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◆紅葉の湯田中渋温泉郷 湯けぶりウォーク◆3-4


4.角間大湯

 角間大湯の戸を開けると、もわっと熱気のような湯気が顔にあたった。
 それもそのはず、ここも湯田中大湯と同じように、脱衣所と浴室が一体になった作りだった。
 それも驚くほど脱衣所が狭い。というか、脱衣スペースとでも呼ぼうか、人一人でいっぱいになってしまうサイズだ。
 ちょうどそこに先客がいた。年輩の地元の方だ。
 もう服を着ようとしていたが、私が子供連れなのを見て取って、お風呂の蛇口を開きに戻ってくれた。
 「熱いからねぇ、ちっちゃい子はそのまま入れないからねぇ、今お水を出してきたから」
 もう、その気持ちだけで有り難くて涙が出そうだ。
 何しろ服を脱いで浴槽のそばに寄っただけで、足の裏が火傷しそうに熱いのだ。
 しかもそれがざばざばと掛け流されてくる。
 近隣エリアの外湯の中でも、掛け流し量が一番多かったのはここかもしれない。
 私一人ならなんとか入るにしても、ちょっとカナとレナにはなぁ・・・。

 脱衣スペースは狭いが、お風呂はその割に大きい。
 浴槽がかなりの部分を占めていて、余った角っこのスペースに脱衣所を設けたという感じだ。
 浴室の窓際にロープが張られ、脱衣スペースで使う足ふきマットやタオルを干してある。その様子が妙に所帯じみて、営利目的の温泉では考えられないなあと苦笑した。
 子供たちには熱いときのいつもの手で、お湯と冷水を洗面器で混ぜて掛け湯しまくる。
 自分はぬるまってしまう前にと思って入ってみる。
 無色透明、すっきりと綺麗なお湯だ。
 ちょっとお湯が澱んでいるあたりには、赤錆色の大きな湯の花がうようよしている。どうしてここにだけと思ったら、底の栓から伸びている紐に、生き物のようにぎっしりとからみついているからだった。
 きしきし感とすべすべ感という相反する肌触りが両方感じられる。
 薄い昆布臭と硫黄臭。オイルのぬるぬるする感じはここではまったくみられない。
 適温になってからは子供たちも喜んで入った。
 ちょっと深めのお風呂だが、もうレナも足が立たないようなお風呂は無い。
 このころには男湯も女湯も貸切状態になっていてすっかり家族でくつろいでいた。


脱衣スペースの狭さもさることながら、浴室に干してある手拭いや足ふきマットが何とも言えず・・・・
でもこんなに湯気のこもって湿度の高い場所に干しても乾かないような気がするのだが。 ここも熱湯ざんざか掛け流し。
安代館の若女将さんが「角間のお湯は(湯田中渋の中でも)ちょっと違うのよ」と仰ってました。


 最後にきっちりと水道水を止めて、名残を惜しみながら角間大湯を後にした。
 角間温泉には他にも滝の湯、新田の湯という外湯がある。
 小さな温泉地なのに三つも共同浴場があるのは、地元の人が日常使うお風呂の意味が大きいのだろう。
 湯上がりはさらさらだった。
 最近はレナもアトピーが出なくなったが、それでも肌はあまり強くない。また冬になると乾燥して少しがさがさになるかもしれない。ここのお湯が良い効き目をもたらしますように。
 しとしとと重苦しい雨が降る中、腰の曲がったおばあちゃんが歪んだ折り畳み傘を差して坂道を登っていくのが見えた。長靴を履いて手には青いバケツ。
 何をするのだろうと思ったら坂の途中に源泉小屋のようなものがあり、お湯汲み場があった。
 湯気の上がる一角には、組合員以外の方は売店で許可をもらってから汲んで下さいといった内容の立て看板。
 おばあちゃんはバケツ一杯に源泉を汲んで、またえっちらおっちらと坂を下っていった。
 洗い物などに使うのか。ここでの温泉は生活に根付いている。


 湯田中渋温泉郷。
 こんなに沢山の外湯に入ることができるとは思わなかった。
 どの温泉地もそれぞれ興味深く、甲乙つけがたい印象を残した。
 次に来たときは、今度は旅館のお風呂など巡ってみたい。安代館や湯田中よろづやも加盟している温泉手形などもあったはず。 


お湯汲み場へ向かうおばあちゃん




3-5.奥山田温泉に行かれなかった理由(わけ)へ続く


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