1.豪州での黄金週間が始まる
あれは去年の7月。
二度目の
ポートダグラス旅行から帰って、既にココロはオーストラリアに飛んでいた。
「来年は
アサートンとミッションビーチに泊まろうと思うんだけど・・・」
「ミッションビーチ? どこ? それ」とパパ。
うんとねぇ・・・ケアンズの南。判る?
「全然判らない」
初日 4月28日(木)
2005年の黄金週間。
私たち一家四人はオーストラリアで最高の日々を過ごしてきた。
パワーと情熱に溢れた若いファミリーが両親から経営を引き継いだばかりのファームで、エキサイティングでアンビリーバブルなステイ体験。
そして夢に見た果てしないビーチが続くリゾートでの一週間の滞在。海とプールの見える広いバルコニー、ハンモックがわりのブランコ、部屋も開放感があってロケーションも最高。
あの日の海のきらめきを、高原の澄んだ大気を、水平線から昇る朝日と180度の天空に広がる満天の星空を。
どこまで残せるだろう。どこまで伝えられるだろう。
今からひとつひとつ思い出してしたためていきたい。
たぶん長くなると思うけど、どう、付き合ってくれる?
ゴールデンウィークスタートの前日。
平日木曜日。
幼稚園年長のレナがお昼前に園バスで帰ってくる。
午後1時前には会社を午後半休したパパが。
2時過ぎ、小学二年生のカナが帰宅した。
家族四人揃って準備万端。
午後三時半。夏のように暑い日で、長袖では汗ばむほど。
成田に向かう高速道路はほぼ順調。
湾岸の道を走っていれば、大きな観覧車が見えて続いてTDR。
今回オーストラリアで何がしたい? と、カナとレナに聞けば、
「プール」
「あとね、カンガルーに餌をあげたい」
「海の中で魚も見る」
そう、去年
ミコマスケイで怖がってシュノーケルできなかった子供たちに、今年はマイ・シュノーケルセットを購入したのだ。
神田のスポーツ用品店で一つ2千円。マスクのついたセットで、子供用だけどちゃんと管の所に排水弁が付いている。私たちがグレートバリアリーフクルーズで貸し出される大人用のシュノーケルセットにはそんなの付いてないよ。だから管に水が入ってくると辛いんだ。
「いいなぁ、これ」
「ママも買えば」
簡単に言うじゃない。
二人は出発前に何度もお風呂場で練習した。
大丈夫。
今回はきっとカラフルな魚も珊瑚礁も自分の目で見られるよ。
テレビでよく魚がいっぱいの海の中が映るじゃない。
本物のあれが見えるんだよ、オーストラリアで。
成田空港近くののパーキングで車を預ける。
以前は成田エクスプレスを使ったり京成電鉄を使ったり高速バスを使ったりしたが、最寄り駅までスーツケースを転がして歩く面倒や重い荷物を持って駅の階段を上り下りする苦労から、最近はすっかり自家用車を使うようになっていた。
大人二人ならなんとでもなるが、言うことを聞かない子連れでは何かとフットワークが重いのだ。
空港の民間駐車場はこの一年ですっかりディスカウントが進み、1日500円、5回借りれば次回は無料などというところも珍しくないようだ。
車を降りたら風がひんやりしていた。
暑いようでもまだ4月。
真夏のようなわけにはいかない。
「ケアンズは今日の東京より暑いかな」と私。
「暑いと思うよ」とパパ。
一瞬ケアンズの湿った熱風を感じた気がした。
もうじき幻じゃなくなる。
これから飛行機に乗って、狭苦しい機内で一晩耐えればそこは一年間思い続けてきた赤い大地だ。
パーキングで送迎マイクロバスに乗り、空港まで送ってもらう。
入り口でパスポートチェック。
不穏な昨今を反映するかのように、去年より気持ち念入りだ。子供たちの顔写真も一応見比べる。
空港内に入り、重たいスーツケース二つを預けると、計りの示す数値は二つ合計で29.4キロ。まだまだ余裕。
さてこれからが問題。
去年も一昨年も空港での時間つぶしには難儀した。
余裕を持って到着しないと万が一のアクシデントなどに対応しきれないし、早く着きすぎれば子供たちが飽きる。
いつもは真っ直ぐ第二ターミナル・サテライト3階のキッズルームに直行するのだが、今回はその前に少しでも時間を稼ぐことにした。
現在5時45分。搭乗予定時刻は8時。まだ2時間以上ある。
最初に向かったのは、IASS Executive Lounge 2。
いわゆるクレジットカード会社のラウンジだ。
ここはゴールドカード所持者と同伴者一名、及び13歳未満のお子さまは無料で利用できる。
いやいやエンゲル係数ならぬトラベル係数のやたらと高い我が家では個人でゴールドカードなんて・・・むにゃむにゃ。
使ったのはお仕事用のゴールドカードである。
まあ持っていることには違いない。
というわけで、有り難くも家族四人無料で使える。
缶ビール又は缶ウィスキー一杯とソフトドリンクが無料。新聞や雑誌が用意されていてくつろげるらしい。
ふむふむ。
今まで空港のラウンジなんて足を踏み入れたことがなかった。
きっとゴージャスなんだろうなぁ・・・何しろゴールドカード様のラウンジだもんなぁ・・・と期待ばかりが膨らんだが・・・。
何のことはない。
ファミレスと会社の会議室を足して二で割ったような部屋だった。
パパはさっさと自分の分のビールを持ってきた。
タダだと思うと美味いらしい。
子供たちはそれぞれドリンクバーからオレンジジュースとアップルジュース。
「ママは?」
「ワイン無いの?」
「無い」ときっぱりパパ。
ちぇっ。飛行機に乗ってから飲むとしよう。
椅子のクッションだけは嫌みなほどふかふかだ。
でも置いてある雑誌も表紙に黒マジックで「持ち出し禁止」だの「ラウンジ専用」だの下手な字で書いてあって安っぽい美容室みたい・・・。
子供たちはちっとも楽しくなかったらしく、ジュースを飲み終わったら「出る出る」と大騒ぎ。
ほとんど10分も時間が稼げなかったような気がする。
次に向かったのは見学デッキ。
7時から21時までオープンしている。
ちょうどビルの屋上から空港を見下ろすようになっている。
危険防止のための金網が高くそびえていて、何カ所かコインを入れると使える固定双眼鏡が設置されている。
飛行機マニアな方たちが何人か食い入るように並ぶ航空機を見ている他は閑散としている。間もなく西の空に沈もうとしている夕日が綺麗だ。
とりあえず大声を出しても走り回っても大丈夫なスペースなので子供たちを解放する。
固定双眼鏡にお金を入れてくれとせがまれるがそれは却下。
じっと見ていると絶えずどこかの飛行機はじりじりと動いているのだが、飛び立つのはなかなか無い。あっちへ移動したりこっちへ移動したりしているだけ。あまり面白いものではない。
それでも15分ぐらいはなんとか稼いだだろうか。
6時半。小腹の空いてきた子供たちをなだめながら、今度はキッズパークへ移動する。
ここはいつも時間をつぶすサテライトのプレイルームと違って、ふかふかでカラフルなベンチクッションに囲まれたスペースがあるだけだ。当たっても痛くない柔らかい素材の大きなサイコロやクッションが散らばっている。
うーん。小学生ぐらいの子供にとっては幼児向けすぎるかも。
(というか、小学生未満のお子さま専用だそうです)
幼稚園児と見られる男の子二人と女の子一人がサイコロを取り合ったり投げ合ったりしていた。
カナとレナはクッションの段を利用して、なかなか見事な前転を何度も決めてくれたが、ここもあまり時間稼ぎにはならなかったようだ。
お座りの赤ちゃんが来たのをきっかけに、ここも後にすることにした。
最後の手段はいつものプレイルーム。
サテライトへ移動するためにシャトルへ乗り込む。
すっかり辺りは暗くなっている。
豪州行きの便は成田発の中でも遅いほうだ。空港の夜景が窓の外できらめいている。
カナもレナもプレイルームはもう飽きているようだ。
ビデオなどを見ようともしない。ゲームコーナーは何故かどこかの大人が夢中でテトリスをやっていた。
荷物を降ろして私たちは交替で免税店を冷やかしに行く。
ヘビースモーカーのパパは煙草を持ち込めるだけ、スイスファンのママはスウォッチを購入。
プレイルームの棚の上に五月人形が飾られている。こどもの日のためだろうが、外人受けするだろうな。
組立式のプラスチック滑り台は去年のままだが、他の遊具は一部入れ替えたようだ。一年も使うとかなりがたがくるのかもしれない。
去年一昨年は国際色豊かだったが、ゴールデンウィークのせいかプレイルームにいるのも日本人の親子連ればかりだった。
何もかもやりつくしてしまったので、大人しく座席に座って窓の外の景色を見ていることにした。
パパは去年に続いて今年も「良くできましたカード」を作ってきた。
滞在中の日付と朝・昼・夜・お約束の四つの項目が表になっている。朝昼夜はそれぞれご飯を残さず食べたか。お約束は「1.パパとママのおはなしをよくきくこと 2.なかないこと 3.なかよくあそぶこと」の三つだ。守れたときにシールを貼ることになっている。
今年は凝って、パパは全ての欄にハム太郎のキャラクターをつけてプリントしていた。今、ハム太郎に夢中の二人は吃驚して目を丸くした。
「でもシールを貼ったら絵が見えなくなっちゃうよ」
「そういうと思って、二組ずつ作ってきた。一組はシールを貼らないで遊べばいいだろ」
「やったぁ」
搭乗案内を見ると、どうも予定の機は少し遅れているらしい。
私たちの乗るケアンズ行きは窓の外に待機していて、その前のメルボルン行きが今、搭乗を開始していた。
パパはこれから乗る機内で耐えるために、喫煙ルームにこもって煙草と別れを惜しんでいるところ。
すぐ隣にはインターネット・キオスクがある。
100円入れると10分使えるネット端末が二台置いてあり、うち一台は金髪のお姉さんが使用中だった。
うーん、ここは有料だけど、喫煙ルームを挟んで反対側には実は無料の端末が置いてあったな・・・と見に行くと。
あれまぁ。
去年の7月には二台設置されていたはずの無料パソコンが全部撤去され、台だけになっていた。
あのときも台は5台分あったのに機械は2台しか無かった。壊されたのか盗まれたのかと思っていたが、今はさっぱり潔く、「コンピューターデスク -このデスクはノートパソコンご利用の際などにご自由にお使いいただけます。電源・電気スタンド無料。無線LANインターネットアクセス利用可能です」となっている。
おいおい・・・貸してくれるのは台だけなんて世知辛い世の中だね。
8時10分を過ぎて、いよいよ搭乗開始のアナウンス。
私たちが乗るのはJALとのコードシェア便で、カンタス168便だ。最近JALは何かと人為的トラブルが多いので、カンタス機で良かったと複雑な気持ち。
座席はエコノミーの最後尾右側二列を前後に二つ。
最初最後尾と聞いたとき、それなら窓側に空いたスペースがあって楽かもしれないと期待したが、機体が小さくまったくスペースが無い上に、最後尾は椅子のリクライニングも不可能で後から思えば最低だった。
パパと幼稚園年長のレナが最後尾に、ママと小学二年生のカナがその前の列に座った。
レナは音楽を聴くわけでもないのにヘッドホンを楽しみにしていて、「どこにあるの?」とシートのポケットをごそごそ。
「そのうちスチュワードさんが配ってくれるよ」
カナはヘッドホンより子供用アメニティキットが楽しみ。去年はディズニー/ピクサーのモンスターズインクとリロ&スティッチのグッズで、一昨年はウォレスとグルミットのグッズだった。ゲームブックと筆記具、シールやトランプなどが可愛いウェストポーチに入っているセットだ。
今年は何だろう。
残念ながらうちの子供たちには判らないキャラクターだった。
「The Wiggles」
オーストラリアで人気のミュージカルコメディーグループだそうだ。
四人組のミュージシャンの他、タコやトカゲや海賊のキャラがいる。
今回はウェストポーチもなく、大きなファスナー付きのビニールに入ってきた。
それでも子供たちは喜んでお絵かきセットでハムスターの絵を描き始めた。
まもなく離陸。
夜の滑走路を機体は滑るように走り出す。
今回は気圧調整用の飴一つ持ってこなかったけど、まあいいか。
「飛んだ?」
「・・・まだ」
ぐいーんとGがかかって、斜めになった。
「あっ、飛んだ」
窓の外を見ると、傾いた空港の灯りがイルミネーションみたいだった。
バイバイ日本。
しばらくお別れね。
機内食もいつものように、チャイルドミールを二つリクエストしてある。
早く来るときは離陸して水平飛行になったかならないかぐらいで配ってもらえるのだが、遅いと1時間近く待たされることも。
今年は離陸後40分ぐらいで持ってきてもらえた。
もう時間は9時近い。
空港で待っているときに「お腹空いたお腹空いた」と言っていたカナは、今はもう空腹は過ぎ去ってしまって「眠い眠い」しか考えられないよう。
放っておけばどんどんずるけて遅寝遅起きになる妹のレナと違い、カナは体内時計に従ってきっちり行動するタイプ。
いつもなら9時にはベッドに入るものね。
眠いよね。
グラタン状のシェル型パスタとブロッコリーをちょっとつまんでジュースを飲むと、寒い、お腹痛い、眠い・・・とカナはすぐにブランケットを頭までかぶって寝てしまった。
いつもがっちり食べるカナらしくない。
それだけ眠いのだろう。寝かせてあげよう。
いつもチャイルドミールはカナもレナも同じものを配られるのだが、後から写真を見たパパは、今回は違うメニューだったと言っていた。
キッズ用のミールにも大人用のようにチキンとビーフがあるのかな。
しまったな。両方写真に撮っておけば良かった。
大人用が配られるまでにまだまだ時間がかかった。
子供用ですら9時近くだ。
果たして私が夕食を口にできるのは何時なんだろう。
ようやくエコノミーの大人用も夕食の配布が始まった。
配る順番がよく判らない。
真ん中の列の後ろの方が何席か配られた。
ついでに右端の一番後ろのパパも。
それはイレギュラーな分だったのか、後はのんびりのんびり前から配っていく。
空腹はもう耐えきれないほど。
トレイやドリンクを載せたサーバーは嫌になるほどじりじりとしか後ろに進んでこない。
それでもいつの間にか左端の列は全部終わったようだ。
忙しげに何人かのスチュワードが手に飲み物を持って行ったり来たりしているが、私たちに出す飲み物ではないらしく、さっさと行ってしまう。
パパが後ろから肩を叩いた。
「お腹空いたなら少しあげようか?」
むっかーっ。
いらん。
カナが食べ残した分があるからそれを食べる。
機内の楽しみと言ったら機内食と映画ぐらいなのに。
情けない気持ち。
ようやく私のすぐ前の列までサーバーが来た。
前の列の人たちに「チキン? ビーフ?」と聞いている声が聞こえる。
後少しだ・・・。
と思っていたら、後ろから二人ほどスチュワードがやってきて、何やら配っていた方にささやき、何人分かのトレイを持ってさらに配っていた一人を連れていってしまった。
・・・そこでまたしばらく待たされる。
もうっ、いつまで待てばいいの?
何分待っただろう、ようやく戻ってきたスチュワードは黙って私のテーブルに皿を置いた。機内で一番ビリだった。
ビーフが和食系だったのでチキンを頼もうと思っていた。
私、ビーフかチキンか聞かれてないよ。
「チキン プリーズ」
「チキン!」
蓋を開けると確かにチキンが入っていた。
でもこれって、もう一品は品切れで選択肢が無かったってこと?
ほとんどの人が食べ終わった機内で夜の11時過ぎにしょぼしょぼと食べ始めるのって何だか惨め。
しかも私に配りに来たスチュワードに、とっくに食事を終えたパパがこれ幸いとワインのお代わりなど頼んでいたのでますますむかついた。
何だか旅のスタートはいいことないなぁ・・・。
成田からケアンズまでは所要時間およそ7時間20分。
ケアンズ着は現地時間で朝の5時25分。
しばらく間があるので、その間に今回の旅行の計画と準備について少し書いてみたい。
去年一昨年と二年続けて子連れでケアンズに行った旅行はツアーだった。
元々旅行に対しては我が儘で、拘束を嫌い常に自分勝手にプランニングしてきた私たち夫婦は、過去の大人だけの海外旅行は全て個人旅行だった。
子連れで行くことにしてから何故急にツアーに宗旨替えしたかというと、使うツアー会社によってはパパの会社の福利厚生補助が出るといった単純な理由だったが、一度ツアーを使うと二年目も個人手配をするのは面倒に感じる自分たちがいた。
ツアーといっても基本的に航空券とホテルだけのセットだ。
現地で過ごす時間は全てフリー。
それに格安航空券には子供料金の設定がないが、ツアーは探せば子供半額も珍しくない。
条件にあったツアーさえ存在すれば毛嫌いしなくてもいいと思っていた。
しかし二年目はそれなりに難航した。
前の年に使ったような、宿泊は
ポートダグラスオンリー、しかも自炊のできるコンドミニアム。延泊可能で料金リーズナブルという条件のツアーはなかなか見つからなかった。
当たり前だが同じ旅行会社でも、毎年同じツアーを催行しているわけではないのだ。
やっとこれだ!!というツアーを見つけた。
7月の旅行だというのに計画を立て始めたのは既にゴールデンウィーク開けで、もしかしたら間に合わないかと焦った。
見つけてすぐに最寄りの支店に走った。
聞いてみると何ともラッキーなことに、そのツアーの売り出しはその日の午後2時だということだった。
今は午前中・・・まだあと何時間かある。
午後は幼稚園や小学校から子供たちが帰宅するから家にいなくてはならない。申し込みだけ済ませて結果を自宅で待つことにした。
2時・・・3時・・・4時・・・連絡は来ない。
取れなかったのか?
じりじりとした焦燥感。
ようやく旅行会社の支店から電話があったのは、もう夕食も終えた夜8時過ぎだった。
「希望の日は満席でお取りできませんでした」
「・・・」
担当者は自信なさげな口調で、翌日の出発ならまだ空きがあるので変更しますか?と伝えてきた。
・・・よ、翌日って・・・何万円料金が跳ね上がると思ってるの?
家族四人で10万円くらい違うよ。
冗談じゃない。
悪いけど、電話してきた時間帯といい、その割に日程の変更を薦める態度といい、どう考えてもツアー売り出しと同時に手続きを進めたとは思えない。
受け付けたこと忘れていて、夜になってからオンラインでパソコン叩いて、ついさっき「あら満席だわ」なんて知ったんじゃないの?
パパ曰く、支店だって目の前のお客さんの業務が優先だから、そういうときは2時につきっきりで目の前でパソコン叩かせなきゃ駄目だよと、残念そうな顔。
そんなこと言ったって、午後2時に外出してるわけにいかないんだもの。
うん・・・二人とも判ってる。
今どうこう言ったって仕方ないけど今回のことはしくじった。
そうと決まったらこれ以上失敗を重ねるわけにはいかない。
夜中に二人でネットに繋いだ。
ツアー会社の情報や飛行機の残席を調べる。
頼りない担当者は何度聞いてもキャンセル待ちの人数や押さえていた座席数は教えてくれなかったが、その旅行会社のウェブサイトを調べていくうち押さえていた座席数やホテルの部屋数は判明した。
座席は1日辺り8席、ホテルは4箇所から選べるようになっているが全て1室ずつ。
これでは二家族または1グループで埋まってしまう。希望していた日は何故かそこだけ安く、しかも夏休み前のフライング日数も少ない。聡い者ならみな同じ日を狙う。加えて延泊の末、帰宅を希望していた日はさらに絶望的。夏休みがスタートして7日ツアーで帰国する人たちとバッティングする。
どうしよう。
どうしたらいい。
出発を二日前倒しにしてみた。
帰国を1日早めてみた。
あっ、まだ空きがある。
カナの小学校を1日多く休ませなくてはならなくなるし、当初希望した日より値段が高くなるし、希望の日数より1日少なくなってしまう。
でも現時点では最善だ。
これを押さえよう。
例の支店はもう信用ならないし、一応最初に希望した日付でキャンセル待ちを入れてある。
今回の日程は、同じツアー会社の電話予約センターに直接依頼することにした。
それに支店の開店時間より電話予約センターの受付時間の方がオープンが早い。この僅かの時間にせっかく見つけた空きが埋まってしまっても泣くに泣けないしね。
電話予約センターのお姉さんは、支店の担当者とはうってかわってきびきびした口調であっと言う間にツアーを押さえてくれた。
これで一安心。
・・・等という失敗を去年はしているのである。
今年は何が何でもスタートダッシュで後悔するような羽目にはなりたくなかった。
で、今年は早めに準備を始めた。
ついでにいよいよツアーを離れて個人旅行をすることにした。
その理由は、既に
ポートダグラスに二年続けて泊まって、そろそろ違う場所も知りたいという欲求が出てきたからだ。
もっと以前に、ケアンズ市内やパームコーブに泊まったこともある。
ツアー会社が扱うホテルは大半が
ケアンズ市内。あとはパームコーブやポートダグラスが少し。さらにノーザンビーチやモスマン・ケープトリビュレーション方面の有名エコ系高額ホテルがちらほら、それでおしまい。
もっとマイナーでディープでリーズナブルなアコモを探そうと思ったら、航空券と宿泊は別々に手配するしかない。
去年辺りから既に
アサートンテーブルランドに泊まりたいという気持ちがあった。
理由は何だか面白そうな小さな宿が多いからだ。
アサートン、
マリーバ、ユンガブラ、ミラミラ・・・いろいろ選べるし、眺めの良いB&Bやロッジ、ファームなんかもある。
目に付いたのは、マリーバのArriga Farmstay。
アサートンの無料冊子Discoverに掲載された広告には、庭にある気持ちよさそうなスパ(ジャグジー付きお風呂)と色とりどりのフルーツが。
サトウキビ農園でいろいろな体験ができ、建物はコロニアル風。オーガニック栽培の野菜やフルーツがふんだんに食べられると言う。
ここなんか面白そうだな。
ほとんど気持ちは決まりかけていたのだが、ケアンズとファームステイのキーワードで検索を掛けると、他にもいくつかのファームが引っかかってきた。
ん、ミラミラにも、ひとつあるんだ。
ミラミラは一昨年のドライブで訪ねた。
ミラミラ滝や
ミラミラルックアウトのある美しい丘陵地帯だ。パッチワークのようにグリーンの濃淡が広がり、ちょっとイギリスの湖水地方を思わせる。
Iskanda Park。
マリーバは去年も二日掛けて回ったからミラミラの方が場所がいいかも。
ちょっと調べてみよう。
Iskanda Parkと検索ワードを打ち込んでみたら、なんと今年の年始にここに泊まられた方の日記が引っかかってきた。
tadagenさん一家の
子連れで行っちゃお海外旅行。
フレンドリーな老夫婦が営む家庭的な農場。牛が放し飼いになった広大な敷地に子連れでも気兼ねない独立したコテージ。
これを読んでいくうちにすっかり気持ちが固まった。
ここだ。ここにしよう。
すぐにでも予約を入れようと急く私をパパが止める。
待て待て。まだ日程も固まっていないのに。
だって部屋は全部で3部屋しか無いんだよ。コテージは一棟。どうしても泊まりたいという宿が見つかったら、後悔しないためにもすぐにでも行動したい。
「・・・じゃあ空いているかどうかだけでも聞いてみれば?」
う、うん・・・。
英語力ゼロながら、参考になりそうな英文見本などを見てなんとかメールを書く。
パパが内容をチェックしてOKを出してくれたので早速送信した。
返事は翌日。
空き室有り。
差出人の名はCindy。
・・・?
確かこの農場を営んでいるご夫婦の名前はTony氏とSandra夫人。このシンディさんって誰だろう。
パパの頭の中には勝手に老夫婦の娘の金髪美人が浮かんだようだ。
誰か他に予約業務を担当している親族か使用人がいるのだろうか?
実際に現地に足を運ぶまでこのことは私たち夫婦にとってちょっとした謎だった。
次はミッションビーチ。
冒頭に書いたように、パパはミッションビーチがどこにあるか知らなかった。
ノーザンビーチの一つだと思ったそうだ。
ノーザンビーチというのは、いわゆるケアンズの北に連なるビーチ群だ。
ケアンズとポートダグラスの間のビーチで、一番メジャーなのはパームコーブ。
その他にケアンズ寄りから順番にMachans Beach、Holloways Beach、Yorkeys
Knob(本当にノブの形をしているからだとか)、Trinity Beach、Kewwarra Beach、Clifton
Beachとある。
Cliftonビーチの隣がパームコーブでその隣が
エリスビーチ。ケアンズのノーザンビーチというとたぶんここまでを指す。
ミッションビーチは違う。
ケアンズの北ではなく南に位置する。
今やノーザンビーチから
ポートダグラス、
ケープトリビュレーションまで北方はすっかりメジャーになったきらいがあるが、南にどんな場所があるか知っている人は意外に少ないと思う。
ケアンズから国道1号線ことブルースハイウェイを南へ20キロ弱走れば、正面に正三角形の奇妙な山があらわれる。その名もピラミッド。ここがゴードンベールで、ピラミッドの手前で道は二股に分かれる。
西へ折れれば
アサートンへ、直進すれば更に20キロ強進んだところで今度はバビンダという小さな町があらわれる。国道沿いに古びた製糖工場のそびえるこの町は、ボールダーズというアウトドアスポットの入り口になっている。二年前のドライブでは、この近くで野生のクジャクを目撃した。
バビンダも過ぎてまたまた20キロほど行けばようやくイニスフェイルという町に着く。ここはノースとサウスの二つのジョンストン川の河口に挟まれた町で、ケアンズを過ぎてようやく次のまともな大きな町に来たなという感じにさせられる。町の一番高いところには聖堂がそびえていて、スーパーマーケットだってウールワースにコールズにIGAによりどりみどりだ。
イニスフェイル近くのメナ・クリークにはケアンズの南方で最も有名な観光地がある。
パロネラパークだ。
天空の城ラピュタのモデルになったと言われるスペイン風古城庭園。
ここまでは一昨年来たことがある。
よりにもよってポートダグラスから果てしなくドライブして・・・。
古い建物や歴史におよそ興味のないパパは、はるばる車を運転してきて蚊の餌になっただけと、今でも散々なコメントを残している。
私としてはもうちょっとゆっくり見学したかったが、パパは二度と行かないと言っているので再訪は絶望的だろう。
イニスフェイルを出て、まだまだサトウキビ畑やバナナ園の続く田舎道をおよそ50キロ以上も走らないとミッションビーチには着かない。
ケアンズからの所要時間、およそ2時間弱。
この距離が今までミッションビーチをほとんど日本に知らしめていなかった理由と思われる。
それでもミッションビーチから16キロほど内陸に入った地点には、ラフティング(渓流下り)で有名なタリーがある。
ミッションビーチの名は知らなくとも、タリーへの日帰りツアーで南方を訪れたことのある人は多いかもしれない。
また、ゴードンベールとイニスフェイルを結ぶハイウェイからテーブルランド側へ広がる広大な熱帯雨林は、クイーンズランド州最高峰のMt.バートル・フレアを中心としたウールーヌーラン国立公園で、最近とみに注目され、各国語のツアーなども催行されている。
さて、ミッションビーチの位置を把握してからパパは俄然その気になった。
オーストラリアまで行っても、いつも忙しない妻に振り回されて一瞬たりとものんびりできない走り回る旅行ばかりとぼやいている彼は、椰子の葉揺れるリゾートビーチで日がな一日ごろごろするのが夢だったりする。
ミッションビーチならそのささやかな夢が叶いそうだと。
ミッションビーチはミッションビーチ、ウォンガリングビーチ、サウスミッションビーチの三つの隣接するビーチを総称することが多く、全部で14キロもの黄金色の砂浜が続く。
大きなリゾートホテルはサウスミッションビーチにあるホテルThe Horizonぐらいで、後はほとんどがコンドミニアムやバックパッカー宿、一軒家の貸別荘などだ。
いくつも現地の不動産屋などが公開するサイトを見て回ったが、なかなかぴんと来るところが無い。予算オーバーだったり、内装が安っぽかったり。
そんな中、パパが最初に目を付けたのはCassawong Cottages。
四棟の独立したコテージが一つのプールを囲んで建っているらしい。森の中の隠れ家風の洒落た雰囲気の貸別荘だ。
私の方はもうひとつぴんと来なかった。
立地条件がいまいち。
ビーチとの間を道が一本隔てている。
この辺りはどーんとビーチ一望のホテルなどは無いらしいと知っていても、ビーチ沿いか道向こうかでずいぶん印象が異なると思う。ビーチに泊まるならビーチ沿いの部屋が良い。
更に時間を掛けて条件に合うところを探した。
意外かも知れないが、このビーチは道路よりビーチに近いアコモは非常に数が限られている。
何軒目かで目を留めた。
一目でぴぴっと来るものがあった。
それも夫婦二人して。
ここしかない。
ほとんど確信。
そうしてミッションビーチのアコモデーションも確定した。
Wongalinga Beach Apartmentsに。
アコモデーションの決定と手配はママ担当だったが、エアチケットとレンタカーはパパが担当した。
しばらくツアー旅行しかしていなかった上、ゴールデンウィークなどに航空券を取ったことのない我が家では、この時期の手配をどうすればいいか実はよく判っていなかった。
格安航空券を買おうにも、その年度の料金が決定しないことには手配できないと思っていたが・・・冬が来てもまだ次の年度の料金設定は出なかった。
もしかして・・・と思って調べると。
なんだ。料金が判らなくても予約だけはできるんじゃない。
夏休みと違ってゴールデンウィークは日程が限られてしまうから、出発日と帰宅日はプラチナチケットになりかねない。
キャンセル料が発生するのは発券後だから、とにかく予定日に予約だけ入れてしまうべきだろう。
さて、ここで悩んだのは正規割引運賃のこと。いわゆるカンタスのスーパーカンガルーのことだ。
スーパーカンガルーにはスーパーカンガルーとスーパーカンガルー21とスーパーカンガルー35がある。
チケット手配を依頼した旅行代理店に、予約はどれになるのか聞いたら35の設定があればそれで入るが、もし無かったら21かもしれないとのこと。35と21ではずいぶん金額が違うからどうしよう・・・。
JALはどうだろうか・・・とパパが相談したら、じゃあJALも予約を入れましょうと言ってくれて、結局出発日をずらして両方に予約を入れることになった。
2月後半。JALのオーストラリア路線の金額がようやく出た。
黙っていたらこちらは前売り悟空21で35ではなかった。
カンタスの金額がいつまでも出ないので、JALで決めてしまおうかと思ったのだが、掲示板でCocoさんにウェブなどでの一般公開はまだでも既に金額は決まっているらしいと聞き、こちらから問い合わせてみることにした。
結果はカンタスはスーパーカンガルー35が取れていた。
よってエアはカンタスに決定。
JALの方が滞在を1日長い設定にしていたので、そこだけちょっと残念だったがとにかく座席は取れて、これで間違いなくゴールデンウィークに
ケアンズに行かれることが決まった。
最後がレンタカー手配だ。
大荷物を持っての移動なので、空港レンタル空港返却が望ましいが、最近のオーストラリアでは空港貸し出しには空港使用税なるものを上乗せする。
それも貸し出し時に一律金額を徴収するのではなく、全体の何パーセントという計算だから、レンタル日数が長いほど、割引になるどころか高く付くという誠に悩ましい税金だ。
ばかばかしいが、しかしいろいろ考えた末やっぱり空港レンタルにすることにした。どう考えても高いけど、手間や面倒を考えてぎりぎり許せる額だと判断した。
ちなみにケアンズ空港の空港税は12%。
レンタカー会社ではエイビスとハーツを使ったことがある。
エイビスはとても役に立つ詳細な地図を貸してくれて、しかも様々な観光施設の割引クーポンをどっさりとくれる。しかし地図は貸してくれるだけで紛失すると50ドルばかり払わなくちゃいけないようなしろものだし、去年我が家はクーポンの存在を知っていながらレンタル時に向こうから提示してくれなかったので今は無いものと思いこみ結果何だか損をしたような気持ちが強い。なんでもくれなかったときは自分から「下さい」と言わないといけないようだ。
ハーツの方はといえば地図もクーポンも言わなくても気前よくくれるが、地図はフリーペーパーの方がマシというお粗末さだし、クーポンもささやかなしろもの。
結構対照的だ。
パパはどこがお得かいろいろ調べた。
その結果、今年はハーツに決めた。
ある日ママに向かって、どうしてハーツに決めたと思う? 笑っちゃうような割引率なんだと教えてくれた。
我が家はコンパクトカーのAT車を10日間借りる予定。
空港税込みで通常料金だと AU$ 1335.76 ・・・高~い。
それがカンタス航空利用でーすと一言言うと、AU$ 780.32 ・・・おおーっ。
さらにカンタスのマイレージ会員フリークエントフライヤーでーすと会員番号を入力すると、AU$679.09・・・ええーっ。
・・・半額まではいかないが、ちょっと驚く値引率。
オーストラリアに行く人のかなりの人数がカンタスを利用するだろうし、日本在住ならフリークエントフライヤーの会員になるのだって無料だ。こりゃお得だね。
ついでにその分のマイレージまでつくというおまけ付き。
エイビスとバジェットも同様のサービスを提供しているが、我が家の条件ではハーツがダントツで安かった。
これで事前準備はおしまい。
あとは体調を整えてひたすら出発を待つのみ。
そして今、囂々と鳴り響く狭い機内で夜が明けるのを待っている。
・・・そう、眠れない。
興奮して・・・じゃなくって。
レナ!! 頼むから寝ぼけてぐずぐず言うのはやめてくれ。
二日目「雨のアサートンテーブルランド」へ続く・・・