小安温泉は真っ茶色だった。
如何にも鉄分の多そうな色に濁っていて、実際、金属の臭いもぷんぷん漂っていた。
木造の内風呂ひとつで、そこそこ広い。
先客に何処から来たのと問われ、東京からだというと、どこでこの温泉を知ったかと驚かれてしまった。
どうも、知る人ぞ知るというか、名湯揃いの信州高山温泉郷にあって、一見地味で一癖もふた癖もあるところだったらしい。
湯口にはコップがあったので飲んでみた。
炭酸水素塩泉らしいじゅわっとした感じが少しあり、あと、シンプルに塩辛い。
隣にいたyuko_nekoさんが高血圧の人は飲んじゃいけない味だと言った。
きしきしする感触も強いが、肌をなでているとすべすべする感触もある。
とてもよく温まるので汗がひかない。
とにかく全てが木でできていて、浴室にもぬくもりがある。
高い天井を見ていると、ああ、渋滞はあったけど長野まで来て良かったなぁと思った。
子安温泉はがっちゃんたちにすると、おぶせ温泉以上のサプライズだったようだ。
秘湯秘湯と書いてあるからどこが秘湯かというB級温泉だと思えばちゃんとしていたし、まさか茶色いお湯が待っているとも思わなかったようだし。
私は信州高山温泉郷なら、そもそもハズレはないだろうと思っていたし、どこかに茶色いお湯があると聞いたような気もしていたから、サプライズは無かったけど良い温泉だと思った。
子安温泉の受付をした女性は、最初は取っつきにくそうな雰囲気だったが、私たちがお風呂から出てくると、たった今届いたばかりなのと立派な桃を一つずつくれた。
「桜桃とネクタリンの掛け合わせでワッサーと言うの。桃と違って硬いから運んでも痛みにくい品種で、あと2、3日ぐらいで食べ頃だと思うわ」
このワッサー、結局帰宅してから食べたが、見た目は桃そのものながら、味はもっとさっぱりして本当に食感が取り立ての桃のように硬く面白い味わいだった。
「長野の人って、最初は無愛想なのに、話してみると親切な人が多いよね」
「シャイなんだよ、長野の人は」
がっちゃんやyuko_nekoさんが言う。
そうなのだ。
ちなみに私の母は長野出身。私もシャイなのだ(笑)。
シャイと言えば対照的なのは隣接する山梨の人。
「山梨の人はしゃべり始めると止まらなくなるよね」
「そうそう」
前に
はやぶさ温泉でがっちゃんをマッサージしてくれた人がそうだった。