ごろちゃんの鉄鍋ラーメンでお腹もいっぱいになって、後は八幡平アスピーテラインを走るだけ。
走り始めて初めの方は雨模様の荒涼とした景色。それが高度を上げるに従って、だんだんと路肩に増えてくるのが路肩の雪。
そしてみるみる景色全体の雪の量が増えて、気が付くと道の両側には・・・有名な立山の道路の雪の壁ほど高くは無いものの、それなりの雪の絶壁がまるでシールドのように立ちはだかるようになってきた。
ゴールデンウィーク時に絶景ドライブコースを期待するのは間違いだった。ここはまだ冬山だ。晴れていれば標高の低い辺りは眺めも期待できようが、山頂付近はどちらにせよ雪が解けないと何も見えない。これはこれで風物詩というものかもしれないけど、時々雨の降る曇天ではおせじにもわざわざ行ってみるような景色じゃない。
おまけにガスも出てきて前方の見通しも悪いよ。
さんざんぼやいたが、それでも今日こうして峠が越えられたのはせめてもの幸いだったと知るのは明日の朝になってから。
秋田県側に入っても中途半端な雪の壁とどんよりする空模様は続いた。
ふけの湯方面に入る枝道の看板が見えた。ここまで来ればもう今夜泊まる後生掛温泉はすぐだ。でもいくらなんでもチェックインには早すぎる。
そこでいったん後生掛温泉は通り過ぎて、玉川温泉まで行き、それから後生掛に戻ってきて泊まることにした。これを提案したのには、今日の時間調整以外にも密かな理由があった。まだ定まっていなかった翌日のルートについて私には思うところがあったので。
「あっ!」
道の正面を何かずんぐりして素早い生き物が横切った。
「クマだ、クマ!」
えええーっと思う間にその生き物は左手のぬかるんだ湿地を走り木立の間に消えてしまった。
確かに猿より黒っぽく、大きかった。でもイメージしていたクマほどは大きくなく、小熊のようにも見えた。
後から本州に生息するツキノワグマは大人でも130センチ前後のこともあると知り、やっぱりあれは本当に野生のクマだったんだと確信した。
それにその後、今年は秋田県などで山菜を取りに出た人が次々とクマに襲われて死傷する事件が相次いで、クマを見て車から降りたりは絶対にしないけど、ゾッと背筋が寒くなったりした。怖いよ。
八幡平アスピーテラインは国道341号線にぶつかって終わる。玉川温泉に行くにはこの341号線を南西に進む必要がある。ここも一部は冬季閉鎖の山道だ。天気も天気だし、ほとんど対向車にも出会わない。
雨はまだ降っている。
前方に白いもくもくとした湯煙が見えてきた。玉川温泉が近いのだ。