子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★☆ 泉質★★★★☆ 露天風呂は適温。
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★☆ 日帰り入浴の場合、露天風呂しか利用できない(追加料金で貸切風呂は利用できる)
子連れ家族のための温泉ポイント
「黒川温泉では予算が許せば山みず木と言うところに泊ってみたいけど・・・」と私。
「じゃ、そこにしよう」
「えっ」
確かに他の宿に比べてとびぬけて高額というわけではない。湯布院あたりなら軒並み相場がもっと高い。
「ホントにいいの?」
山みず木のどこが特にいいのかまで調べて発言したわけではなかったが、そんなわけで3泊4日の九州旅行最後の宿泊はまさかの山みず木に決定。
そもそも私が初めて黒川温泉という場所を意識したのは今から12年ほど前だった。
その頃私は子連れ温泉ガイド地熱愛好会のウェブサイトを立ち上げたばかりで、温泉関係の情報を発信するならいろいろ知らないとと思い、刊行されたばかりの「温泉主義」という雑誌を購入してみたのだ。
温泉主義は温泉学教授として名を馳せた松田忠徳氏のプロデュースによる、B5版、しっかりした紙質の120頁ほどの冊子で、創刊号の特集は黒川温泉だった。
内容で印象に残ったのは、人工的な庭園ではなく雑木を、広葉樹を植林し、しかもそれがわざとらしくなく、自然に見えるように作ったというエピソード。この話を読んだときに「山みず木」という宿名も同時に頭の中にインプットされた。
大雨の中、チェックインしたのは午後2時過ぎ
直前に寄った黒川荘が温泉地の西に外れたところに位置しているとすれば、山みず木は東側に離れている。
東には山みず木の他にも数件の宿があるが、いこい旅館などが建っていた中心地と違ってそちら側は一軒一軒が比較的離れている。
何だか道はいかにも山の中といった雰囲気になってきて、対向車とすれ違うのもやっとのところもあった。
ふいに開けたと思うと、道の左側にまるで新興住宅地のように沢山の家が建設中の様子が見えた。
こんなところに沢山の民家を作るわけないし、これはもしかして・・
「山みず木の離れかぁ」
確かにそうだった。
翌日フロントで伺った話では10月にオープンする山みず木の貸別荘というか、離れとのこと。深山山荘という名で山みず木とはまた違った趣があるので今度はそちらに泊られてはいかがとにこやかに勧められた。
その工事中の一角を過ぎるとすぐに山みず木だった。
思ったよりずっと玄関が小さい。
建物全体が木々に覆われているのでよく見えない。
それにすぐ近くで離れの工事をしているので工事車両や工事用のコーンなどがやけに目につく。
黒川温泉で一番有名な宿だと思うと私が言っていたので、夫はもっときらきらで豪華な玄関をイメージしていたのかもしれない。あれ?と思ったのがわかった。
しかし車を停めるところを悩んでいると、雨の中、すぐに宿の男性が飛び出してきて、停めやすい位置に誘導してくれた。
まだ雨が降り続いていたので屋根の下に入るとホッとする。
ロビーはたいそう品が良く、囲炉裏やアンティークの暖炉が飾られていてセンスが良い。
小さな宿にありがちな、カウンターに民芸品などごちゃごちゃと置くようなことはせず、すっきりとまとまっている。
仲居は雨にぬれて来たことを同情しながらも、それなら立ち寄りせずに真っ直ぐいらっしゃった方が良かったですねところころと笑った。
黒川温泉 旅館山みず木の名を有名にしているもののひとつは露天風呂だ。
30近くの宿がそれぞれ個性的な露天風呂を誇るこの温泉地で、多分ガイドブックなどで最も頻繁に、大きく扱われるのがこの山みず木の露天風呂ではないだろうか。
まずロビーの前で左に曲がり、売店や食事処のある廊下を通り、外に出る。
下駄箱には草履とともに番傘が用意されている。
まだ雨が降っていたので傘を手にする。そこからは木立の間の小路を進むと道は途中で二手に分かれる。
左が内風呂。右が露天風呂。
この二つは奥でまた繋がっていると、チェックインの時に説明を受けた。つまり、道が輪のようになっているのだ。
右にも左にも脱衣所があるが、ただし入浴手形などの日帰り客は右の露天風呂側にある脱衣所しか利用できない。
この時は露天風呂に近い方がいいやと右の脱衣所を利用したが、後から両方を見て、やはり宿泊者専用の脱衣所を使用する方が快適だと判った。
露天風呂方面の小路を進むと簡易な脱衣所が建っている。
小屋ぐらいのサイズで中は脱衣棚があり、そのすぐ横に大きな露天風呂があった。
雑木を植えて自然な感じを演出したことが黒川温泉の計略のひとつと言われているが、まさにそれが完璧に成功しているのがここだろう。
岩風呂の隅に一部瓦屋根を掛けて、あとは庭木とは違うてんでに伸びているふうの木々が露天風呂や川に向かって張り出している。
そう、川。隣に川が流れているのがまたいい。
山の中を流れる川そのまんま。奥の方には段差の小さな滝も見える。
今は雨が降っているので川は茶色く濁っていた。
露天風呂のお湯がごく薄い白濁なので、川の色との対比が面白い。
目隠しの衝立も何もいらない素晴らしいロケーション。自然の要塞的な作りで、しかも開放感がある。
高台から見下ろすとかそういう特殊な立地は別にして、理想の露天風呂を描いてくださいと言われたら、多くの人はこんな風な露天風呂をイメージするのではないだろうか。
まず掛け湯をと思って、脱衣所のすぐ外に設置された掛け湯槽とおぼしきお湯を貯めた槽に手を入れた。その中に木の湯桶が二つほど半分沈んでいたので。
ところがこれが熱湯だった。思わず突っ込みかけた手をひっこめ、涙目になる。
掛け湯槽じゃないのかなぁ?
でも湯桶入れてあるし・・温度調節に失敗してたのか? これは今でも謎。
最初は雨が降っていたので露天風呂は屋根を掛けた部分に入った。
屋根の下は浅くなっていて寝湯ができる。
たまに熱いお湯が流れてくるがおおむねぬるめ。
ただしぬるめだと思って油断していると、湯口から出てくる流れが自分の方に向いてきて、急に「あちっ」となることもあった。
この時はうっすらとお湯から火薬のにおいがしていたが、この微かなにおいは二度、三度と入るうちに消えてしまった。
湯の花は白くてそこそこ大きなものが漂っていた。
さて、内湯の方だが、この露天風呂から川沿いの「裸の散歩道」なる小路を通って行き来することになる。
人ひとりがやっと通れる幅の道で、川の側は木の柵、足元はコンクリで固めてあるが、木立の間を通るので落ち葉なども落ちている。寒い時期だと少し辛いかも。
今も夏ではあるが小雨も降っていて肌寒い。早足で移動した。
内湯はお風呂と脱衣所だけの湯小屋になっている。
お風呂は途中に仕切りがあって二部屋が繋がっている仕組み。洗い場も付いている。
両方の部屋にはそれぞれ長方形の木の浴槽があって、正面の大きな窓からは緑と滝が見える。
この滝は露天風呂から見えたものではなく、支流の本当に小さな滝なのだが、これがまた絵になるのだ。
窓からの景色を一幅の絵に見立ててジャストの位置に浴室を置いたようだ。
二部屋の浴槽は、この時は窓に向かって右側の浴槽のお湯が熱く、左側はぬるめだったが、露天風呂の火薬臭と同じように、二度、三度と入りにいくうちにどっちの温度もあまり変わらなくなっていた。
湯上りはさっぱりさっと乾く感じでべたつかない。さらさらすべすべの肌触り。この感触も女性に好まれそう。
しかし着替え一式は露天風呂の方の脱衣所に置いてきてしまったので、また外を歩いて戻らないとならないなぁ。
夕食後は行こうと思っていた場所があった。
それは「さおと女」という独立した湯小屋で、露天風呂や内湯に行く道の一番手前に建っている。山みず木外来客の食事処の井野屋より手前だ。
ここは昼間は貸切風呂として使用されているのだが、夜9時から11時だけ女湯になる(土日祝日は午後2時から女湯になる)。
混んでいるかなと思ったけど、やっぱり誰もいない。本当に今回の旅行は湯船独占率が高い。
気持ち薄暗くて、髪を洗っているとちょっと怖かった。他に誰か入浴客がいれば別段何も怖くないが。
山みず木としては比較的普通の湯船で・・もしかしたらここが一番古い浴室なのかもしれない。
縁は素朴さが感じられる木目が溝になった木製で、筒状の湯口からお湯が落ちている。
正直なところ、湯船のサイズや洗い場の数から、これはどう見ても貸切風呂とは思えない。本当に普通の浴室という雰囲気。
そしてもう一度浴衣を着ないと移動できないけど、最後にやっぱり露天風呂に入りに行った。
露天風呂は流石に先客がいたが、長湯をしているうちにいつの間にか一人になっていた。
月は見えないが、夜空がすっぽりと周囲を覆っている。
昼間より川の気配を感じる。
さわさわと風に梢が揺られて葉が密やかな音を立てる。
温度が下がって体温より少し暖かいぐらいに感じるお湯が全身を包んでいて、もうこのままずっとここにいられたら幸せだなと思った。