温泉街もだいたいこのあたりまでかなと思う頃、右に曲がる道があった。駐車場へ続いている道で、突き当りに広場のようなものがあり、月姫広場と名付けられていた。
月姫広場には湯足美(ゆたび)という洒落た足湯がある。月岡温泉街で一番混んでいたのがここかもしれない。ほぼ満席。和傘を飾った舞台と枯山水風の銀砂を見ながら足湯が楽しめる。カップルばっかだな、こりゃ。
そして探していたさかえ館はこの近くのはずだが見当たらない。地図で確認すれば月姫広場の斜め前、角っこのわりと良い場所にあるはずなのだが、そこに建っている建物は、何かの間違いとばかりにどこにも宿の看板が出ていない。ぐるりと周りを回ってみたが、本当にまったく看板が無い。普通の民家ではないと思うが、どこかの企業の保養所とか、合宿所とか、とにかく一般向けに営業している宿泊施設には見えなかった。
こうなったら入って聞いてみるしかない。なんたって場所はここで合っているはずだから。
夫はここでお別れ。冠月に戻ってゆっくりすると言う。私一人でガラスの引き戸に手を掛けた。
ドアがガラスだったのでここにきてようやく間違っていなかったことが判った。
玄関の中に「内湯 さかえ館」と墨で書かれた木の板が立てかけられていたのだ、恐らくは昔は玄関の横に貼られていたとおぼしい板が。
ここがさかえ館で間違いないことは理解したが、何故に中に宿名の看板を置く!? まさか廃業してるとか? いやな予感が脳裏をかすめる。
GWと言うのに館内はシンとして人の気配が無い。しばらく立ち尽くして、誰も来ないので声を張り上げようとしたら、廊下を回ってひょろっとして飄々とした雰囲気の男性が現れた。あまりに普通の雰囲気だったので、さかえ館の人なのか、単なる客か判断に困る。
お風呂に入らせてもらえるか伺うと、350円ですと言って、浴室を見に行ってくれた。