村営の、地元民の憩いの場所らしく、
高山温泉いぶきの湯は小ぢんまりとして一見瓦屋根の民家かと思う作りだった。
入るとすぐ左手に受付があって、ちょうど私とほぼ同時に入ってきた女性が入浴料を払っているところだった。後から旦那も来るからその分も一緒に払っちゃうわという話をしている。地元の方のようだ。
ロッカーなんかない本当に棚だけのげた箱に靴を置いて入口正面の廊下を行くと、受付の奥に小ぢんまりとした休憩広間があってアラジンストーブというのだろうか、昭和の中頃に活躍していたような円筒形のストーブが燃えている畳の間で何人かの客がのんびりとテレビを見ていた。
浴室は右だ。大きく「ゆ」と書かれた男女別の暖簾が下がっている。
脱衣所も広くはなく、人相の悪い指名手配者のポスターが貼られていた。
脱衣所にいると、さっき受付をしてくれた方が慌てて入ってきた。
「ごめんなさい、渡すの忘れちゃったわ。お年賀よ」
さっきほぼ同時に入ってきた女性と私とに袋入りのタオルを持たせた。
入浴料も300円と申し訳ないくらい安いのに、タオルまで頂いちゃってどうしてよいやら。
以前、同じ群馬の
きたたちばな温泉でも同じようなことがあった。
お正月に新潟の日帰り温泉に行くと樽酒のサービスがあるが、群馬の日帰り温泉では年賀タオルが頂けることがある。お国柄の違いかな。
微妙な時間帯だったが、お風呂は結構混んでいた。
みな地元の方ばかりのようだ。
窓際に縁がゴマ塩模様の御影石でできた長方形の石の浴槽があり、無色透明のお湯が満たされている。
まずは軽く洗おうと洗い場に行き、座席の横に置いてあった洗面器を手にしたところ・・・
「それ、私のよ」
「えっ?」
「椅子はここのだけど、洗面器は私の。備え付けの洗面器はあっちに積んであるわよ」と、入浴中の女性から注意を受けてしまった。
た、確かにこの洗面器は他の洗面器と色が違った。
でもまさか、何も中に入っていなかったし、まさかマイ洗面器だとは。
「すいません」
慌てて備え付けの洗面器を持ってきた。
さすが地元の方の多い温泉。
マイ洗面器があるとは思わなかった。目から鱗だったのだ。
お湯はかなり熱かった。
ここならぬるめの
四万たむらにぶつぶつ言っていたパパも納得するのではないかと思った。
きりりと熱くて肌ざわりきしきし。すっきりとしているのにとろみを感じる。
湯面からほんのりと淡い石膏の臭いが立ち上って、四万から帰って来たばかりなのに、ちょっと四万に似たお湯だなと思った。
湯あがりはぽかぽか。
熱いくらいだった。