9.塩素はやめて
後は帰るだけ、と思ったけど・・・。
子供たちも目を覚ましたから、最後にもう一カ所入っていくか、とパパ。
喜多方からIC方面に向かうわけだし、あとは子供たちの髪や体をしっかり洗える場所がいい。
先日の
会津本郷温泉がハズレだったからこのあたり、お湯的にはさほど期待できないけど、会津坂下にも日帰り温泉があったはずだ。そこはどうかな。
古いガイドブックで「湯トピアばんげ」、新しいガイドブックで「
糸桜里の湯ばんげ」。名前は違うけど、たぶん同じ施設だろう。
会津坂下は最初字を見たとき、「あいづさかした」と読むのかと思った。坂下で「ばんげ」と読むなんてぴんとこない。糸桜里の湯ばんげという名前を見たとき、「なまはげ」みたいな角のある化け物を想像してしまった。
パパはナビを見ながら、ここってスキー場の側なんだな、とてもあと10キロ走ればスキー場があるような場所には見えないぞ、と言う。
確かに。
見たところ、平地で田圃が続くばかり。どこにスキーのできるような山があるのだろう。
会津坂下町に入り、少し北上する。やっと低い山が見えた。それでもスキー場があるような山には見えない。本当にこんなところでスキーができるんだろうか。
いや別に、スキーをしに来たわけではないからそんなこと気にしなくても良いのだが。
斜面に糸桜里の湯ばんげは建っていた。いかにもセンター系という感じのかなり豪華な建物だ。
入り口はバリアフリーになっていて、浴室は眺めの良い二階にある。
とても綺麗で広々としているが、浴室に足を踏み入れたとたん、充満するカルキ臭。
窓を広くとった展望風呂は、濁らない黄緑色のお湯だ。温度は適温で軽いにゅるにゅる感がある。隅にハーブのイベント風呂があり、展望風呂の正面に真湯のジャグジー。露天風呂の出口手前に寝湯と水風呂とサウナが並んである。このうち水風呂は透明だが寝湯は茶色っぽい。それともこの色はお湯の色ではなくタイルが変色しているのかもしれない。
露天風呂もカルキ臭がひどかった。
高台にあるのに立ち木がじゃまで遠景がほとんど見えない上に、目隠しもあってせっかくの立地条件が活かしきれないのが残念だ。
展望風呂と寝湯と露天風呂に温泉が引かれているが、37度くらいのぬる湯に調節された寝湯だけ明らかに色が違う。この浴槽だけがカルキ臭がしない。
にゅるにゅる感も少し弱く、排水はパスカルの穴になっている。施設の方針からして掛け流しとはちょっと思えないが、ここのお湯がダントツで良いような気がする。
そんなわけで、ずっとこの寝湯に居座ることにした。ちょうど5時から料金が安くなるのだが、5時少し前でお客さんもほとんどいなかったので。
ぼーっと寝湯に仰向けになっていたら、ふいにカナがお風呂に変なものがあるから見てと、腕を引っ張った。
何事かと思って展望風呂の底をのぞきに行けば・・・白いペットボトルの蓋を少し大きくしたようなものが沈んでいた。
こ、これは・・・。
つまみ上げて愕然。
昔、小学生の頃、水泳の時間にいつも見ていた。プールの底にたくさん沈んでいたあれだ。
カルキ臭のみなもと。塩素剤ではないか。
見ると展望風呂の底には他にもあと1つ。露天風呂にも二つ、水風呂にも一つ、沈められていた。
・・・。
温泉でレジオネラ菌による死者が出て以来、施設がお湯の消毒殺菌に神経質になるのは判る。
しかし本来やるべきことは浴槽の清掃と、何より循環装置を使うなら装置内のフィルタや管の殺菌消毒ではないか?
浴槽内に無造作にぽんと塩素剤を丸ごと投げ込むのは正しいのか?
今までカルキ臭のする温泉にはいくつも入ってきたけど、どこもこんなことを日常的にやっていたのだろうか。
これが今どきの温泉の真の姿なのだろうか。
何か間違ってないか?
塩素を入れても温泉には変わりないなんて、目の当たりにしてしまった今、そんな詭弁は聞きたくない。
名水を使い最高級の昆布と鰹で出汁をとっても、そこにいの一番や味の素を入れたら台無しだ。
人工調味料を使うなとは言わないけど、それは水道水に入れてくれ。こんなことをしたら、昆布も鰹も浮かばれない。どこそこの高級品を使いましたという名前だけになってしまう。
最高級の温泉ばかりを巡ってきた最後に、大きな問題提起をつきつけられたような気がした。