子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★☆☆☆ 泉質★☆☆☆☆ 湯温はさまざまな浴槽があるが全体的に熱め、肌への刺激も強い
- 設備★☆☆☆☆ 雰囲気★★★★☆ 脱衣所が浴室と繋がっていて狭く、お湯も濁り湯で足下が見えないので注意
子連れ家族のための温泉ポイント
その昔、玉藻の前なる絶世の美女が時の支配者、鳥羽の院の寵愛を受け、やがては国を滅ぼそうとしたと、謡曲殺生石にうたわれる。
正体を現した玉藻の前は、白面金毛九尾の狐の姿となり、那須へと逃れ、ついには魔力を持つ矢にて討ち果たされる。
死してなお、九尾の狐の妖力は衰えず、石となった後も瘴気を撒き散らし、源翁和尚なる高僧に三つに砕かれた今も、石の置かれる辺り一面草木も生えぬ白い地獄の様相を呈している。
これが那須湯本に伝わる九尾の狐伝説と殺生石の謂われだ。
あの松尾芭蕉もおくのほそ道で「蜂蝶のたぐひ真砂の色の見えぬほどかさなり死す」とその光景を詠んでいる。
つまり昆虫などが近寄るとみんな死んでしまうという、硫化水素などの毒ガスが噴き出し続ける那須湯本の様子を表している。
まあとにかく九尾の狐のおかげで那須湯本温泉が湧いているわけだ。
那須湯本の共同浴場 元湯鹿の湯は、その殺生石から道を渡った谷間にある。
受付で料金を払う。
風呂場は左手。
外からも見えたが、川の上に渡された橋状の渡り廊下を通っていくことになる。
脱衣所は浴室と繋がっているタイプ。
共同浴場でよく見かける作りだ。
脱衣棚のあるスペースの両側に浴槽がある。
片方は長方形の浴槽がひとつで、かぶり湯などに使う。
もう片方がメインの浴室だ。四つほど四角い木の浴槽が並んでいて、全部温度が変えてある。
元々は混浴であった男湯の方は、41度から48度までの1度刻みの浴槽があるという。
女湯の方は43度から46度までの四つと、さらに階段を少し下りたところに42度の大きな浴槽がひとつだった。
熱い青白い濁り湯が木造の浴槽にたたえられている様子は如何にも昔ながらの共同浴場だ。
硫黄の臭いと酸っぱいような臭いが入り交じっている。
今回、那須湯本で宿を取ったのは雲海閣。
この元湯鹿の湯と同じ鹿の湯源泉を引く13軒の宿の一つだ。
同じ鹿の湯源泉でも、やはり元湯鹿の湯の方がお湯が若いような気がする。
臭いが雲海閣より薬っぽく、味にももっと酸味を感じる。
それにしても混みすぎだ。
人気があるのは判るが、オープン時間5分過ぎでもう35人も入浴客がいるとは。
実は準備が出来次第、時間が来ていなくても開けるのだそうだ。
一番風呂を楽しみたかったら、早めに来ていた方が良いかもしれない。
お湯はやっぱり鹿の湯の方がいいが、もう少し角の取れて丸くなった源泉を、のんびりゆっくり独り占めできる雲海閣の方が快適度はずっと高いと思った。
鹿の湯はその名の通り、鹿が発見したとされる。
開湯は千四百年近く昔のこと。7世紀の前半。
正倉院の文書にも那須温泉の名が記されている。
時代が変わり、温泉を取り巻く環境が変わっても、青白い濁り湯だけは変わらずこんこんと湧き続けてきたのだろうか。
2023年の記録的寒波の翌朝に再訪した。前日に見た時には駐車場が混雑していたが、さすがに大雪の朝は全然人がいない。同浴したのは地元のおばあちゃん一人、ほぼ貸切のようなものだった。
女湯は階段が凍結して岩の湯は入れないと言われた。脱衣所からはドア無しでそのまま浴室で、まずかぶり湯の浴槽があり、左に洗い場があり、衝立があり、4つの浴槽が並んでいる。その先は階段で下がって、お湯の入っていない岩の湯。
かぶり湯は48度と書いてあったが実際はぬるかった。もしかして私の思い違いで38度と書いてあったのかもしれない。
左右に2つずつ4つある浴槽は、左手前から時計回りに41度、46度、44度、41度だった。41度とあるものもぬるくはない。44度は熱めちょうどよい。46度は熱いが入れば普通に入れる。
においは酸っぱいような腐った硫化水素臭だが、粗削りで腐った感じは弱い。46度に入りつつ、時々41度に入るということを繰り返した。
コップで味見をすると、思っていた味より酸味は感じず、とても苦く、舌の両側の奥に嫌な金属っぽさがいつまでも残る。それを見た地元のおばあちゃんが、お腹を壊すから飲んじゃだめよと。
外は雪が降り続いているが寒さは感じない。そしてやっぱり酸性泉特有のずっしりした疲れが表に出てくる。