榛名湖日記 その6 初日 ◆妙義山さくらの里と砦の湯◆



4月26日(土)

 自分でも季節別に選ぶ温泉のリストなど作っておきながら、さっぱり季節に見合う旅先を選ばない我が家である。
 海へ行くのは何故か秋、紅葉の名所は真夏、花咲くエリアは冬…どうも何かが違うのだ。その理由は単純で、パパは大の混雑嫌い。渋滞や行列に並ぶくらいなら、行楽シーズンなどどこにも出かけない。そんなわけで毎年ゆっくり桜など鑑賞したことが無かった。
 それがどういう風の吹き回しか、今年は桜を見に行こうかと言う。
 このところゴールデンウィークには榛名湖に行くことにしているが、同じ群馬の妙義山でちょうどこの季節、遅い桜が見られるらしいのだ。

 2003年のゴールデンウィークは雨で始まった。
 渋滞を避けるため朝は4時起き。5時には出発。
 どしゃぶりの雨の中、荷物と寝ぼけ眼の子供たちを車内に運ぶ。
 高速に乗る頃には雲も薄くなり、雨も小ぶりになった。
 どうする?
 雨の中、とりあえず真っ直ぐ妙義に行くか、それとも雨がやむのを24時間営業の温泉、天神の湯で待つ?
 朝一の天神の湯もいいけど、妙義と高崎じゃ離れすぎてないか?
 じゃ真っ直ぐ行くか。

 藤岡ジャンクションで上信越道へ。
 このころ一時的に青空がのぞき、妙義に進路をとってよかったと思ったのだが、それもつかの間、まもなく再び激しい雨が降り始めた。

 午前7時、松井田妙義ICで降りて、とりあえず道の駅妙義で休憩。
 朝食も取らず真っ直ぐ走ってきてしまったのでみんな空腹だ。ここまで来てしまうとコンビニもないし、もちろん御食事どころもまだ開いていない。
 パパ曰く、いっそ横川まで行っておぎのやの峠の釜飯を食べるか?

 そうしているうちに雨があがったので、さくらの里まで登ってみることにした。


 道の駅を出てすぐ、道路わきの木からするすると沢山の猿が下りてきた。
 子供たちも見たの見ないのと大喜び。赤ちゃんを背中に乗せた親子猿もいる。

 さらに登ると、奥に奇山、妙義。手前に霞と桜という絶景。


[妙義山の桜 拡大画像1]

 メインの駐車場は8時オープンだが、もう少し登ると時間制限の無い駐車場もある。

  
[妙義山の桜 拡大画像2] [妙義山の桜 拡大画像3] [妙義山の桜 拡大画像4]
 ここの桜は、50種1,5000本もあるのだそうだ。
 斜面をほんのりと彩る桜も綺麗だが、背景が切立つ岩のような妙義山の絶景なので非常に絵になる。
 が、しかし、またしても雨が降ってきた。
 子供たちは花など興味ないらしく、駐車場にうろうろしている飼い犬の方が気になるらしい。
 せっかくの桜見物だったのに、ゆっくり花を楽しむには程遠かった。雨がやまないので遊歩道を歩く気にもなれず、早々に退散。
 さようなら、妙義の桜…(涙)。

 道の駅辺りまで降りてきたら、また雨がやんだので、ちょっと妙義神社に行ってみることにした。


 木々に囲まれてなかなか荘厳な雰囲気だ。



 そそり立つ杉の大木。
 この雰囲気はちょっと南紀の飛瀧神社を思い出す。
 階段が険しかったのと、まだたまに雨がぱらぱらとくるので、この辺りで引き返すことにした。

 さあそれではやっと遅い朝食。
 おぎのやドライブインで峠の釜飯。お腹が空いたので子供たちもよく食べた。釜飯の器は、人形の五右衛門風呂に使うために持ち帰ることにした。二つあるからカナとレナに一つずつだね。

 これからどうにしよう。
 最初は妙義から榛名湖に行くと思っていたので、上増田温泉 砦の湯を考えていた。でも横川まで来てしまったら、霧積温泉という選択もあり? どっちも前から入ってみたいと思っていたところ。
 …でもまあ、4時起きで疲れているので霧積までの往復は辛そうだし、天気も良くなってきたから砦の湯の露天風呂がいいかも。
 そう、さくらの里では降り続いていた重苦しい雨も上がり、いつのまにか空は明るくなっていた。

 なっちゃんの温泉旅行記のなっちゃんに、砦の湯は判り難いところにあると聞いていた。なるほど場所は、蝋梅の里や福寿草自生地のある県道33号線を榛名山に向けて走り、地蔵峠の手前、集落のある細い道沿いで本当に迷いそうだ。
 県道は上増田のところで右に急カーブを描く。地図で言うと長野新幹線のトンネルと交差する手前辺りだ。そのカーブに沿って右に曲がらず、細い道を直進すると、見通しの悪い狭い道はやがて川沿いに出る。右手に橋があるがそれを渡らず更に直進すると、砦の湯が見える。元々釣堀で、温泉が湧いたのは割りに最近のことなのだ。それにしても途中に「湯」の看板の一つもないあたり、潔いというのだろうか、知らない人はまずやってこない感じだ。

 ガイドブックに10時からとあったが、9時半なのに入り口に既に営業中の布が下がっている。もう入れるのかな? ちょうど忙しそうに出てきたお姉さんに聞いてみると、やっぱり温泉は10時からで、営業中の布は営業日であれば時間に関わり無く下げているのだそうだ。
 ドアを開けて、フロントで聞いてみる。駄目もとだ。
 フロントの男性が、すぐに浴室を確認しに行ってくださった。
「大丈夫ですよ、どうぞ」
 営業時間の30分前なのに、入れていただけることになった。なんて有難いのだろう。


 この4月に幼稚園に入園したばかりのレナは、パパと入るというので、年長のカナはママと入ることにした。
 脱衣所は狭い。ベビーベッドなどは無いが、脱衣籠が大きいタイプなので、ここにタオルを敷くと赤ちゃん連れもいいかもしれない。
 最近カナは、脱ぐのも早い。さっさと一人で脱ぐと、先に行ってるねと言い残して浴室へ行ってしまう。

 内湯は柔らかいオイル臭のようなものが充満している。どぼどぼとぬるめの源泉が注がれ、縁を洗い流して掛け流されていく。色は薄い黄褐色。湯口の辺りでは金物っぽい臭いもする。
 泡がつくかなと期待したが、泡はそれほどつかなかった。ほんの気持ち程度。
 味は、うーん炭酸だという感じ。でもしゅわしゅわ感は無い。何ともいえない甘みがある。割りと美味しいかも。


 うっ、カナ、上目遣いはやめてね(笑)。

 露天風呂は加熱した源泉を注いでいるようだ。臭いは少し薄い気がするが浴槽の温度は内湯と変わらない。底が平でかなり浅いので、小さい子供でも大丈夫。川沿いなのだが、囲われていて川は見えない。女湯は八重桜が一本あって、このゴールデンウィークがちょうど見ごろのようだ。

 とにかくしばらく入っていると、非常に肌がすべすべする。このすべすべ感はくせになる。とってもいい感触だ。
 それに温いのにとても温まる。こんな温泉がごろごろあるのだから、群馬というのは本当に凄いところだ。

 休憩室もある。
 冷水はセルフサービス。元々ビールの入っていた4リットル缶に水を入れている。子供たちも自分で水が出せるので大喜び。


 一休みしていたら、先ほどフロントにいた男性が、どちらから?と話しかけてきた。
 東京からだと言うと、地元の人でもあまりここを知らないのにと驚かれた。土日はそれなりに混むが、平日などとてものんびりできますよと教えてくれる。そのあと、子供たちに、とアイスを持ってきてくださった。ありがとうございます~。

 しばらくするとカナがお皿を頂いたと見せに来た。


 先ほどの男性が、砦の湯でメニューの豆腐を入れている竹細工を下さったのだ。あ、あの~、こんないいものを頂いちゃって宜しいのでしょうか。手作りらしいです。新品です。家族の人数分頂いちゃってます。ど、どうしましょう…。

 ご自身にもお子さんがいらっしゃるらしく、女の子は大きくなると男親は寂しいよねなんて話を少しして、さらに帰りがけにここの手作りだという漬物を一袋購入したら、「あっ、もう一袋おまけにつけておきますよ」
「あ、あのう…」
「あっ、お嫌いですか?」
 いや、そうじゃなくて、ホントにホントにこんなにサービスしてもらってどうしましょう。
 有難いやら申し訳ないやら…。
 お湯もお風呂もとても気に入ったのに、さらにこんなに良くして頂いちゃうと、もう、これから何度も伺わなくてはいけないような気がします。
 はい、いろいろ頂いたからではなく、砦の湯、榛名山近郊では一番のお気に入りとなりました(真面目に素晴らしい温泉です。みなさんもぜひどうぞ)。

 …あんまり畏まったので、途中からデスマス調になってしまった(笑)。

 榛名湖の宿は自炊施設なのでこのまま倉渕村へ抜けず、いったん道を戻ってスーパー・ベイシア榛名店で買出しを済ませる。
 時間もお昼時となったので、前回見つけた榛名神社の手前の「びくや」で昼食にすることにする。

 ここは2月に来たときにも入ったが、茅葺屋根の昔の民家そのままの建物で、土間の部分に池があったり、囲炉裏があったりする。
 前に来たときに気になっていたメニュー、ヤマメの踊り食いにパパがチャレンジする気なのだ。


 踊り食いというから、ヤマメの稚魚をそのまま流し込むのかと思えば、出てきたのはかなり大きい。串に刺して塩焼きにするサイズより心もち小さいかな、ぐらいの大きさだ。
 それが皮をむかれて頭とハラワタを取られて、その状態で皿の上でぴくぴく動いているのだ。
 …こ、これを食べるのかい?
 酢と山葵醤油が出てきて、しばらく酢につけて柔らかくなったところを山葵醤油で食べるのだと教わる。
 パパは最初酢につける時間が短すぎて、骨まで食べられなかった。じっくり漬け込むのがコツらしい。
 私は前回と同じ「お切り込み」を頼んだ。これは冬のメニューらしく4月末で終わりだとある。山椒が効いていて美味しいが冬に来たときの方がぴりりと効いていた。
 パパは鰭酒も頼んだら、先ほど踊り食いに供されたヤマメの頭をからりと揚げたものをつまみに持ってきてくれた。これは本当は賄い食でメニューには無い物だと言うが、これがまた絶品。驚くほど美味しい…と思ったら、大半をカナに食べられてしまった(笑)。
 このヤマメの頭の揚げ物も、サービスでつけてくださったもので、運んできてくれた若主人は、うちも三人わんぱくな男の子がいてね…なんて話をしてくださった。うんその三人知ってる。前回来た時に同じ部屋の端で食事中だった。元気の良さそうな男の子たちだった。

 何だか今日は、連休初日だというのに、何処へ行っても同じように子供を持つ施設の方に特別の暖かいサービスをしていただいているようだ。
 ありがとうございます。
 やっぱり群馬の旅は心温まる。


 
 びくやの土間の池は、榛名一の湧き水を引いているらしい。早速パパも汲んで帰ることに。ちょっとえぐい感じもあるが、とにかく他の水とはまるで違うパワフルな味がする。



 榛名湖に着いたらいい天気。灰色の雲はみんな消えて、すっかり青空。暑いくらい。
 到着時間が早かったから、パパは私にもう一風呂浴びてきていいぞと言う。

 榛名湖には榛名湖温泉があって、ゆうすげ元湯レークサイドゆうすげの二つの施設でのみ入浴することができる。
 ゆうすげ元湯は初めて榛名湖に来た時に入って、設備は綺麗だけど特にこれというものがなく、どうにも再訪したいという気になれなかった。
 対するレークサイドゆうすげは、設備も古いし露天風呂などもないが、お湯遣いはとても評判がよく、掛け流しの源泉が楽しめるといろいろな方に聞いていた。
 だから一度、レークサイドゆうすげのお風呂に入ってみたかったのだ。

 私一人でのんびり行って来ていいのね?
 子供たちは?
 置いてっていいんでしょ?
 カナ、ママと行く?
 カナはさっきママと入ったからパパと入る。え?パパは行かないの?じゃ、絵を書いてる。
 じゃ、一人で行ってくるから。
 待ってママ!! レナが行くよ。レナはママと温泉入りたいの。一緒に連れてって!!
 …え? レナが行くの!!(一人でのんびりできると思ったのは夢のまた夢だったか~)。



 確かに建物も浴室も古かった。
 が、そこに待っていたのは、ゆうすげ元湯とはまったく違うお湯だった。
 臭いはフルーティなオイル。リバートピア吉岡によく似ている。色は濁った黄茶色。少し緑色も混じっている。濁りは底の足がまったく見えないくらい。見た目は伊香保温泉にも似ているかも。湯の花も湯口付近に結構浮いている。すべすべ感は少しあるが、今日入った砦の湯よりはずっと弱い。浴感的には砦の湯よりずっと重い。味は…甘い。
 あと、不思議なのは入るとき相当熱く感じるのだが、入るととたんに温いくらいに感じて、湯口にも平気で触れるくらいになる。なのにちょっと出て涼むと再び湯が凄く熱く感じる。こんなに体感温度にギャップがあるのも面白い。

 ただ、浴室の特に浴槽の辺り、天井が低すぎてとても圧迫感がある。洗い場の天井は高いのに、湯船に入っていると閉塞感を感じる。窓は横に広く取ってあって、榛名湖の眺めは露天風呂のあるゆうすげ元湯よりずっと良いが、それでも息苦しさを感じてしまう。そこがちょっと惜しいかな。

 宿に戻るとカナが榛名湖の絵を描いていた。
 湖に榛名富士、釣り人のボートも丁寧に描いてある。
 いつのまにか空は快晴だ。やっぱり娘たちは晴れ女かも。

続く…

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