1.夜明け前
三日目 7月16日(金)
夜明け前の満天の星空の下、海沿いのハイウェイを南へとばしていた。
海に星灯りが映っている。
崖に面したワインディングロードは、街灯一つないもののラインと道路標示には反射板が使ってあり、夜の滑走路のように行き先を示してくれる。
ようやく地上の灯りが増えてきた頃、
スミスフィールドに着いた。
このあたりで一番大きなラウンドアバウトを過ぎて、マクドナルドと24時間営業のシェルのガソリンスタンドが目印、キュランダに至るスカイレールの駅の隣、ジャプカイ・アボリジナル文化パークの特徴的なテントのシルエットが浮かび上がっていた。
ジャプカイはこのあたりのアボリジニの種族名。この文化パークでは伝統的なダンスのショーやディージュリドゥーの演奏などを見ることが出来る。
しかし今日ここに来たのはダンスを見るためではない。空を飛ぶためだ。
マリーバで飛ぶ
熱気球のツアーにピックアップしてもらうため、夜もまだ明けやらぬうちから、
ポートダグラスよりレンタカーを駆ってここまで来たのだ。
ケアンズでのオプショナルツアーには、GBRのクルーズや急流下りのラフティングなどいろいろ種類があるが、その中でも熱気球のツアーは、早朝のアクティビティなので帰国前の午前中にもできることで知られる。
別に帰国日にやろうとは思わないが、一度気球で空を飛んでみたくて、去年もいろいろ考えてみた。
オーストラリアの法律では3歳以上であれば気球に乗ることができるらしいが、実際はツアー催行会社によって年齢制限はまちまちだ。
日本のツアー会社のオプショナルツアーなどで使われるレイジングサンダー社は5歳以上でないと乗れない。
幸い、もうひとつのホットエアー社は4歳からなので、去年は無理でも今年はきっとレナを連れて乗れるだろうと思っていた。
気球を飛ばすのは
アサートン高原の草原の町マリーバだ。
ここなら去年も通ったことがある。
ポートダグラスから行く場合は、海沿いの道ではなく山(マウント・モーロイ)側の道を使った方が地図で見る限りかなり近い。
ツアーの送迎を頼むと、せっかくはるばるマリーバまで行きながら、帰りは朝の10時過ぎにポートダグラスまで連れ帰られてしまう。加えてポートダグラス発着は割高だ。どうせならレンタカーでマリーバまで行き、ツアー終了後、マリーバで解散させてもらえばマリーバ観光をして帰ってこられる。それが八方丸く収まるだろうと思ったのだが、実際はそんなに簡単には行かなかった。
日本語対応でホットエアー社を扱っている会社が他に見つからなかったことからトラベルターザンを選んだ。料金も全体的に他の会社より安く設定されている。
ここで現地集合、現地解散でお願いしたいと伝えたところ、最初の回答は不可能。その後数回のメールのやりとりで、ジャプカイでピックアップしてもらうことに決まった。
ジャプカイ経由だとかなり遠回りなのは確かだが、気球フライト後の朝食会場がジャプカイなので、解散時には都合がよいことになる。
その日の午後はマリーバ観光に当てようと考えていたが、この変更でキュランダ・スミスフィールド観光に切り替えることにした。
暗闇の中でツアーバスを待つのは胃が痛い。
明るい時間にホテルのロビーで待つのと違って、ツアーバスが来なかったらと思うと気が気ではない。
時間より5分ほど遅れて、ようやくバスが駐車場に入ってきた。
パームコープなどのホテルを回ってきた便だ。10人ほど先客がいて、日本人も他に一組。私たちを含めて二組の日本人のために、日本語のガイドも一人ついていた。