9月20日(金)
東京を出たのは朝の6時。いつものように旅の始まりに子供たちはわくわく。
空も晴れ渡り、甲府盆地では、山々が青い壁のように立ちはだかっているのを見た。10時少し前には、駒ヶ根を通過し、飯田ICで一般道に下りる。
今日の宿泊地は昼神温泉。チェックインまでにはまだまだ時間があるので、古い宿場町を見ていこうということにした。
飯田から妻籠に向かうのに、一番近いかと思って選んだ大平街道が大失敗だった。
にこにこのレナ。このあと悲劇が待っているとも知らずに…。
道は舗装されているが、とにかく細くて急カーブの連続。
なにより細い道にもかかわらず、ひっきりなしに大型トラックがすれ違う。飯田峠を越えるころには車の中は陰鬱なムードに…。
レナが「気持ちが悪い」と言ったとたん、嘔吐してしまった。
顔色も真っ青。車に酔ったのだ。
カナも気持ち悪い~と半泣き。後で聞いたら、運転手のパパも気持ち悪かったらしい。
我が家の子供たちはそんなに酔い易いタイプじゃないので、この道がよほどの悪路だったということ。古い家並みがぽつりぽつりと残る、大平宿を過ぎて、小川沿いで休憩した。
見て見てー、水が冷たいよ。触ってごらん。
目指す妻籠に到着したのは、お昼少し前。
尾又橋のバス停に一番近いパーキングに車を停める。ここから歩いていこう。
妻籠は中山道と飯田街道の分岐点として栄えた江戸から42番目の宿場町だ。
昭和43年から歴史的町並みの保存事業により景観を見事によみがえらせ、昭和51年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
寺下、上町、中町、下町と江戸情緒を残す町並みが続くが、最もよく保存されているのは、大きな火災にあわずにすんだ寺下地区だ。一番絵になる。
江戸時代の庶民の住居を再現した下嵯峨屋から道が石畳になる。このあたりもタイムスリップ気分が味わえる。
素晴らしいと思うのは、建築物だけではなく、ちょっとしたディスプレイなどにも気を抜かないこと。ベランダに花を飾ることを義務付けるスイスに共通するものがあるかもしれない。
妻籠の湯屋という蕎麦屋で昼食。歯ごたえがあって美味しい。
お土産は、わちのやのお焼き。
かぼちゃと、くるみと、野沢菜と、野菜をひとつずつ。
さて、まだ昼神に向かうには少し早い。
お風呂に入れれば子供たちも寝てしまうだろうと目論み、
あららぎ温泉へ。
ここは道路を挟んで、
あららぎ温泉と南木曽温泉が向かい合っている。
源泉は一本で、あららぎが湯元。
しかし、南木曽温泉の入り口がゴージャスなのに対して、あららぎ温泉は、なんかこう、地味で、ぱっとしない。よい湯があると知らなければ、通り過ぎてしまいそうだ。同じ敷地内に、WOODY工芸館という、ガイドブックにも載っていて、木工細工を体験できる施設もあるのだが、これがまたバラック建てみたいな建物で、見るからに怪しい。怪しいといえばこのあららぎ温泉の入り口、「ゆ」の暖簾が下がっているのだが、その横に喫茶とかお食事とあり、入浴施設なのか食堂なのか、はっきりせいっという感じで笑える。
入浴料も、食堂で払う。食堂を通って、靴をぬぐと、食堂の続きみたいな和室があり、どうもこれが休憩室らしい。休憩室の奥が脱衣所入り口だ。妙な作りだ。
脱衣所はわりと狭く、大勢は入れない。赤ちゃんを脱がせるスペースなどもまるでなく、床にバスタオルでも敷いて脱がせるしかないかも。
しかしあちこちに手書きで、ここはとにかく滑るので手すりにつかまりながら移動する旨注意書きがあり、これはなかなか期待できるかもと思わせる。
洗い場も全て木造りで、流石は木工品の里だと関係ないことに関心。足元も全部木の板が張ってあり、ぬくもりを感じさせる。
洗い場から、木の階段を下りて浴槽へ入る。階段も木の滑り止めつきで、本当によほど滑るのだろうなという感じ。
湯に手を入れて納得。からみつくようなにゅるにゅる感。うーん、これは嬉しいかも。湯口からちょろちょろ出ている湯は全てかけ流し。
露天風呂は無いし、浴室からの眺めが良いわけではないが、木の感触と湯の感触が気に入って、ついつい長湯をしてしまいそうだ。
温度はまことに適温。無色透明。ごくわずかに灯油臭。油っぽい舌触り。
レナは浴槽の底の板の黒ずみが、階段状に見えるらしく、平らなのに、階段怖い怖いといって、張り付いたきりなかなか離れなかった。
予想に反して子供たちは車の中で寝なかった。
午後3時少し前、昼神温泉到着。
宿泊する
湯多利の里 伊那華は、今年の春にリニューアルしたばかり。なにやら派手な、明るいレンガ色の外壁に、ちょっと怖気づく(笑)。
ずっと大型旅館や、温泉街系には縁が無かったからなぁ。どんな感じだろ。
この伊那華に決めたのは、旅行会社のツアーで、申し込むと湯めぐりパスポートがついて他の宿のお風呂にも入れるという特典が気に入ったからなのだが、何かの手違いで、旅行会社からそのパスポートが私たちの手元に渡されなかったらしい。
伊那華のロビーで事情を話したところ、しばらく悩まれてしまったが、宿泊クーポンのコピーに伊那華の印を押してくれ、これを代わりにしてくれと言われた。
湯めぐりパスポートが有効なのは、「
湯元ホテル阿智川」「ユルイの宿 恵山」「昼神グランドホテル天心」「お宿 山翠」「
日長庵 桂月」の五つ。時間制限は15時から18時までの3時間。
まず向かったのは「
日長庵 桂月」。
山水花鳥画の大家、松林桂月が無名のころ、この宿の先代に世話になり勉学に励んだことから命名したとのこと。
本物の湯めぐりパスポートが無いため、事情を説明して入浴させてもらうことになった。パスポートを除くと、本当はここの日帰りは、昼食つき6千円コースしかないようだ。
ロビーも浴室の入り口もセンスよいつくりだ。昼神温泉3号井の湯を引いている。
内湯も檜の浴槽で、いい感じ。湯口は飲用可の源泉だが、中の注入口からも循環湯を入れているらしく、完全掛け流しではないらしい。
あららぎ温泉ほどではないが、まあまあのにゅるにゅる感有り。
カナが一度温泉タオルを頭に乗せてお風呂に入ってみたいというので、乗せてやる。なんだか温泉通のようでご満悦らしい。
奥に露天風呂がある。
でもこっちはちょっとがっかり。すごく小さく、屋根つきで、しかもプラスチックの竹垣で囲われているので見晴らしも全然良くない。お湯もこちらも半循環。
白御影石でできているので、湯の色が青みがかって綺麗だなというくらいしか、特徴が無い。
次に向かったのが、「
湯元ホテル阿智川」。
今の昼神温泉はトンネルを掘っていて発見されたものだが、その現場に最も近いらしい。
とにかく入り口でかなりの巨大ホテルだなと思った。
車を入り口につけると、係員が飛んできて、お車はこちらで駐車場に入れるので、お客様はそのまま館内にお入りくださいとのこと。
ここでも湯めぐりパスポートが無いことでちょっともめる。けれどどこの宿も、嫌な顔をせずに対応してくれたのはありがたい。
ここも本来日帰りは昼食つきしかやっておらず料金も5000円。
泡風呂などが幅をきかせている内湯はパスして、さっさと露天へ出る。本日快晴なり。やっと本当の空を見上げながらお風呂に入れる。
露天風呂は結構広い。深さも深くなく、適温。
画像は男湯だが、女湯は打たせ湯がどばどば3本も並んで出ていた。
こちらは昼神4号井から引いている。にゅるにゅる度は、桂月よりちょっと少ないか…。おや、洞窟風呂があるようだ。露天風呂の湯口は、打たせ湯を入れていくつもあり、浴槽内にも注入口がある。吸引しているところもあったので、ここも半循環と思われる。が、その洞窟からあふれる湯も露天風呂に流れ込む仕組みになっているではないか。むむ、もしかして洞窟内、源泉浴槽?
おお、なんか露天風呂よりずっとにゅるにゅるしますね。やはりここが一番濃いよう。
でも、レナは暗いのが怖い。出る出ると大騒ぎ。
ちなみに女湯の洞窟風呂の頭上には、観音様がいらっしゃいます。聖母観音だそうで…ん? マリア観音? 昼神にマリア…神仏混同?(違う違う)。
のんびり入って、脱衣所に出たらあらびっくり。
団体客がついたらしく、もんのすごい人人人…。相当広い脱衣所なのに脱衣籠が余らないほどの人手。
いやはや、タッチの差で良かった。
やっと伊那華に戻って…。
伊那華の駐車場入り口にはしかけ時計がある。からくりが動くのを楽しみに、我が家の姉妹は15分待っていたが、残念ながらその時間は、しかけは不発に終わってしまった。ロビーで聞いたら、たまに不発もあるそうだ。
仕方ないので、一時間後もまた来て見学することに。二度目は動いた。ほんとに最後まで動かなかったらどうしようかと思ったわ。
食後は一人で
伊那華のお風呂に入ってきた。ここも昼神四号井。
内湯は泡風呂にジャグジー。露天風呂は岩風呂、檜風呂、林檎風呂(!)、立ち湯、打たせ湯、コーヒー足湯(竹墨を敷いてるらしい)、サウナとこれでもかと種類があるのだが、残念ながらどれも湯の特徴が無い。
こんなものかと思って最後に入った内湯の大浴槽は、ありがたいことにまともな温泉だった。
一箇所強力に吸入しているところがあるけれど、湯口や浴槽内の注入口からはずっと多くの湯が投入されており、かなりの量が掛け流されていく。ちゃんとにゅるにゅる感もある。
部屋でパパに、今日の温泉どうだった?と聞いてみたら、全部良かったと言っていた。中でも一番温泉が濃かったのは…。
パパは「阿智川」。
同時に私は「あららぎ」。
…あれ? 違う。ははは。ま、いいよね。
明日は、なんのさん、メタさんご夫妻、れもんご一家、そろってキャンプだ。
みんなと合流する前に、ぶどう狩りなんていいかも。
つづく