宿に戻って昼食を食べて、今度は2時の回の
時間湯に行くことにした。
本当はパパと一緒に行こうと思っていたのだが、パパはこの回は
千代の湯に井田湯長がいらっしゃると聞いて、やっぱり行かないと言い出した。
「どうして?」
「もう飲んじゃったしさぁ」
時間湯にアルコールは厳禁なのだ。飲んじゃったんじゃ仕方ない。
紺碧七さんと義満さんと三人で行くことにした。
ちなみにパパは、まだ共同浴場に入ってないと言うしんたさんを、だださんと二人で
喜美の湯に案内することにしたようだ。
千代の湯に着くと、まずドアを開けたところに井田湯長が立っていた。
紺碧七さんが当時関係の話を始めたので、私は挨拶だけにして女性用脱衣所に入った。
既に二人の女性がストーブの周りに座っている。後からもう一人、
時間湯は初めてだという体験者の女性が入ってきて、全部で四人になった。
先に入らしたお二人のうち一人は短期集中湯治中でこの一週間
千代の湯に通い続けていらっしゃるそうだ。
今回も神棚へのお参りの後は湯もみから始まった。
体験入浴の場合、湯もみはやるときとやらないときがある。ほとんど湯造りは湯長さんたちがやってくれているので、半分はデモンストレーションかなと思っている。
もちろん本格的な湯治の場合は体力チェックから事前運動も兼ねて湯もみは必要だし、ベテラン湯治人は湯もみもベテランなので、体験の場合とは根本的な異なってくるが。
男性陣が入湯を終えて、女性の番になった。
千代の湯では可能な限り男女別浴にしているので、どうしても女性は2番湯になってしまう。前回の旅行の時は特別な温度で入湯する湯治の人もいらしたので4番湯になってしまったこともある。それは仕方ない。
今回案内された場所は上段の湯口から遠い方だった。湯口の近くは誰も入らず、湯もみ板が隣の槽まで渡してある。だから湯口から出た熱いお湯がそこをつたって私の入るべき枠の中に直接流れ込んでくる。
湯長や副湯長は入湯する全員の体調や症状にあわせて入る場所を決める。
ここは私に合わせて調節してくれたお湯だということになる。
副湯長の号令でみんな柄杓を手にした。
ざぶんざぶんと頭からお湯をかぶる。
30回。
それから足下などを流して、いっせいに入湯した。
いつも千代の湯は熱くない。
もちろんそれは私が入るときはということだが。
ちょうど良い湯加減。まるで辛くない。
副湯長の号令に「オーッ」と返す。
えーと、どこで「ありがたーい」って言うんだっけ。
もう一度脱衣所の張り紙をよく読んで来るんだった。
後悔しても遅いや。
「さあ効きましたらそろそろ上がりましょう」
縁に手を掛けてゆっくり上がる。
地蔵の湯だとこのときが一番辛くて、ひりひりと痛む臑に揺れたお湯が当たるだけで悲鳴を上げたくなる。
でも千代の湯ならへっちゃら。
副湯長は湯上がりの私に「もしかして物足りなかったですか?」と声を掛けた。
いやいやとんでもない。
いいお湯でした。
どうもありがとう。
脱衣所に戻ると、何度も来ているというお二人は、バスタオルやショールをぐるぐると巻いて休んだ。
初めてだという体験の人は、先輩のアドバイスを受けてストーブの側でバスタオルをかぶった。
本当は汗を出せるだけ出し切った方が良いのだが、どうしても寒い季節は冷えるのが早い。
私もしばらくは2枚のバスタオルをかぶっていたが、諦めて服を着てしまった。
千代の湯の時間湯の後は肌がつやつやになる。
すべすべ温泉に入って肌触りがよくなるっていうのとは違って、しっとりとして、こう見た目的につやが出る。
この効果は共同浴場では得られない。
地蔵の湯でもちょっと違うような気がする。地蔵はむしろ肩こりによく効く。
同じ草津の湯だし、余所の温泉と比較すれば千代でも地蔵でも他の草津の湯でもみんなそれほど成分に違いは無いだろうに、こんなにも効果に違いがあることに驚かされる。