大浴場は如何にも大ホテルの浴室という感じだった。
脱衣所も洗い場も大勢のお客さんがいっぺんに使えるよう配慮してあるし、窓が広くて圧迫感のない空間はなんとなく贅沢だ。御影石の浴槽や床も高級感がある。
手前に八角形の小さめの浴槽があるが、これは水道水の沸かし湯。奥に二つ広い浴槽があって、そのうちひとつは打たせ湯の湯が何本か落ちている。
温泉はこれまた絵に描いたような白濁湯だった。ほとんど真っ白だ。
酸っぱそうな硫黄臭に肌触りさらさらした湯の感触、これはまた、猛烈に一般受けしそうなお湯だ。
クラスに一人いるモテモテのイケメンくん。まさにそんな印象。
近所の滝の湯も白濁湯だが、あちらがアクの強い個性派だとすれば、こちらは10人いれば9人までがまさに思い描いていたような温泉だわと感激することだろう。
露天風呂もついていた。流石に場所柄、展望はないが。
四角い木の浴槽でなかなか感じがよい。
内風呂が少し熱めだった分、露天はぬるく感じる。お湯は内湯の、特に打たせ湯がついている浴槽が濃い感じだったが、のんびり入るなら露天風呂の方がいいかもしれない。
くららさんがふいに「マツタケの匂いがする」と言い出した。
へ? この温泉に?
いや、どうも空中の匂いを嗅いでいるようだ。
「マツタケの匂いってすぐに判っちゃうよね。家でこっそり一人で食べようと思ってもすぐにばれちゃう」
す、すいません、うちの食卓にはマツタケなんて上りません~。
たぶんお昼時だったから、ホテルのレストランから匂ってきたんじゃないかと思う。
温泉でマツタケ・・・如何にも豪華ホテルらしい。
それからくららさんは浴室に戻って髪を洗い始めた。
私はどうせ今夜は子どもたちを連れて
すぱ鬼首の湯に行くだろうからと洗わないでいるつもりだったが、シャンプーから漂ってくる甘いフルーツの匂いに誘われて、思わず自分もしっかり洗ってしまった。鳴子観光ホテルには、オレンジと炭と二種類のシャンプー・リンス・ボディーソープが備え付けられていた。
結局、
鳴子観光ホテルは加水循環風呂だった。
でもものは考えようで、このホテルで重視しているのは大勢のお客様に、熱すぎたり待たせたりしないで、気持ちよく温泉に入浴してもらうこと。それを考えれば高い温度は加水し、広々とした浴槽に常に満々と湯を張るのは間違いではない。
清潔度は申し分ないし、アメニティも揃っている。
これはこれで良いのだ。
各々で差別化を図るという点でも。
ちょっとやそっとの加水循環では損なわれないような強力で端正な源泉を所有していることもこのホテルの強みだろう。
最近は家庭の事情で、旅行に出てもあまり数多くの温泉に入れない私である。いや、家庭の事情って、単にパパも子どもたちも何回も風呂にはいることを好まないだけだが(当たり前か)。
だから一日~二日で1湯とかの状況だと、どうしても循環風呂に当たるとショックが大きい。増して鳴子だと掛け流しがほとんどだと思われるから(一方、加水はところによって結構日常的に行われていると思う、全般的に温度高いし)。
そんな私がここで循環風呂に当たっても、別に全然ショックじゃなかったのは、何と言っても昨日、屋代さんに心ゆくまで絶品風呂を案内してもらったからだと思う。
それに思ったよりずっと湯遣いが良かったしね、鳴子観光ホテル。
だからここも含めてバリエーション豊かな鳴子温泉を楽しめて良かった。鳴子観光ホテルを選んでくれたくららさんにも感謝。
強いて言えば、せっかくのイケメンくん、すっぴん顔が見たかった。これだけレベルが高いなら、さぞや源泉そのままは・・・と、想像だけしてみる。