁り湯がなみなみと満たされていた。
 さっき女将さんが「熱かったら水でうめて下さいね、特に女湯は熱いかもしれません」と言っていたので、どれほど熱い湯かと思ったら、あれ、意外に熱くない。
 手前のお風呂は湯口があり、奥からも何やらぼこりぼこりと間欠的に大きな泡が浮いてくる。
 奥のお風呂は何となくぬるそうに思えたのでこちらに手を入れて温度を確認した上で、シャワーを掛けた子供たちを入れてみた。
 うん適温。
 いい気持ち。
 濁りが強いので足下はおろかお湯の中は何も見えない。
 結構深くて、100センチそこそこのレナは首までぎりぎりだった。


植木屋旅館外観。旅館棟は車の左側に入り口があって、建物の左側に冬季閉鎖の町営露天風呂翠の湯の受付がある 下は男湯。基本的には女湯も同じ作り


 松之山にしてはいわゆるアブラ臭はそんなに強くない。
 でも濃度は凄い。
 傷がなくても体のあちこちがぴりぴりとしみるくらい塩分濃度が濃い。すべすべとする感じも強い。
 浴槽の中は析出物であちこちとげとげしていて、うっかり寄りかかると痛くて仕方なかったりする。

 ここに入ったまま、隣の浴槽に手を入れてみた。
 熱いよぉ。
 これは熱い。
 掛け湯をして入ってみたが3秒と入っていられない。しかもひりひりずきずき。
 おかしいなぁ、兎口源泉って40度も無いはず・・・女将さん熱いって言ってたけどどうしてこんなに熱いんだろう。
 意を決して湯口の湯に触ってみると・・・あれ? こっちは熱くない・・・どころか、水みたいだ。これが源泉かな。
 ちょっと飲んでみると、美味しい塩味にちょっとしゅわっとする感じがある。
 濁って何も見えないし、ぬるい湯が注がれている浴槽は激熱だし、適温の浴槽は男湯と変則的に繋がっているし(手をつっこめば男湯からも見える)、その繋がっているところの壁が異様に熱かったりして、ここのお湯の流れはどこがどうなっているやらさっぱり判らないが、とにもかくにも極上の温泉であることは間違いない。
 男湯ではパパが「先にあがるよ」と一声、さっさと上がってしまったようだが、子供たちも気に入っているようなのでもうしばらくここでゆっくりしていよう。
 床の簀の子も木、湯気の抜ける高い天井も木、雪国に木造の温泉は何ともしっくり決まっている。 


こちらは女湯。カナとレナ、入浴中。
下の湯口からは源泉が出ている。水みたいにぬるい。 天井も木で、湯気が抜けるように高くなっている。




3-11.棚田と、おゆまるへ続く


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