28.ひしや寅蔵の夕食
湯上り後は30分足らずで夕食の時間だった。
部屋の電話が鳴り、女将さんが夕食のご用意ができましたと言っている。あれ、でもそういえばチェックインの時、夕食をどこで食べるのか聞いていなかった。
「どちらに行けばよろしいでしょう?」
「月の間です」
女将さんは月の間の場所を説明した。同じ階の離れた別の部屋だった。
相変わらず宿の中は人の気配が無い。
夕食のお膳を運んできた女将さんが今夜の宿泊客は私たちだけだと言った。
料理はとても美味しそうで、世話焼きの女将さんはアーモンドの衣をつけて焼いた海老や鮭と茸のホイル焼きなど温かいものから召し上がってくださいねと汁物をよそってくれる。
とても彩が綺麗で品の良い盛り付けだった。味も濃すぎず程よい塩気。
何より陶板焼きに乗った肉が絶品。
思わず二人で顔を見合わせ、昨夜の草津の上州牛より数倍上質だと頷きあう。これはもしかしてあれかもしれない。前に渋の隣の安代温泉に泊まった時、
安代館の女将さんが教えてくれたリンゴを食べて育ったと言うリンゴ牛。あの渋湯田中温泉街でしかほぼ流通していないっていう、温泉街の中にある肉屋で扱っているっていう・・・。