3.半出来か?上出来か?
何やら怪しげな入り口の下に、ボロボロの「ゆ」の暖簾が下がっている。
パパとカナのほかに先客がいる。先ほど駐車場で見かけたカップルだ。
露天風呂は四角い木の浴槽で、端に二つほど樽が入っている。四角い浴槽は二つに区切られていてかなり温い。樽はそれぞれ一人用のサイズで適温の湯が注がれている。
カップルは
万座温泉ホテルに泊まって、帰りがけに
半出来温泉に寄ったと話してくれた。万座はスキー場にこそ雪は残っているが、もう道にはチェーンは必要ないくらいだと言う。半出来温泉は雑誌で見て立ち寄ったのだそうだ。こんな渋い温泉でも雑誌に載るのね。
なかなかどうして強烈なお湯だった。
お湯の色は透明に近いのだが、茶色、黄色、赤、緑とあまりにカラフルで巨大な湯の花やら藻やらが漂っているので、ほとんど温泉に入っているというより池の鯉にでもなったような感じなのだ。浴槽の木の部分にも藻が大量に張り付き、ぬるぬるすることこのうえない。いや、これは旅館が清掃をしていないのではなく、泉質と紫外線によるもので害は無いと脱衣所にも記されていたが、人によってはとても入る気にならないかもしれない。
泡もかなりつく。
はらってもはらってもというほどではないが、気がつくと微細な泡が全身にびっしりとついている感じだ。
湯中ではきしきしとくるのに、湯から出ると僅かにぬるつく。
最初温い方に入っていたら寒いような気がしたが、一度、樽の方に入ると、熱くは無いのにすぐにのぼせてきて、あとは温い方で十分という気持ちになる。
それにしてもここの湯の花はすごい。茶色い塊に、花粉のように小さな丸い黄色い塊が点々とついていたりする。緑の藻はゆらゆらと、大きいものは磯海苔のようだ。
湯の花は体にも付着するので、パパの胸元にいつのまにか黒っぽい泥のようなものがついているのに気づいたレナは、せっせとお湯をかけて落としてあげていた。ここで使ったタオルは、草の汁が染みたように緑色になってしまった。入浴するほど汚れる温泉というのも初めてだ(笑)。
ここはスッポン料理でも有名な旅館。
パパはこの露天風呂、元はスッポンの養殖場だったんじゃない?と言う。
真相は如何に?
内湯には飲泉用のコップもある。ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄分、ミネラル、とにかくいっぱい入っているらしい。胃酸の分泌を即し胃腸に良いそうだ。昨日の
群馬温泉に似た意外なアブラ臭。機械油のような臭いに、甘塩味、さらにちょっと苦味もある複雑な味。面白いお湯だ。
湯上りは暑いくらいぽかぽか。
ぬるさとB級ぶりにパパは上出来というよりやっぱり半出来と感想をもらしたが、私はとても面白かったよ。