9.夜の露天風呂
湯治棟の階段の横にちょっとしたベンチがありいつも灰皿が置いてある。部屋に戻ろうとしたらここでパパが隣室の親父さんと話し込んでいた。いつの間にか仲良くなったらしい。
隣室の親父さんは
滑川の常連で、一年に2、3回は夫婦で湯治に来るそうだ。
高湯で湯治宿を開くことを考えていて、お気に入りの滑川には研究を兼ねて泊まりに来るという。そういえば高湯はユースホステルや素泊まりできる安価なペンションはあったが、温泉は引かれていなかったはずだ。湯治宿ができたらかなり需要があるんじゃないだろうか。
子供たちが寝付いた後は、大人だけで露天風呂へ。
露天風呂には結構先客がいた。
女性も二人ほど。
ふと一人が話し始めた。
「滑川のさらに先にある
姥湯は、今も絶景とか言うけど昔はもっと凄かったんだよ。平成元年かな、あそこの岩が崩落してすっかり見える景色が狭まっちゃってね。そうそうその頃は、河原でもちょっと掘ると温泉が湧いて、これがまた雰囲気いいんだよ。今はもう危険だとかで河原に降りられなくなっちゃったんだけどさ」
当時は正真正銘の秘湯だったと懐かしそうに言った。
明日から天気が下り坂。
虹色の暈を被ったおぼろ月。
雲のまにまに星も見えて、頭上にきらめくのは北斗七星。