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◆◇九州温泉巡り旅行記◇◆
阿蘇-長湯温泉-黒川温泉

34.清風荘のショックだった話






 最初は誰もいなかったすずめの湯だが、女性専用タイムになってしばらくするとぽつぽつと入浴者が増えてきた。
 女性グループや親子連れなど。

 六つに仕切られた湯船の中でも一番泡が沢山出ている囲いに入っていると、私より少し年上の女性が困ったように行ったり来たりしてから話しかけてきた。
 「ここってシャワーとか蛇口とか無いんですよね? 入っている人はみなさん、中のお風呂で洗ってらしたのかしら。やっぱり先に館内のお風呂に入ってこなきゃいけなかったのかしら」
 「あっ、私は脱衣所にある湯船で掛け湯して入らせてもらいました。脱衣所の湯船の所には湯桶もありましたよ」
 女性は手を叩いて、そうすればよかったのねと納得し、いったん脱衣所に戻ってから掛け湯を済ませて戻ってきた。

 「どうぞ、ここが特等席ですよ」
 あつ湯を背にして一番手前右の区画を譲る。ここが一番沢山泡が出ている。
 「はあーっ、地獄温泉って言うけど極楽温泉よねぇ」
 女性は特等席に身を沈めて手足を伸ばした。

 何となく入っているメンバーで、聞くともなしに話し声が耳に入ってくるから合いの手を入れたりする。
 奥の方に入っていた女性グループが地獄温泉の下に垂玉温泉山口旅館って言うのがあったでしょと言うので、ちょうど今日の午前中に入ってきたと私が答えると、気になる話を教えてくれた。

 「あのね、この地獄温泉と垂玉温泉は経営が同系列らしくて、午後3時から夜の9時まで地獄温泉宿泊者は無料で入らせてもらえるんだって」
 「ええーっ」
 「しかも宿泊者専用の露天風呂も入れるみたい。ちょうど両方の宿の混浴露天風呂が女性専用タイムになっている時間が含まれるようになっているんだって」
 「えええーっ」

 そ、それじゃあ昼間、お金を払って垂玉温泉に立ち寄り入浴した私たちの立場は。
 いやいやお金はいいとして、滝見の露天風呂も入れたなんて。
 そんなの聞いてない。聞いてないよ~。

 「あ、明日の朝、寄ってもダメかしら」
 「あー、泊まる日だけなんだって言われた。でもフロントで聞くだけ聞いてみたらどうかしら」

 彼女たちの詳しい話はこうだった。
 垂玉温泉山口旅館の立ち寄り入浴は午後3時までなのだが、泊まる地獄温泉に来る途中、垂玉温泉を見かけてダメもとで入浴させてもらえるか聞いたところ、けんもほろろに断られた。
 その時成り行き上の会話で今夜は地獄温泉に泊まるという話をしたところ、「地獄温泉に泊まるならチェックインして専用クーポン券を貰って来れば宿泊者専用タイムに無料で入れてあげられる」と教えてもらったのだそうだ。

 うー、なんかすっきりしない。

 のんびり入っていると1時間の女性専用タイムもあっという間で、男性陣が会話しながら石段を下りてくる気配がした。そろそろ潮時だ。
 入っていた人たちはみんな脱衣所へ戻り、私もさくさくと着替えた。
 そしてその足で部屋に戻る前に帳場で今聞いた垂玉温泉のクーポン券の話を確認してみることにした。




 主人とおぼしき帳場にいた男性は、明日は無理とあっさりと断った。
 明日は無理なのはそういう取り決めなのだろうからしょうがない。
 でもなんでせめてチェックインの時に教えてくれないんだろう。

 地獄温泉の宿泊客は垂玉温泉のお風呂にも無料で入れると知っていたら、今日の午前中に垂玉温泉に立ち寄り入浴はしなかったろうし、それは仕方ないにしてもチェックイン時に教えてもらったなら、夕食前にもう一度行っていたと思う。夕食後は無理。お酒飲んじゃってるし。
 午前中の入浴は有料でも空いている中でゆっくり入れたからそれは諦めもつく。
 夜の話は釈然としない。

 知っている人だけが使えるこの話、宿に何かメリット有るの?
 つまり、宿泊者への優待ならじゃあ宿泊しようという気持ちに繋がるけど、知っている人にしか使えない優待だと、私みたいに後から知った人は不快に思う。宿への良い感情が持てない。宿としてはそれでいいの?

 地獄温泉清風荘、とても良いところで温泉も雰囲気も部屋も食事もとても気に入ったんだけど、この件だけがもやもやした。
 この件だけで自分の中の評価がズンと下がってしまった。



1-35夜の新湯の出来事へ続く


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