11.カナとレナ、湯治部屋で衝撃を受ける
駐車場はかなり混雑していた。宿泊のお客さんに加えて日帰り客などもいるのだろう。
荷物を抱えて覚えのある玄関から入り、チェックインを済ませて部屋に案内してもらう。
二階の湯治部屋。前に泊まったときは一番奥だったが、今回は階段から二つ目。
薄暗い部屋に入ったとたん、カナは目を丸くする。
「・・・この部屋、変な臭いがする・・・」
たぶん古い家の臭い。
そりゃあいつも通った湖の見えるおうちのように、広々と駆け回れるような広い部屋ではない。床暖房もトイレバスキッチンもついてない。自家発電の電球はたいして明るくなく、部屋の入り口の障子はほとんど開けっ放し。両隣の話し声も筒抜けで、壁や畳も年季が入っている。
6畳の狭い部屋の一角に布団が積み上げてあり、もちろんテレビなんて無い。
でもさ、一昨年の夏、青森のランプの宿、
青荷温泉に泊まったときはこんな感じだったじゃない。
結構、子供たちふたりはショックを受けたようだ。
頻繁に温泉旅行に出かける我が家は、極力宿泊料金を抑えてはその分一泊でも多くしたいと思っている。連泊で割引があり、自炊できる施設などは好んで使っていた。
だけど今まで子連れで湯治宿に泊まったことはなかった。
条件はぴったりなのだが、隣近所に声が筒抜けになり、療養目的で滞在している人の多い湯治宿は、明らかに子連れでは迷惑をかけると思っていたからだ。
榛名湖の定宿もなくなり、長女のカナが小学校に入学した。レナももう4歳。そろそろ静かにしていることもできるのではないか。そんな期待を持って今回、
滑川温泉に予約を入れた。