村乃湯を出て15分ぐらいで宿泊するこらんの湯錦江楼に着いた。
時刻はまもなく夕方の5時で、空は水色と茜色の入りまじった水彩絵の具のような儚い色をしている。
周辺には背の高い椰子の木が植えてあって南国イメージを前面に押し出した宿らしい。
規模はそこそこ大きく、個人客よりも旅行会社のツアーで行くような旅館というイメージを勝手に持っていたが、入口から一歩入ったロビーは思っていたよりもずっと立派だった。
受付で夕食の時間と貸切露天風呂の利用時間を聞かれる。
ああそういえばじゃらんだか楽天だかのプランを申し込むときに、セットで貸切露天風呂が付いていたっけ。すっかり忘れていた。
夕食時間は6時から8時まで選べるが、露天風呂の方はプランのおまけなので7時からと固定になっている。
パパは食事を急いで食べて露天風呂かなと選びそうになったが、福島の会津東山温泉庄助の宿瀧の湯に泊った時、食事が美味しかったので思いのほか時間が掛かってお風呂に行くのに難儀した経験を持つ私は、食事を後ろに回そうと提案した。
貸切風呂の時間は45分間と固まっているのだから、むしろお風呂に入った後にゆっくり時間を気にせず食べようよ。
できるだけ早い時間に露天風呂の予約を入れた湯之谷山荘とは逆の発想だ。
部屋は低層だったが窓からは錦江湾が見える。
「ねえねえこの宿からは桜島が見えるはずだよね。あれかな?」
真正面の一番大きく見える山を指差す。
雲が多いうえに既に夕暮れ時なので山のシルエットはすっすらとしか見えないが。
「まさか。あれは大隅半島のどこかだろう」
「じゃこっち。その左側にあるもう少し小さく見える山が桜島だよ。だって形がさっきまで見ていた桜島と似てるもん」
「えー、もっと小さく見えるんじゃないの?」
ちなみに結局この時は結論が出なかったが、翌朝フロントで確認したらやっぱり左に見えていた山が桜島だった。右側はパパの言うとおり大隅半島だった。
桜島のシンボルである噴煙さえ見えれば間違えることは無かったはずだが、あいにくと今は曇りの夕方だし、翌朝に至っては完全に曇っていたのでまったく山影は見えず、まあ迷っても許してねと思った。