7.大混雑の秘湯
姥湯が秘湯たる所以の一つは、宿の前まで車で行くことができないこと。
建物は見えているが、意外と離れている。吊り橋を渡って急な坂道を登らなければならない。宿泊する人の荷物はケーブルで運ぶので、吊り橋の横に荷物用のケーブルが見える。
坂を上っている間にも大勢の人とすれ違う。雨が降っているのでみんな頭にタオルを乗せたりビニール傘を差したりしている。
子供連れも多い。
桝形屋の入り口を開けると、待ってましたというように、中に入らなくても入浴料が払えるように係りの人が立っている。
寒いので体は冷え切りがたがた震えている状況で、混雑の中、狭い坂道を濡れた他の人とすれ違いながら行くのは難儀だ。
なかなかどうして辛い行程だった。
最初に右手に女性用露天風呂がある。そこを通り過ぎてさらに登ると混浴の露天風呂が二つ。混浴露天風呂の手前に、男性用も女性用もなくほとんど丸見えの脱衣所がしつらえてあり、これまたぎゅう詰め。
いくらなんでもこれでは女性は脱衣できない。
バスタオルを巻いた女性の一団が通りかかったので、どこで脱いだらいいでしょうと問うと、女性用の露天風呂にある脱衣所で脱いで、タオル巻きで混浴に移動するしかないでしょうと教わった。
カナはパパに任せて、レナを連れて女性用露天風呂に戻った。
そこの脱衣所も大混乱で、脱衣籠は当然満杯、籠以外の棚のスペースも他人の衣類で誰がどこのなにやらまったく判らない始末。足下は濡れているし、立つ場所もあまりない。
それでもせっかく来たんだからと無理矢理何とかした。
タオルを巻いて外へ出ると、寒いし裸足なので足の裏が痛い。
寒いよ、痛いよを連発するレナの手を引いて、何とか混浴露天風呂まで移動した。
パパとカナはもう入っていた。
やっぱり景色だけは比類無き露天風呂だよね。
このロケーションだけは
滑川もまるで歯が立たない。
山の見える露天風呂はいくらもあるけど、この切り立つ岩山は他にない。すごいと思う。
でもこの人混みはなんだよう(涙)。
町中のスーパー銭湯じゃないんだからさぁ・・・。
お風呂の中に入っている人は数人なんだけど、どういうわけかお風呂の周りに人人人・・・。ぐるりとタオルを巻いたり、服を着たりした人がぎっしりといる。しかも雨なので、みんな濡れそぼって。
もうほとんど、私たち、何しに来たんだ?と自問自答。