19.招かざる客?
と、ドアが開き、別の客が入ってきた。
リュックを背負った観光客の男性だ。
「あのう、入っていいですか?」
「今、女しか入ってないから駄目」
と、年輩のご婦人はきっぱり。
や、やるー。
・・・というか、私に気を遣ってくれた気がする。
「あと10分したら来てもいい」
男性の返答はよく聞こえなかった。バスの時間がどうのとか言ったのかもしれない。結局彼は、ご婦人の頼みも聞きもせず、そのまま服を脱いで入ってきてしまった。
なんちゅう強引な・・・。
「混浴とか、こういうところの風呂とか初めてなんですよ。なんでこんなに橋から丸見えのところに風呂場作ったんでしょうねぇ。そういえば無料なんでしたっけ?」
男性は一人でよくしゃべる。
「200円だよ」と、取り付くしまもないご婦人の返答。
「ここの風呂は旅館に泊まった人とか入りに来る風呂なんですか?」
「えっ?」
「だからぁ、ここは観光客用の温泉なんですか?」
「違うよ。地元の人が入るところなんだよ。だから私たちが綺麗に掃除してるんじゃないか」
彼女は上がりながらそう言い放った。
あやや。
私の立場も微妙だなぁ。
彼女とはほぼ同時に
公衆浴場を出た。
「あの男、ちゃんと払うんだろうねぇ」と不審そうに振り返る。その一方では「あんなにゆっくり入っててバスは間に合うんかしら」と心配もしている。
私も入らせてもらって良かったのだろうか・・・と心配になったら、
「あなたはいいんだよ。
湯西川別館に泊まってるんだろ? 湯西川の旅館に泊まっている客は心配しなくったっていいんだよ」とお見通し。
しかも浴衣の柄で、宿泊先まで割れている。
「別館はお湯がいいよ。源泉を三本も引いてるんだ」
そりゃ良かった。地元の方に太鼓判を押される宿に泊まれたのはラッキーだ。
「帰りは向こう岸の平家集落の方を回って帰るといいよ」
「ぐるっと回れるんですね。良かった。茅葺き屋根の前を通ってみたいと思っていたんです」
「川岸まで降りないで、家の前を通るといいよ」
「どうもありがとうございました」
思わず深々とお辞儀をしてしまった。
この方がいらっしゃらなかったら、たぶんあの混浴公衆浴場には入れなかっただろう。