子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★☆☆ 泉質★★★☆☆ 仇討の湯や新湯は少しぬるめ
- 設備★★★☆☆ 雰囲気★★★★☆
子連れ家族のための温泉ポイント
九州旅行を企画していた時、たまたま見つけた地獄温泉清風荘というところのお風呂に一目ぼれして予約確定。
しかし後からもっとよく調べておくんだったと後悔した失敗がひとつあったが。
途中、高千穂峡観光前の午前中に立ち寄った垂玉温泉山口旅館を過ぎて更に阿蘇山麓を昇っていくと、山の中の老舗旅館らしい風情を漂わせる地獄温泉清風荘に到着した。
「地獄」と「清風」。なんとも相容れない印象のネーミングが強烈だ。
受付でチェックイン時にお風呂の説明も受ける。館内見取り図を出して説明してくれたが、沢山ありすぎて覚えられない。
とにかく一番有名な混浴のすずめの湯は玄関から見えた石段を降りたところで、女性専用タイムは夜8時半から9時まで。これだけは覚えておかないと。
ポスターがいくつも壁に貼られたぎしぎしと鳴りそうな階段を昇って、2階へ。
部屋は鍵の無い湯治部屋。
磨かれた廊下が真っ直ぐに伸びていて両側に並ぶ襖はみな閉じている。
私たちの部屋は一番手前だった。
湯治場としての機能性からか一部の部屋は隣の部屋とを隔てる襖を全部開放すると一つなぎの大広間になる。
といっても大グループでもなければ普段はそれぞれ区切って宿泊者が使う。
廊下とも隣室ともなんとも心もとない紙製の襖で囲われているだけの部屋なので、人によっては抵抗があると思う。
私たちは山形の滑川温泉とか好きなので全然気にならない。貴重品の管理だけ気を使えばいいと思っている。
ちなみに本館二階のこの廊下の両側には9室ほど部屋があったが、この日、外にスリッパが出ていたのは私たちの部屋と、ほぼ対角線上にある部屋の二部屋だけだった。
部屋自体はたいそう綺麗だ。
湯治場としてイメージしていたような古くかび臭いものではなく、高級感は無いが畳も机もテレビもむしろ真新しい。
最初に入りに行ったお風呂は館内の元湯。
ここは男女別の浴室で、源泉は露天風呂の仇討の湯・露天岩風呂や、二つある家族貸切風呂と共通だ。
元湯の浴室は思ったより広かった。
広いと言ってもスペースのほとんどを浴槽が占めている。つまりお風呂が大きいということだ。
いい具合に黒ずんだ木造で、昼間なのにちょっと薄暗く湯治場らしさが漂う雰囲気。
お湯はひざ下が見えないぐらいの灰色がかった白濁。
熱いかと思えばごく適温。地獄温泉の敷地全体にゆで卵臭が漂っているが、お湯からはそれほど感じない。
少し高い位置から工事現場みたいな飾り気のないパイプを通してじゃぼじゃぼとお湯が投入されている。
これがぬるめで手ですくって飲むと意外に金属のにおいが強い。でもって酸っぱい。飲んでからはお湯からも金属のにおいがするような気がする。
このパイプとは別にかかり湯と書かれた木の槽があって、そちらにもパイプが引かれている。
この熱さの違う二本のパイプは別々の源泉で、浴槽内の温度調節のため、季節によって混ぜる量を変えているようだ。
とにかくお湯の量はすごく多くて縁からざこざこと掛け流されていく。
すぐにあたたまり、お肌はすべすべだ。
木で組んだ高い天井を見て思う。うーん、なんかお腹が空いてきたな。
そういえばそろそろ夕食時間だ。
夕食後は女性専用タイムに合わせて混浴露天風呂のすずめの湯へ。
昼間見に行った時は日帰り客も多くたいそう賑わっていた。
女性も結構来ていたようだ。ただ、人が多くてとても入れなかったと嘆いている女の人の話し声も聞こえた。
浴衣姿で玄関でサンダルに履き替え、すずめの湯の入り口の小屋の前を通ると、さっきは気付かなかったが小屋の中に番人がいるのが見えた。
女性専用タイムに男性が来ないようにチェックしているのかもしれない。
暗いので足元に気を付けて、でもいそいそと石段を下りると、夕方には賑わっていた露天風呂も今は話し声が聞こえない。
でも静かというわけではない。ぽこぽこと妙な音が沢山響いている。
脱衣所は男女別。
混浴でも脱衣所が別にしっかり作ってある所は使いやすい。まあ今は女性専用タイムだから関係ないんだけど。
脱衣所の中に入ってびっくりした。脱衣所の中にも浴槽があった。
意外だったがこれも考え方によっては非常に合理的だ。
ここで掛け湯をしてから混浴ゾーンに行かれるし、ここまで来ても混浴に出る勇気が出ない人は脱衣所の中の浴槽で入浴していくこともできる。
白濁したお湯が入ったこの脱衣所の浴槽だけで十分な広さがある。でもここはやっぱり外のすずめの湯。そう思って掛け湯だけして外に出た。
すずめの湯は公式サイトの写真などで見ていたので、どんな風かはわかっていた。
でも本物を目の当たりにすると感動する。
脱衣所から見て右側が適温(ぬるめの札あり)、左側があつ湯。
適温の方は足元から湧いているところを木で六つの枠に仕切ってあるが、枠は上だけで下は繋がっている。
ライトアップされたお湯は白っぽくも、泥を溶かした灰色にも見える。
そのお湯の表面にぽこぽこと、あちらからもこちらからも絶え間なくあぶくが立ち上ってくる。
その時ようやく私は気付いた。
間抜けなことに今の今までわかっていなかったのだ。
すずめの湯に行くために石段を下りていくとぽこぽこ聞こえてきた賑やかな音は、これだということに。
お湯が湧いている音が離れているところまで聞こえている。
しかもその足元からお湯が湧いているその中に入れる。
これってものすごい贅沢。温泉としては最上級。
だってその湧いているお湯が既に浴用にちょうどいい温度なんだよ。熱すぎず、ぬるすぎず。
おまけに一般受けのする綺麗な濁り湯。
これまでに何度か足元湧出泉に入る機会はあったけれど、濁り湯は初めてだ。ほぼどれも無色透明だった。
ここはなんて恵まれた温泉なんだ。
腐った卵系のにおいも灰色の濁りも強い。
身を沈めると天然ジャクージ。背中にころころと泡が転がっていくのが感じられる。
足元は砂地。お湯はとろりとして感じられる。
もちろんあつ湯の方も入ってみた。
こちらは足元湧出にプラスして熱い源泉をミックスしているようでかなり熱い。体感温度として草津の外湯の熱いやつぐらい。
入れないことは無いがゆっくりリラックスして入れる温度ではない。
私はちょっと入っただけで諦めた。
最初は誰もいなかったすずめの湯だが、女性専用タイムになってしばらくするとぽつぽつと入浴者が増えてきた。
女性グループや親子連れなど。
何となく入っているメンバーで、聞くともなしに話し声が耳に入ってくるから合いの手を入れたりする。
奥の方に入っていた女性グループが地獄温泉の下に垂玉温泉山口旅館って言うのがあったでしょと言うので、ちょうど今日の午前中に入ってきたと私が答えると、気になる話を教えてくれた。
「あのね、この地獄温泉と垂玉温泉は経営が同系列らしくて、午後3時から夜の9時まで地獄温泉宿泊者は無料で入らせてもらえるんだって」
「ええーっ」
「しかも宿泊者専用の露天風呂も入れるみたい。ちょうど両方の宿の混浴露天風呂が女性専用タイムになっている時間が含まれるようになっているんだって」
「えええーっ」
そ、それじゃあ昼間、お金を払って垂玉温泉に立ち寄り入浴した私たちの立場は。
いやいやお金はいいとして、宿泊者専用と言われた名物の滝見の露天風呂も入れたなんて。
そんなの聞いてない。聞いてないよ~。
「あ、明日の朝、寄ってもダメかしら」
「あー、泊まる日だけなんだって言われた。でもフロントで聞くだけ聞いてみたらどうかしら」
浴後にダメもとで聞きに行ったが、主人とおぼしき帳場にいた男性は、明日は無理とあっさりと断った。
明日は無理なのはそういう取り決めなのだろうからしょうがない。
でもなんでせめてチェックインの時に教えてくれないんだろう。
帰宅後に温泉仲間にこの話をしたところ、何度も清風荘に泊っている人でもこのことを知らなかった。教えてもらったことは無かったと言っていた。
地獄温泉の宿泊客は垂玉温泉のお風呂にも無料で入れると知っていたら、今日の午前中に垂玉温泉に立ち寄り入浴はしなかったろうし、それは仕方ないにしてもチェックイン時に教えてもらったなら、夕食前にもう一度行っていたと思う。夕食後は無理。お酒飲んじゃってるし。
午前中の入浴は有料でも空いている中でゆっくり入れたからそれは諦めもつく。
夜の話は釈然としない。
知っている人だけが使えるこの話、宿に何かメリット有るの?
つまり、宿泊者への優待ならじゃあ宿泊しようという気持ちに繋がるけど、知っている人にしか使えない優待だと、私みたいに後から知った人は不快に思う。宿への良い感情が持てない。宿としてはそれでいいの?
地獄温泉清風荘、とても良いところで温泉も雰囲気も部屋も食事もとても気に入ったんだけど、この件だけがもやもやした。
この件だけで自分の中の評価がズンと下がってしまった。
といってもすずめの湯にはたいそう感激したので、部屋に戻ったら早速夫に報告。
ここに来たなら絶対すずめの湯に入らないと、だよ。
私が力説するので夫も腰を上げて入りに行った。そしてやっぱり最高だったとほくほくしていた。
特にあつ湯が気に入ったそうだ。あの温度にゆっくり入れるのは凄いな。
最後に夜遅く新湯に行った話も書く。
ここは夕方入った元湯やさっき入ったすずめの湯とは源泉が違う。明日はバタバタして入る暇がないかもしれないし、夜のうちに行って来ようと思った。
少し急いだのにはわけがある。
地獄温泉清風荘のお風呂は、湯治場としては珍しく、深夜12時を過ぎると朝まで入れないのだ(家族風呂を除いて)。
(なお、これは2014年夏の話だが、2015年現在、新湯は有料貸切風呂として使われるようになっていて、今はこんなエピソードはあり得ないが)
新湯への行き方は昼間一度下見をしているからわかっている。
しかしいくら建物の周囲は灯りがあるとは言っても、山の中の一軒宿で10時を回っての移動は少し怖いものがある。特に新湯への道はひと気もあまり無いし。
本当に下見をしておいて良かったと思った。
一度来ていなければ、敷地内とは言えどのくらい離れているかわからず不安になって引き返したと思う。
ぼんやりとところどころ灯りの灯る夜道を歩いてようやく新湯前まで着いた。
ところが・・・
ガタガタッ
「あれ?」
ガタガタガタッ
「あれれ?」
ドアが開かない。木の引き戸がいくら引っ張っても開かない。
施錠されているのかな。
まだ閉める時間じゃないのに。なんで?
あたりをきょろきょろ見回すが、相変わらずひと気が無い。誰も周囲にはいない。乗用車が停めてある隣の民家らしい建物も人の気配はない。
何だか泣きたくなってきた。
こんなに怖い思いをしてわざわざ離れた新湯まで一人で歩いてきたのに。
でもどうしてよいのかわからなかったので、部屋まで戻ろうと新湯を離れかけた。
その時声が聞こえたような気がした。誰かが呼んでいるような、でも聞き取れなかった。辺りを見ても誰もいない。
何を考えたのか私はもう一度新湯のドアの前まで来た。
さっき何度もガタガタやってみて開かなかったドアだけど、最後にもう一度引っ張ってみようと。
そうしたらドアは拍子抜けするくらいスルーッと開いた。
新湯は小奇麗な半露天風呂で、昼間見た時雰囲気からシャワーやカランがあるような気がしていたが、実はお風呂だけだった。
そしてそのお風呂の縁に一人、私より年上の女性が座っていた。人がいると思わなかったので、正直びっくりした。
よく聞くと、その人は毎晩この時間帯に新湯に入っているが、一昨日いつものように独占して入っていたら、男性が女湯に入って来ようとしたので、それから鍵を掛けて入るようにしたとか。言葉は関西のイントネーションだ。
「や、宿の方で?」
「違うよ。宿で働いている人たちはこの時間帯は髪を洗うから元湯に行く。私は新湯が気に入っているから・・・この時間の新湯の女湯は誰も来ないんだよね。いつも一人で入っている」
本当の清風荘の常連さんで、一年に何回か訪問してはその度に一か月位泊るそうだ。
鍵を掛けたその女性は話好きで、私がこれから回る長湯温泉や黒川温泉についてもいろいろ教えてくれた。
新湯のお湯は清風荘の他のお風呂に比べて源泉温度も低めだが、夏場だからかそれでもこの日は37度以上はあったと思う。
見た目は白濁しているがマイルド。においもほとんどなく、大人しい印象。
たいそう刺激的でパワフルなすずめの湯と違ってゆっくり入るにいい。
夜寝る前のひと時を過ごすには向いている。