■草津温泉・時間湯体験について■


【1.私と時間湯体験について】

 2006年6月、時間湯で週末湯治を行っている友人の晶さんのお誘いで、一日二回二日間、計四回の時間湯を体験しました。
 たかが四回ではありますが、時間湯に興味を持たれた方のためにそのときの記録を残したいと思います。

【2.時間湯概要】

 時間湯とは、幕末から明治頃にかけて草津温泉で始められた入浴法です。
 湯もみ板と呼ばれる木の板で湯をもみ、決められた手順に従い掛け湯を行い、高温の湯に一斉に入浴し、3分で上がるというものです。その全ての行程を、湯長と呼ばれる指導者の号令の元に行います。
 アトピーなどの皮膚疾患を始め、いろいろな症状に対し、多くの効果があると言われています。

 私は時間湯というものを、名前は知っていましたが、それ以上のものではありませんでした。
 なんとなく過去のものだと思っていたこともありますし、また初めて草津の共同浴場を訪れたとき、こんな張り紙を見て、敷居の高さというか、真剣に湯治を考えている人以外は関係無いと言ったような疎外感も感じていました。
 張り紙にはこう書かれていました。
 「こちらのお風呂は湯治用です。湯治目的の方以外は固くお断りいたします」

 まあ今でも、申し込みもせず、興味本位で勝手にドアを開けたりしてはいけません。
 時間湯の扉の中では、今日も江戸時代と変わらず、草津のお湯の効果を信じる草津節が響き、湯もみ板が舞っているのですから。

 草津時間湯は、今も現役なのです。

【3.井田湯長】

 ぱっと見は、ちょっと近寄りがたいです。
 怖そうな感じです。
 でも話してみると決して怖いところはなく気さくな雰囲気の方でした。

 地蔵の湯の湯長さんです。
 時間湯の指導者です。
 時間湯に入る人たちに号令をかけます。
 でもそれだけではありません。
 はい、ストップウォッチを見ながら時間になったら号令を掛けるだけなら誰にでもできます。
 湯長という仕事は、そんな簡単なものではないのです。

 高温の湯に入ることにはそれなりの危険が伴います。
 時間湯に入る人たち全ての健康をチェック、その人その人に合わせた湯を準備(温度や湯もみ状態など)、その人その人に合わせた入り方を指導、入浴中は全員の様子を見て、必要に応じて途中で上げさせたりします。
 正直、時間湯前のお湯の準備だけで大変な肉体労働だと思います。
 さらに、湯治者の生活指導やアドバイスも行います。
 つまり湯治生活全体の教師役なのです。

 しかも、時間湯の湯長というのは代々、時間湯湯治の経験者の中から引き継がれています。
 つまり、時間湯の辛さも時間湯の効果も身をもって体験した方が指導して下さるのです。また、本人の姿が症状が改善した見本でもあるのです。
 井田湯長も交通事故のリハビリを時間湯で行ってきた方だそうです。
 でも今は車椅子生活を余儀なくされていたとはとても思えません。

 井田湯長のお話を伺う機会がありました。

 「症状が改善して時間湯を卒業していく仲間がいます。
  それきり便りが無くても、それは望ましいことです。
  なぜなら、時間湯の目指すところは、一人でも多くの仲間が普通に生活していくことができるようになることですから」

【4.時間湯はどこで行うか】

 正式な時間湯は、現在は地蔵の湯と千代の湯の2ヶ所で行われています。
 地蔵の湯は長期湯治を専門に、千代の湯は短期湯治及び体験時間湯を行っています。
 場所はそれぞれ、共同浴場の地蔵の湯の建物内にある時間湯浴場、及び共同浴場の千代の湯の建物内にある時間湯浴場です。

【5.体験としての時間湯】

 時間湯体験は気軽にできます。
 真剣に湯治を考えている人はもちろん、湯治目的でなくてもOKです。
 場所は千代の湯です。
 当日申し込みも可能。
 大滝乃湯でチケットも販売しています。

 連絡先 0279-88-2508(午前9時~午後5時)
 時間湯を行う時間 午前9時、午前11時、午後2時、午後5時(各 5分前までに集合)
 持ち物 タオル1枚、バスタオル2枚
 体験料 一人1回 550円
 ※ 特に女性は、バスタオル1枚は普通のバスタオルではなく、ゴムの入ったタオルか肩の部分のついたタオルワンピースのようなものだと尚良いです。
 ※ またタオル類はびしょびしょになるかもしれませんので、ビニール袋もあると良いでしょう。
 ※ 大量に汗をかくので水またはお茶(無糖)のペットボトルも用意すると良いです。但し、あえて温めて飲みますので、冷やしておく必要はありません。


追記

地蔵の湯での時間湯体験について

 湯治について考えておられる方は、地蔵の湯での体験入湯も可能ですが、いくつか注意点があります。
・実際に湯治をしている方と一緒の入湯になりますので、湯治をしている方が常に優先だということをご承知の上、お申し込み下さい。
・湯治中の方々の都合や状況によっては体験を受け付けられないこともあります。
・湯治中の方の温度にあわせた入湯となりますので、47度前後の高温での体験となります(千代の湯の体験の場合は45度以内となります)。
・高温での入湯や、時間湯入湯手順について、不安をお持ちの場合は、千代の湯での体験をお勧めいたします。
・また、気軽に時間湯体験をしてみたい方にも千代の湯の方での体験をお勧めいたします。
・地蔵の湯の体験料や体験可能日時については、直接、時間湯にお問い合わせ下さい。
※ 私の体験記は、千代の湯・地蔵の湯、両方での体験に基づいてまとめさせていただいております。

【6.体験前に】

 いよいよ具体的な時間湯体験の話に入ります。
 時間湯の脱衣所は男女別です(浴室は基本的に混浴になります)。
 先に時間湯とその手順についての説明があります。よく聞いておいて下さい。心配なことがあったら質問すると良いと思います。

 また健康状態について湯長さんからいろいろ聞かれると思いますのできちんと答えます。
 血圧を測ることもあります。
 私はこのとき一ヶ月前から胃腸の調子が悪かったので、そのこともきちんとお伝えしました。

 ちなみに高温のお湯に入るので、体験前にお酒を飲むのはやめておきましょう。

 脱衣所で体にバスタオルを巻いて準備しておきます。
 女性は前述の通り、ゴム入りバスタオルか肩の付いたワンピース型のタオルがあると、湯もみのときにはだけなくて良いです。

【7.一番湯・二番湯】

 呼ばれたら浴室へ入ります。
 バスタオルをしっかり巻いて、手に手拭いサイズのタオルを持っていって下さい。

 千代の湯の時間湯浴場は、それだけで一見の価値有りです。
 板で四角く区切られた浴槽も天井も壁も、年季の入った木造でそれはいい色を出しています。
 でも写真撮影は禁止です。
 ここは真剣に病気を治すための神聖な場所なので。

 隅に神棚がありますので、湯長(副湯長)さんの指示に従って手を合わせましょう。

 さて、時間湯には一番湯と二番湯があります。
 一番湯の方が鮮度ぴちぴち温度も高いはずです。
 (昔は一番湯を争って喧嘩になったこともあると聞きましたよ)
 また、下で全部繋がってはいますが、湯口に近い浴槽が、より鮮度が高くて温度が高いことになります。

 一番湯に入るか二番湯に入るか、また浴槽のどの位置に入るかは、その人の症状や状況に合わせて湯長さんが決定します。

 湯治の方たちと一緒に入湯する場合は、体験の人は二番湯になったり、一番湯口から遠いところに入ることになると思います。
 そりゃまあ、お湯が良ければ良いほど時間湯はきついですから。
 体験の人たちだけの場合は、最初から初心者向けにしてもらえると思います。
 この場合は男女別に一番湯と二番湯と別れるパターンが多いかもしれません。

 私の場合は四回のうち三回は二番湯でした。最後の一回は一番湯に入らせてもらえました。
 最初の三回と違って最後の一回は猛烈にきつかったです。その分すごく効いたような気がしました。
 馴れてきたはずなのに何でだろう? と思ったのですが、みんなに「憧れの一番湯に入れたね」と言われてようやくその違いが判りました。

【8.湯もみ】

 湯畑前の「踊りと湯もみショー」でも、湯もみを体験することはできます。
 あっ、私はまだショーでやったことがないんですけどね。

 草津節か草津小唄か草津揉み歌を歌ってそのリズムに合わせて木の板でお湯をざぶーんざぶーんとひっくり返すのです。
 草津節は「草津よいとこ一度はおいで♪」ってやつですね。

 でもこれには重要な役目があるのです。

 ひとつはお湯を作ること。

 千代の湯に引かれている湯畑源泉も地蔵の湯に引かれている地蔵源泉も、湧き立てのものにそのまま入るには熱すぎます。
 旅館や共同浴場で有れば、溜め置いて冷ますとか、加水して冷ますとかあるのですが、時間湯のお湯は一番良いところをそのまま直で引っ張っています。
 だから湯もみして温度を冷ますわけですね。
 それだけじゃありません。
 湯もみで濃度を濃くして、また湯の花を人為的に作ることによって、高温でも体感温度を下げることができるのだそうです。
 この辺は「技」ですね。
 正直、時間湯体験の人では、お湯の温度を下げるのがせいいっぱいです。
 でも大丈夫、時間湯スタート前に湯長さんたちがきちんと「湯づくり」しておいてくれますから、心配ないです。

 もう一つの役目は、準備運動。

 プールに入る前と一緒ですよ。
 いきなり入るのではなく、先に体を動かしておくのが良いのです。
 さらに浴室の硫化水素を呼気から吸引する効果もあります。

 しかし実際にやってみると、これはなかなか重労働です。
 湯もみ板は松でできていますが、意外に大きくて重いです。
 でもってこれをお湯の中にまず縦にして突っ込み、水平にしてお湯を乗せて持ち上げ、ざばんとひっくり返すわけですが、言うのは易く、やるのは辛い。
 空気中でも重い板は、お湯の中では勝手に泳いでしまって全然言うことを聞きません。
 かなり足腰と腕の力がいります。
 女性は馴れないとへなちょこな湯もみになっちゃうと思いますが、仕方ないでしょう。
 ちなみに湯畑前の観光客向け「湯もみと踊りショー」の湯もみ板は、本場の時間湯の湯もみ板より小さくて軽いそうですよ。
 本物は重厚です。

 千代の湯の浴槽の縁は、すっかり湯もみ板で削られています。
 これも時間湯浴場の歴史というものですね。

 ところで誰かが歌わないと湯もみは始まりません。
 歌う人は湯長が指名するそうですが、自信のある方は、時間湯前のディスカッションで立候補してみては?

 あんまり調子を外すと、みんな腰砕けになっちゃいますけどね(笑)。
 実際、私が湯もみしたときも一度、あまりに調子っぱずれな歌を歌われた方がいらして、時間湯浴場、大爆笑の渦となってしまったことがありました。

【9.掛け湯】

 次は掛け湯です。
 普通お風呂に入るときのように、心臓に遠いところから順に胴体に掛けてはいけません。これにも決まり事があります。

 まず持ってきた手拭いサイズのタオルを頭に乗せます。
 畳んで乗せるのではなく、はらりとかぶるように乗せます。
 ちなみに私は落ちないようにそれを顎の下で結ぶのかと思って、やったら止められました(笑)。これではドロボウみたいです。みなさんは結ばないで下さい。

 そして、湯船の縁に近づき、桶で頭からお湯を掛けます。
 30回掛けます。

 いきなり「やって下さい」と言われたときは躊躇しました。

 だって目の前の浴槽のお湯は普段入っているお風呂のお湯よりずっと高温だし、酸性のお湯を頭からかぶったことなんて無かったからです。
 本当にこれ、掛けても大丈夫かな、と思いますよね(大丈夫です、安心して下さい)。

 とにかく無我夢中でお湯をかぶりました。
 思ったほど熱くないです。体と違って頭はそれほど熱さに敏感ではないようです。
 数が判らなくなるといけないので、最初は声に出して数えていましたが、そうすると口からお湯が入ってくるので途中から声を出さずにカウントしました。何となく、草津の酸性泉が口の中に入ると歯に良くない気がして(笑)。それほど気にしなくて良いのでしょうけど。
 目を開けていると目にも入ってきそうなので、ぎゅっと目をつぶりました。
 そうすると今度は鼻から入って来るんですよね。
 やっぱり最後は口を開けて掛けていました。

 このときなるべく体にかからないように注意して、頭だけにお湯を掛けるのがポイントです。

 たまにタオルがずれて落ちますが、タオル無しで頭から掛けると、流石に少し熱いしのぼせやすいので気をつけましょう。

 頭からお湯を掛けることによって、効率的に体の血管が開きます。これから入浴する時間湯の効き目が高くなるわけです。

 後から思いましたが、栃木県の那須湯本温泉鹿の湯にも頭からお湯を掛ける伝統の入浴法があります。私が行ったときも木の柄に金属のついた「マイ柄杓」を持っている常連さんがいるのを見ました。
 あそこも酸性泉だし46~48度など高温の浴槽があります。
 もしかしたら時間湯に似た特別な療養入浴法が伝わっているのかもしれませんね。

 30回頭からお湯を掛け終わったら、次は軽く下半身をお湯で流します。
 汚れを落とすような感じです。
 このときもできるだけ胴体の部分にお湯が掛からないように注意します。

【10.入浴】

 湯長さんがその人のその人の症状や体調にあわせて入浴する場所を決めます。
 少ないときは板で区切られたそれぞれの浴槽ひとつを占拠できますが、大勢で一斉に入浴するときは一ヶ所に二人ずつぐらい入ることもあります。その場合は「あなたの頭の位置はこちらで体はこっち向き」と具体的に教えてもらえると思います。

 男性と女性は湯長さんの左右に分かれるので、仕切があって入浴中はお互いが見えません。

 号令はこうです。
「支度が宜しければ、ソロソロ下がりましょう」

 これが聞こえたら、「オー」と返事をして、ゆっくりとお湯の中に入ります。

 プールのように深いので注意です。

 流石に熱いです。相当熱いです。
 それでもまだ、入ったばかりの時は体も冷えているのでそれほど辛くはありません。

 全身が入ったら浴槽の縁に頭を乗せます。そして体を伸ばすようにして、両足と両腕をそれぞれ離すようにします。膝の裏や脇の下など、体の全表面がお湯と接触するように。
 そのために体を曲げずに入れるように時間湯のお風呂は深くなっているのです。
 私は足も浮かさなくてはいけないのかと思って苦労しましたが、足は浴槽の底につけていいんだそうです。足と頭で体を固定するのが良い体勢のようです。

【11.3分間の辛抱】

 さて、時間湯入浴はは3分間です。

 湯長さんの号令は、

 みんなが入り終えたときに、「揃って三分~」
 入浴者は「オー」と声を合わせて返事をします。

 一分が過ぎたところで「改正の二分~」
 「オー」

 二分が過ぎたところで「限って一分~」
 「オー」

 二分三十秒が過ぎたところで「チックリ御辛抱~」
 「オー」
 何故かチックリなのです。ジックリじゃないんですよねー。

 二分四十五秒が過ぎたところで「辛抱のしどころ~」
 「オー」
 本当にここら辺は辛抱のしどころです。そろそろ限界です。

 二分五十秒が過ぎたところで「もうじきです」
 お返事はオーではなくて「ありがたーい」です。
 でも、絶対そんな余裕はありませんから「オー」と返事をしてもOKです。
 他にベテラン湯治者の方がいらっしゃるときは、ワンテンポ遅れて一緒に「ありがたーい」と言っておけば大丈夫です。
 逆にお湯の温度が自分の限界より遙かにぬるかった場合は、思わず「いい湯だな~」と言ってしまいそうになることもありますが、それはNGです(笑)。
 ラストの10秒はとてつもなく長く感じます。

 二分五十五秒が過ぎたところで「如何ですかー?」
 お返事は「効きましたー」
 これも判らなかったら「オー」でも大丈夫だそうです。
 このころには本当に「き、効きました~」という感じになっています。
 かけ声の間合いが途中から短くなるのがミソです。
 でもそうでもしないと耐えられません。
 それもみんなでやっているから3分入っていられるのだと思います。
 また、かけ声を出すことによって硫化水素を吸入する効果もあります。

 三分が過ぎたところで「さあ効きましたらソロソロ上がりましょう」と最後の号令が掛かりますので、それを合図に湯から上がります。
 長い長い3分間がこれでようやく終わりです。

 熱湯は自分の膚の下にある編み目のような血管を意識させ、それらが活性化されて膨張していくのが判るような気がします。
 見えているのは湯気の登っていく天井だけで、研ぎ澄まされた湯が体中に浸透していくようです。
 3分という時間は、最初の一回は短く感じましたが、四回のうち後半に行くほど引き延ばされたように長く感じました。

 私の場合は最初、指先や足先などがちりちりと軽く痛み、それから最後の30秒、猛烈に膝下が痛みます。
 膝から足首までの表面が、触ったら飛び上がるくらいに痛くなります。これは時間湯に限らず、熱いお湯に入るとだいたい同じです。もしかしたらここが一番血の循環が悪いのかも。
 他の人にも聞いてみましたが、私と違って末端に痛みを感じる人が多いようです。

【12.入浴後】

 お湯から上がると私なんかは放心してしまって、しばらく動けないのですが、湯長さんが背中に熱い蒸しタオルを掛けてくれたりします。
 私の夫はこれが猛烈に気持ちいいと言っていました。
 それから脱衣所に戻るのですが、この脱衣所は夏でも真ん中にストーブが置いてあったりします。
 ただでさえ熱い時間湯を終えた後で暑いのに、益々暑いことになります。

 でもこれも大事なんだそうです。
 汗を出し切ること、体を冷やさないこと。
 今、デトックスブームですが、時間湯は究極の毒出しです。

 水分補給も大切です。
 でもここで冷えたものを飲んではいけません。持ち込んだペットボトルもお湯につけてぬるめてありますので、それを飲みます。
 私なんかはどっと疲れちゃって、水分を補給する気力も無くなっていました。

 脱衣所で湯治中の方たちにお会いすることもあります。
 みなさん非常に前向きです。
 例えが巧くないかもしれませんが、スポーツで限界を目指す人々のように、目標を持っているので苦しくても日々自分が一歩ずつ先へ進んでいるのが実感できるからなのだと思います。
 自分自身が治ることは、他の人の希望にもなることと、それもあるのかもしれません。
 時間湯は薬で治すのと違い、自分の中にある力を高め、引き出すことを目的としているからなのかもしれません。

 ある人は、仕事を続けられないほど酷いアトピーだったと伺いましたが、時間湯を続けてきたためか、そんな話が信じられないほど健康な肌に見えました。
 もちろん草津で時間湯入浴法を行うだけでなく、生活改善全体を行わないと効果は上がりにくいようですし、向き不向き、個人差もあるでしょうから、当事者でない私は軽々しく断言できませんが。

 でも体験時間湯を行っただけの私にもはっきりと判ったことがあります。
 湯長さんを始め、今、湯治を行っている人たちの信頼に基づく人間関係が良好であることです。
 これは湯治を続けていく上でとても大切なことなんじゃないかと思います。

【13.時間湯に使われるお湯について】

 時間湯で使われるお湯というのは、草津でも最上級の極上湯であると思って間違い有りません。
 同じ源泉が共同浴場や各旅館にも配湯されていますが、時間湯では鮮度抜群のものを惜しげもなく大量に消費しているのです。
 つまり、活きが良いのです。
 しかもそのお湯を、ベテラン湯長さんがベストの状態に「作り」ます。
 こんなに贅沢なことはありません。

 温泉が好きだ、鮮度の良いお湯が好きだ、強いお湯が好きだ、そう思われる方は、ぜひとも時間湯を体験してほしいと思います。
 私が言葉を尽くして表現してみても、実際に入浴してみないと本当のところは伝わらないと思いますので。
 時間湯に一回入ることは、草津の共同浴場に数日通う以上の効果があるとも言われています。

 時間湯のお湯は貴重です。
 誰だって、自分のものならと思うほどに貴重です。
 まさに草津の財産そのものと言えます。
 ですから、それを時間湯が優先的に使うことの必要性を、一人でも多くの人に知ってもらいたいと思います。
 時間湯のお湯に多くの人が支えられています。

【14.時間湯に必要なもの・時間湯に必要な人】

 時間湯には必要なもの(人)が三つあります。

 ひとつはお湯。
 草津で最上級のお湯が大量に。
 これが無くては時間湯は始まりません。

 もうひとつは場所。
 時間湯を作法の通りに執り行うためには特別の深い浴槽を持つ専用の浴場が必要です。
 今は地蔵の湯と千代の湯にありますね。
 昔は六ヶ所にあったそうですよ。
 これ以上減ることがありませんように。

 最後は湯長。
 指導者あっての時間湯です。
 今は井田湯長と鈴木副湯長のお二人が湯長職を務められています。
 でも二人しかいないということは、風邪を引いても簡単に休めないほど大変だということです。
 何しろ代わりがいません。
 責任も重大です。
 一瞬たりとも気の抜けない、とてもきついお仕事です。
 私はお二人を尊敬しています。

 どれが欠けても時間湯は成り立ちません。
 必要とする人がいる限り、どれも欠けることがありませんように。
 そのために、一人でも多くの人に時間湯の現実を知ってもらいたいのです。 

【15.鈴木副湯長】

 今年(2006年)の4月から千代の湯で湯長としての仕事をされています(役職は副湯長ですが)。
 お会いしたとき、その若さに驚きました。
 湯長というのは年輩の男性だという先入観がありましたから(そういう意味では井田湯長もイメージと違います)、うら若い女性が湯長を務められているのを見たときにはびっくりしました。

 すごーく真面目な方です。
 それにしっかり者です。

 とてもやりがいのあるお仕事とはいえ、派手なところも楽なところも無いこのお仕事に就かれた理由について伺ってみました。

 「草津の湯で一人でも(辛い症状が和らぎ)救われる人がいるなら、私はその人たちの力になりたい。
  時間湯の火を消したくない」 

 そんな鈴木副湯長さんのブログはこちらです → 副湯長の時間湯ブログ

【16.時間湯エピソード・これが本当のたまご湯】

 私が体験中に遭遇したエピソードです。
 時間湯開始前に湯長さんがこう言いました。

 「実は・・・時間前にきっちりとお湯を準備していたはずが、異物が流れてきたので全部取り替える羽目になってしまいました」

 異物というのは、なんと卵でした。

 温泉卵を作ろうと、源泉に勝手に卵を入れた不届きな観光客がいたようで、それが割れて源泉に混じってしまったそうです。

 湯長さん大変。
 お湯を取り替えて最初から湯作りやり直しです。
 ただでさえ大変な肉体労働なのに、少ない時間の中、今回は倍です。
 流れてきたのを見たときには目が点になってしまったとか。

 温泉ではよく、溶き卵状の湯の花とか見かけますが、本物の卵はいけません(笑)。

 なんとか時間湯スタート前には準備が整いましたが、こんな事件もありました。

【17.時間湯体験の薦め】

 そんなわけで、今は湯治を行うことを前提でなくても、千代の湯では体験時間湯を受け付けています。

 純粋に草津の最高級源泉に興味のある方、伝統としての時間湯作法を体験してみたい方、そしてもちろん、湯治療養を検討している方、気軽に体験してみては如何でしょうか。
 体験料の550円というのは、普通の日帰り温泉の入浴料と比較しても全然高くない金額だと思います。

 時間湯知らずして、草津を語る無かれ


時間湯体験を行ったときの旅行記はこちらからどうぞ → 草津温泉・時間湯体験旅

さらに二度目の時間湯体験を行ったときの旅行記はこちらからどうぞ → 晩秋の草津旅行記

もっともっと時間湯について知りたい方は、オフィシャルサイトへ → 時間湯オフィシャルサイト

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