9.大変、今夜の宿が無い
立ち寄り温泉はいろいろ調べていたが、まさか泊まるとは思っていなかったので宿情報は白紙だった。
老神はたぶん予算オーバーだ。片品あたりなら温泉つきでリーズナブルな民宿がありそうだ。冬に立ち寄って、カナとレナが気に入った
ささの湯あたりも射程圏内だ。管理人さんからの次の電話を待たずに、車を片品方面に向けて走り出させた。
頼むよう。こんなのまったく予定外だよ。
再びキャンプ場の管理人さんから電話が入った。やっぱり鍵を持っていくという。パパに電話を代わってもらった。こちらで宿泊先を探すと伝えると、今度は宿泊費を全額負担すると提案してきたらしい。とんだトラブルだけど、そこまでは申し訳ない。当初のバンガロー代プラス食事などにかかった費用は自分たちで負担して、はみ出した分だけ出してもらうということで話がついた。電話の向こうで相手も汗だくになっていることだろう。
片品温泉街は行きに通り過ぎた。スキー場を中心とした小さな旅館や民宿、ペンションなどが立ち並んでいる印象だ。途中で旅館の案内所を見つけた。予算が限られているし、当日の宿を探すにはこういうところで頼むのが手っ取り早くていい。
カウンターには係りの女性が一人で電話の応対に負われていた。
観光情報の書かれたパンフレットなど見ていると、ようやく電話が終わった。
今夜の宿を探しているというと、向こうから「8,000円くらいのご予算でよろしいですか?」と聞かれた。その辺りが相場なのか。
一軒目は貸切で満室とのこと。二軒目で決まった。
彼女は地図を示して、尾瀬へ向かう道沿いなのですぐ判りますよと教えてくれた。確かに名前に見覚えがある。行きに、入り口の看板を見た。和風でなかなか感じの良さそうな宿だと思った。
「ここは良い宿ですよ」
どの宿だったとしても同じことを言うのかもしれないが、何も事前に調べていなかっただけに、安心する言葉だった。
そして今夜の宿に着いて、こうして日記を書いている。
ここは
片品温泉うめや。
入り口を見ただけでは民宿に毛が生えた大きさに見えるが、中は迷路のように増築してあって思ったより大きな宿だった。
部屋は6階。窓からも山の紅葉が見渡せてなかなか良い。
平日で泊り客は二組だけだったが、夜には近所の青年団の集会といった感じで地元の人たちが談話室に集まって飲んでいた。女将さんもちゃきちゃきの気風の良い人で楽しい。室内犬のミミもいる。
お風呂は内湯だけだが清潔でまあまあの大きさ。それほどざぶざぶとお湯が出ているように思われなかったが、浴室に入ると足元が熱い。掛け流されたお湯が床全面を温めているのだ。お湯はにゅるにゅる感があった。それほど強いものではないが、群馬ではあまりにゅるにゅるするお湯に出会わないのでびっくりした。そういえば近くの
幡谷温泉ささの湯がちょうどこんな感じのお湯だった。温度は少し熱め。湯上りの肌はかなりすべすべする。今日入った中では一番気に入ったお湯だった。
まあ終わりよければ全てよし。
日記を書き上げたらまた一風呂浴びて、それから今日という日を終わりにしよう。