12.先導は千鳥足
歩き出して30秒もしないうちに後悔した。
雪は相変わらず激しく降っていて、車道は消雪パイプから出る水でびちゃびちゃだ。
しかも半分雪が混じっているので水たまりより始末に負えない。長靴ではなく単なる防寒用のショートブーツだから浸水してくるのも時間の問題だろう。
雪の壁のせいで道幅が通常よりも狭くなっている。
車が来ると除けなければならない。車のタイヤが跳ね飛ばす水しぶきにも要注意。
これでは危なくて仕方がないので歩道は無いかと車道と建物との間をのぞくと・・・あら、なんだ、ちゃんと歩道もあるじゃない。
歩道は酷い閉塞感を感じる。
何しろ2メートルはあるような雪の壁に両側を挟まれた狭い一本道だ。しかも人が全然いない。
足下はふかふかの雪だ。ぎりぎり靴が埋まらないくらいの深さなので水浸しの車道よりは歩きやすい。
もう何時間も誰も通っていないように綺麗に雪が積もっていたが、そこにひとつだけ足跡がついている。
その足跡は、何故かくねくねとリズミカルに蛇行しながらずっと先まで続いている。半分靴を引きずりながら、歩いているような妙な足跡だ。
子供がふざけてくねくねと歩いたのかな? それにしちゃ、靴底のサイズが大きすぎるようだ。
しばらく歩いて魚野川に掛けられた坂戸橋まで来ると、なんとその足跡の主が前方をよろよろと歩いているのが見えてきた。
そ、それは・・・。
蛇行しているのも当たり前。
それは絵に描いたような千鳥足の酔っ払いだった。
あっ、転んだ。
ふうらふらと右に左によろけながら歩いていたおじさんは、足を踏み外したようで思いっきり雪の中に転んでいた。
すぐによろよろと立ち上がると、一軒だけ灯りのついていた赤提灯に吸い込まれるように消えていった。
もうそれ以上飲まない方がいいと思うんだけどな。
おじさんの転んでいた雪の窪みを気をつけて除けながら進むとアーケードの続く六日町の中心地に出た。
通りを右に進み、最初の信号を左へ曲がったところに六日町の郵便局がある。
公衆浴場は郵便局の隣だ。
金誠館の受付は徒歩10分程度と言っていたが、あまりに道が悪かったので15分かかったかもしれない。