「帰りにどこか寄っていく?」
吾妻川沿いの145号線を走りながらパパが言った。
意外だった。
何となく二人とも、今朝から二回入った時間湯で十二分満足していたので、もうどこも寄らなくてもいいような気になっていたので。
だけど真っ直ぐ家に帰ると、家で子どもたちをお風呂に入れなきゃいけない。
せっかく群馬を走っているんだから、料金が安くてお湯の良いレベルの高いセンター系で髪の毛までしっかり洗って帰るのが得策かもしれない。
ちょうどこの道沿いで、一軒、入り損ねていたセンター系があったはずだ。
そこに行ってみようかな。
145号線から353線へと連なる草津から渋川へ向かう幹線道路沿いには、岩櫃城温泉、
あづま温泉桔梗館、
小野上村温泉センター、
根古屋城温泉センター、
金島温泉富貴の湯など、公営民営の日帰り温泉がひしめいている。
どこも500円程度の入浴料で手軽に利用できる。
この中で唯一、入ったことがないのがあづま温泉だった。
入り口まで行ったことはある。
このときは、小野上村温泉センターに行こうとして温泉祭りの準備中だったのでやめて、あづま温泉に向かったのだが今度は駐車場まで鳴り響くカラオケの音に閉口して逃げ出し、結局最後は岩櫃城温泉に落ち着いた。
岩櫃城温泉はあまり我が家の好みではなく散々な結果になってしまった。
一度行きそびれると機会が無くなる場所というのはある。
榛名湖に泊まっているとき行こうと思えば何度も行く機会があったはずなのに、ついにあづま温泉だけはすっぽり抜け落ちたままだった。
「道の右手だから、確か看板があったと思うよ。ああ、あれだあれだ」
そこまでは良かった。
「それから川を渡って左の細い道に入って・・・なんだかやたらと判りにくかった気がする。前に来たとき道に迷わなかったっけ?」
「うんそう・・・あれ?」
最初の看板がわかりやすかったのに対し、何故か分かれ道なのに看板が無いところがある。
「道なりに行けばいいのかな?」
ずんずん進むと大通りに出た。
なんか違う気がする。
しかし大通りに出たところにも「桔梗館」と書かれた大きな看板があって矢印が付いている。
矢印の通りだと、大通りから分岐した細い道を行くようだ。
あれぇ。このパターン覚えが有るぞ。もう何年も前になるけど前回もこれで道に迷わなかったっけ?
だいたい桔梗館は露天風呂から景勝岩井洞が見えるはずなんだから絶対こっちじゃない。もっと川沿いに降りたところにあるべきだ。
「やっぱり元の道に戻るべきなんじゃない? あの看板の無かった分かれ道が怪しいよ」
「うん、最後の大看板はこっちの通りから行くときに元来た道へ入るように指し示しているとも取れるし」
本当に紛らわしい。
数年おいて同じトラップに引っかかるくらいだから、他にも迷う人が大勢いるはずだ。
看板の無かった分岐を、川の方へ降りると桔梗館はすぐだった。
前回も同じだけ迷って同じ結論に達してやっとここまで来たんだった。
なんかアホみたい。