8.雨よまだ降らないで
新平湯に入って少しぱらっと雨が降ってきた。
ついに台風に追いつかれてしまったのか。
このまま土砂降りで旅のラストを飾るのか。
まだ早いよ。
もう少し待ってもらわなくては。
「雨が降ってきたから
神の湯は辛いかも」
「じゃ、どうする?」
「・・・一昨日、義満さんが寄ってきたって言うト伝の湯は? 洞窟だし貸切だし通り道だから、雨でも子連れでもいいかも。あとは・・・平湯で一昨日入り損ねた湯元館に行くって言うのは? 流石にこの時間ならお湯が入ってないってことはないだろうし、旅館ならシャンプーも備え付けでしょ」
「なるほど」
「でも湯元館に入っちゃうとtakayamaさんが泣いて悔しがるかな。可哀想だからやめとくか」
とりあえず神の湯に行ってみることにした。
雨が激しくて無理だったら湯元館にすればいい。湯元館に断られたらト伝の湯がある。
なんとそう決意したら、また雨が上がった。
もしかしたらまだ猶予があるのかもしれない。
去年入った
平湯民族館の横を通り坂道を登る。
この道はよく覚えている。
私は神の湯に行ったことがあるのだ。
何年前だろう。メタさんと何人かの友人と平湯のやまと館に泊まり、神の湯まで歩いて行ったのだ。
もしかしたらあれが、ある意味私の温泉好きの一端を担ったのかもしれないと思うと、初心に戻るような感慨深い物がある。
曲がり角の看板に、わざわざ「秘湯」と書いてある。
ここまで有名になっちゃって、秘湯も何もあったものではないが。
駐車場に車を止めて、急いで子供たちをおろす。
ここまで来て大雨に降られるのは嫌だからだ。
入り口に神の湯食堂と書かれた簡易な食事処と受付がある。
ところがお金を払おうにも、受付には誰もいない。
仕方がないので帰りにでも払おうと先へ進むことにした。
少し登ると右手に休憩用の四阿が、左手に男湯の入り口が見えてくる。
男湯のすぐ上は何か工事中で、大工に混じって受付係がいた。
ここで料金を払うことにした。
しかし何を工事しているのだろう。
休憩所のようなスペースと、奥に露天風呂が見える。
もうひとつ露天風呂を作るのかな。それとも女湯をここに移すのかな。