正面湯は船見商店の道向かいで数軒先。びっしり建物が立ち並ぶ一角なので近づくまで目立たないが、重厚な瓦屋根の立派な建物だ。
玄関上に掲げられた看板の「正面湯」の文字がきっちりした楷書体なのが印象的。
軒下に青銅の鐘が下がっていたり、入口を潜って振り返ると注連縄が張られていたりした。
ここで夫とは別れる。私は田の湯と両方入るつもりだったけど、彼は正面湯だけで終わりにして、あとは車で休んでるって言ってた。
正面湯はむちゃくちゃ混んでいた。浴室もだけど脱衣所も大勢人がいて、脱ぐ場所が無くて入口に近い隅の方で縮こまって脱いでいたら、地元の人がそんなところで脱いでいるとドアが開いた時に見えちゃうからもっと中の方に入れと脱衣棚の前に招いてくれた。
みんなとっても親切。
ちなみに今回の旅行で岩手・秋田あたりの温泉や旅館で会った方々は、みなさん親切なんだけど向こうからは話しかけてこないことが多いし、こちらから話しかけても話が長引かないというか、どんどん話を膨らませてあれもこれも言ってこない人が多いように感じたんだけど、山形辺りまで南下してくるとそうでもなくなった。
中はタイルの四角い浴槽が一つ。左右に洗い場がついていて、正面の壁側に黒い石の湯口。
お湯は無色透明。たまに黒と言うか灰色の羽毛のような湯の花があった。適温ぬるめ。肌触りはきしつきが激しい。
とにかくもう浴室内も人が多すぎ。全部地元の人みたい。
洗っている人も湯口の近くが特等席みたいで、湯口から直接お湯をくんで洗うのに使う。空くとすぐに他の人がそこを占拠する感じ。ただみんな譲り合うので長くはそこにいない。
優しい感じのお湯でどこか微かに甘いにおいがする。
ぬるめのくせに猛烈にあったまる。しかもそれが持続する系。
脱衣所におしゃべりして長居をしすぎないようにとの張り紙があったけど、わかる。完全に社交場としてみんな長居してる感じ。