「これからどうするんだっけ?」
「次は湯川内温泉に行って、出水に飛来している鶴を見に行く」
「えっ?」とパパ。
えって・・・朝も言ったよ、紫尾温泉と湯川内温泉に行くって。
「夜7時半の飛行機で東京に帰るんだから、空港で夕食を食べるとして夕方6時にはもう鹿児島空港に着いていないとまずいんだけど」
今の時刻は2時半。
3時間半で湯川内温泉と出水観光と両方行って間に合うのか?
鹿児島はこれまでの道程、渋滞も無くて思ったよりどこに移動するにも時間が掛からない印象だったが、この紫尾から湯川内までは思いのほか遠かった。
というか、鹿児島県の西側って高速道路も無いし結構移動に時間が掛かる。何だかひたすら走っているような気がする。
鹿児島と言えど冬の日は短く、なんとなく陽の光は陰りを帯びて、影が長くなってきた。
湯川内までの最後の道は細い山道。
霧島方面以上にこの辺りの方が秘湯然としている。
湯川内温泉の宿はかじか荘一軒のみ。
すれ違うのもやっとみたいな細い道の先に、いかにも山の湯治場風の建物が建っていた。
駐車場は小さな橋を渡ったところ。そこから建物を見上げると瓦屋根の古い木造校舎みたいに見える。
山の中だが車は数台停まっていた。
午後3時過ぎ。ゆっくりしている時間は無い。
かじか荘は大野あやさんのお勧めだったのだが、受付で初めてか、リピーターかの後に、どこから来たのと聞かれて東京と答え、続けてどうしてここを知ったのかと聞かれたので、友人が連泊してすごく良かったからぜひと言うので来たと答えると、女将さんはめっちゃくちゃ嬉しそうだった。
「そうなの、ここは本当にいい温泉なのよ。足元からお湯が湧いているの、でもね、ごめんなさい、男湯は沢山プクプク湧いているけど女湯の方は少しだけなの」
そして丁寧に二ヶ所の浴室に案内してくれた。
下の湯と、階段を昇った上の湯。どちらも独立した湯小屋になっている。
脱衣所にストーブがあるのは下だけだけど、時間があったらぜひ上も入ってみてねと勧められる。
女将さんが戻ってしまった後、パパは湯川内まで時間が掛かったので、飛行機の時間を考えると上下二ヶ所に入る時間は無いと言う。
いやいや二ヶ所がどうのじゃなくて、制限時間を教えて。それに合わせて入浴するから。
30分後に駐車場? じゃあなんとかする。
そりゃ、本当はゆっくり入りたいし、さっと来てさっと入って帰るお湯じゃないんだろうけど、飛行機に乗り遅れるわけにはいかない。
で、まずは下の湯をのぞくと一名入浴中。
ならば上からと上をのぞきに行くと、こちらも下駄箱に四人分のブーツやスニーカー。