4.タダ湯と思ってはいけない
帰り道。
私たちが並んで夜道を歩いていると、すーっと一台の車が近づいてきて停まった。
ウィンドーを開けて若い男性。
「この辺にタダ湯ありませんか?」
一瞬、タダ湯という聞き慣れない言葉に首を傾げてしまった。
ああ、共同浴場のことか。
草津の共同浴場は無料で開放されているから。
「すぐそこですよ」
今出てきたばかりの
千歳の湯の方向を指さす。
「ありがとうございます」
車は走り去った。
千歳の湯はちょっと通りからだと見つけにくいけど大丈夫かな。
「いいんじゃない? 見つけられなかったらまた探せば」とパパ。
そうだよね。自分たちで努力してもらうか。
タダ湯って言葉、良くない。
無料で開放してくれている善意を誤解するような、ありがたみを感じない表現だ。
感謝の気持ちを忘れて、どうせタダで入れるんだからと軽んじる客が増えれば、もう外湯は開放されなくなるだろう。
草津の共同浴場には「貰い湯」の精神について書かれたポスターが貼られている。
歴史としての貰い湯は元々、宿の内湯を地元住民も利用させて貰ったことが発祥だが、現在では地元住民以外の人が共同浴場を利用させて貰うことを差す言葉になっている。
結びの言葉は「「共同浴場」は地元住民のために設置され、その管理も地域ごとに行っています。古来より守り続けた「外湯」を、感謝の気持ちでお楽しみ下さい。」
お湯が湧いているのは自然の恵だが、施設は誰かがお金や労力を出して清掃しメンテナンスしていることを忘れてはならない。