20.得体の知れない名湯
言われた入り口を入り靴を脱ぐと、まともな木の階段が待っていた。
今までの行程が行程だったので、中もとんでもない状況なのではないかと思っていたのだ。
廊下も古いところと作り替えた新しいところとある。
暖簾は普通だったが、脱衣所は狭くお世辞にも綺麗とは言えなかった。
脱衣籠が4つ5つ埋まっていた。
結構人気があるらしい。
何でも鹿の湯とは違うアルカリ性の硫黄泉で、胃腸病に効き目があり、特に糖尿病を煩っている人たちには大変な評判だという。
頻繁に通う人も多いのか、回数券も売っていた。
「失礼しまーす」
タオルを手に浴室に足を踏み入れると、先ほどの
雲海閣の硫黄泉より少し広い浴室は湯気が充満してうすぼんやりと煙っていて、先に入っていた人たちが「こんにちは」と声をかけてくれた。
雲海閣が入り口を入って横に二つ浴槽が並んでいるのに対し、
喜楽旅館は縦に二つ並んでいる。
こちらも四角い木製の浴槽だ。
青白い濁り湯がたたえられていて、何故かそれぞれに二つずつバルブのついたパイプが伸びている。