一方、次に立ち寄った柚木慈生温泉は全然雰囲気が違った。
ここは国道9号線からちょっと外れている。徳佐で315線に入って周南方面へ少し南下したあたり。
その頃はますます空は薄暗くなっていて、雨粒も大きく、山間の景色全体が灰色に見えていた。
柚木慈生温泉は、まず佇まいから観光客を拒絶しているような雰囲気がある。
道路沿いに柚木慈生温泉と縦に書かれた大きな看板があったから迷わなかったが、そこにある建物はどうやっても日帰り温泉には見えなかった。
そこにあるのは温泉施設ではなくわさび漬けを売る斉藤商店なる田舎のよろづや。
あれれと思い隣に回ると目立たない感じで温泉の入り口があった。
薪が沢山立てかけてあるのであれで沸かしているのだろう。
建物の中もめちゃめちゃ日帰り温泉らしくない。何に似てるっていえばいいんだろう。公民館とか集会所?
受付カウンターも一般家庭のキッチンのカウンターとか小規模なラーメン屋みたい。
置いてある椅子やソファーは古い病院みたいだし。
ここも混んでいた。
ただし願成就温泉が道の駅に来た観光客と言うなら、ここは地元の年配者ばかりみたいな。
鉄さび臭が凄い。湯船のお湯は膝下が見えるか見えないかぐらいの緑交じりの濃い暗めのオレンジ色。
アワアワが凄い。ものすごい。さっきの願成就温泉の露天風呂なんて目じゃない。全身にびっしり泡が付く。
お湯の味は甘い!?
湯口は平たく、湯口の右の方からは水みたいなぬるいお湯が、左の方からは触れないぐらいの熱いお湯が出ている。
常連さんたちはそのことをよく知っていて、ぬるい方にばかり洗面器を押し当てて汲んでいる。
先客は三人。ただし、2人組と単独1人らしい。1人の方は洗面器を三つも四つも運んできて、そこに全部源泉を貯めて、一気に頭に掛けている。それでもその人は他の2人組からすると常連とはみなされないようで会話の受け答えに壁を感じた。
三人は蛍の話をしていた。この辺りは水が綺麗なので蛍が沢山飛ぶが、まだあと一週間ぐらい待たなければならないと言う。
頭から掛けていた人とは別の1人は、洗面器にお湯を貯めるとしばらくそこに顔を漬けていた。肌に効くのかもしれない。
とにかくインパクトのあるお湯だった。
みんな長湯で私より先に入っていて、まったく出る気配も無かった。
思いっきり時間が止まっている温泉だった。
そして、上がるとものすごくぐったりしていた。体力を搾り取られていた。立てなくなりそう。
柚木慈生温泉は大野あやさんがtakayamaさんにいい温泉があると紹介したところだそうだ。
それで入って気に入ったtakayamaさんが私に勧めてくれた。
前に九州旅行をした時、私は随分と沢山、金属臭がしてアワアワの炭酸泉に入ることができた。
そんな九州の温泉に交じっていれば違和感がないが、無色透明で淡いゆでたまご臭にラジウム入りみたいなところが多い山口の温泉では、この柚木慈生温泉は随分と異色の存在に感じられた。