8.伝説のガイド登場
9時半ちょうどにツリーハウスを出て、母屋の方に向かった。
約束の時間は9時半だったが、そうだ、ツリーハウスで待っていても判らないはずだ。母屋の方に行かなくちゃ。そもそも待ち合わせ場所がローズガムズで良いのかすら確信がなかったのだが。
入り口から母屋の中をのぞいたが、誰もいないようだ。
ロリキートたちもとっくに姿を消している。
まだ来ていないのかなと思って振り返ると、ちょうど車が停まって本人が降りてきたところだった。
「すいません、ちょっと遅れました」
登場したのは伝説のガイド、willieさん(ちなみに日本人)。
今日一日、バードウォッチングを始めとする貸切ネイチャーガイドをお願いしている。
willieさんとは今から2年ぐらい前、まだwillieさんのウェブサイト
ケアンズEye!が違う名前だった頃にメールを頂き、それから相互でリンクさせてもらっている。
サイトに「ケアンズでバードウォッチングのガイドをしています。お気軽にお問い合わせ下さい」とあったので、前々からとても気になっていたのだが、去年は渡豪できず半分諦めていた。
今回の
ケアンズ行きが決まったときに、密かに頭の中の一番やりたいことリストにwillieさんにガイドを頼んでバードウォッチングをするというのを入れた。
あとはパパや子どもたちの説得と条件だけだ。
条件というのはつまりこういうことだ。うちはバードウォッチング自体まったく未体験で、おまけに小学校低学年の子供がいるので本格的なことはできない。
木の枝を指してあそこにいますと言われても毎回見つけられない可能性も大。
初心者及び子供向けのバードウォッチングでも快く引き受けていただけるのだろうかというのが最大の心配事だった。
でも心配はいらなかった。
willieさんはいろいろ条件を聞いた上で我が家に向いたプランをいくつか考えてくれた。
それがもう、どれも魅力的でやってみたいことばかり。
判りやすいバードウォッチング。
オーストラリア特有の野生動物を探したり捕まえたり。
おもしろ農場訪問。
変形ブーメランや加速器付き槍投げ。
迫力のバラマンディ釣り。
などなど・・・。
「一日ではそんなに回りきれませんね」と結んであったが、いやはやもし時間があったら全部やってみたい。
willieさんの車は私たちを乗せて走り出した。
まだ行き先も何をする予定なのかも判らない。
「ローズガムズの入り口に水色の菱形の看板があったでしょう、気が付きましたか?」
オフィスの入り口のドアの所に見たような気もするけれど・・・。
「い、いいえ」
「Land For Wildlifeって書いてあるんですけど、あれは環境を守る組合に入っているというマークのようなもので、それはローズガムズのオーナーが環境問題に深い関心を持っているということをあらわしています」
後で確認したら確かにオフィスの入り口にもそのシールが貼ってあったが、敷地の入り口にはもっと大きな菱形の看板をつけた杭が立っており、willieさんが言っていたのはどうやらこっちのことだったようだ。
「ローズガムズはオーナー夫妻が全部手作りしたらしいですよ。あのツリーハウスも。ケアンズは家を建てるのでも何でも自分で何でもやっちゃう人が結構多いんです」
へえーと思いながら聞いていて、ふと妙だなと思った。
willieさんてば、やけにローズガムズのことに詳しい。この前のメールではローズガムズに行ったことはないと言っていたのに。
「ジョンに会いました?」とwillieさん。
ジョンというのはペータの旦那様のことだ。
「いや、ちょうどニュージーランドに出かけていて留守なんだそうです」とパパ。
「そうですか。ジョンはすごく環境問題やこの辺りの自然環境に詳しいですよ。私が先日来たときにいろいろ話をしたんですが・・・」
せ、先日来たぁ? ローズガムズに?
それで判った。昨日ペータが「明日の9時半にバードウォッチングツアーに行くんでしょ」って知っていたわけが。
実はwillieさんからの最後のメールで、バードウォッチングのスタートは9時半にしますということは教えてもらっていたけど、どこに9時半に行けばいいのか指示がなかったので戸惑っていたのだ。私たちがその日ローズガムズに泊まることは知らせていたから、待ち合わせ場所を決めていないならここで待っているしかないかと思っていたが。
willieさんはたぶん最初からローズガムズに迎えに来てくれるつもりで・・・しかも下調べを兼ねて事前にローズガムズを訪ねてジョン&ペータ夫妻に客人を迎えに来ると話までつけてあったのだ。
・・・驚いた。
今までネイチャー系のツアーに参加した経験は、四年前のケアンズでの
ドキドキ夜行性動物探検ツアー、そして去年の
沖縄での
夜の探検ツアーのふたつだけだ。
今回のwillieさんのツアーと三つ比較してみて思うことは、他の二つは毎日決められた同じコースを回るだけだからそこだけ熟知していれば何とかなると言うこと。野生動物の出現率は操作できないものの植物や景観など動かないものは毎回決められた台詞で通せるものが多いし、たまにしか見られないレアな生物を別にしてもほぼ毎日出没する生物に関して説明できれば何とかなる。
でもwillieさんの場合は相手に合わせて柔軟にコースやプランを変更してくれるため、それら全てを網羅する知識の引き出しがないととてもやっていけない。しかも毎回同じコースで無いだけに、その度に入念な準備と下調べを必要とする。
これって凄いことじゃなかろうか。
表面には決して見えないかもしれないけど。