7月31日(水)
天気予報は曇り、雷なんかも鳴るらしい。
パパは青森市を抜けて浅虫に行くことなんかも考えていたが、北の方がより天気が悪いらしい。全国的には快晴で猛暑なのに、青森の辺りだけ雲がかかっているらしい。
岩木山は雲がかかっていたが、白神山地の方には青空ものぞいている。
今日は北上しないでこの辺りで遊ぼう。
ロマントピアそうまから臨む白神山地。十重二十重に山が連なる。
さて、パパがロマントピアで見つけたリーフレットに、相馬村の夏休みの行事として、ねぷた運行というのがあった。今日と明後日の二日。場所は相馬村内で、対象は村内小・中学生・幼児となっている。
ねぷたといえば弘前だ。それに対象が子供…相馬村では規模の小さい子供ねぷたをやるのかな。観光客でも参加できるのだろうか…。
早速パパが相馬村教育委員会に問い合わせの電話をしてみた。参加OK。夕方7時に農協の福祉館前に集合だそうだ。
リンゴ畑の向こうに岩木山。青森と言えばこの一枚。絵になる。
さて、午前中はあまり天気が良くないので、白神山地ビジターセンターに遊びに行ってみることにした。
白神山地は今や世界的に希少となった広大なブナ天然林とその生態系が世界的に貴重な価値を認められ、1993年12月にユネスコが日本で最初の世界自然遺産として登録したところだ。
ブナの木というのは、10年経ってもそれほど大きくならない。100年でようやく一人前になり、その後200年ぐらいまで安定して、それからゆっくりと寿命が来て倒れる。倒れた場所にはまた新たな微生物が住み着き、また新しく出来た採光スペースに新たなブナが育っていくのだが、とにかく広大なブナ林が出来るまでには気の遠くなるような年月がかかるのだ。白神山地のブナ林には、もうそこにしか生育していない希少な生態系が今なお息づいている。
白神山地ビジターセンターは、西目屋村にある。暗門の滝歩道の情報などもあるので、白神山地に行く前に訪ねるのも良いが、私たちのように、ここまで来たけど白神山地には行かれそうにないなぁという者にも楽しめる。
いろいろ自分で操作して学べるようになっているので、子供にも好評。幼稚園児ぐらいなら、かなりいろいろ理解できるのではないだろうか。
展示ゾーンもときおり暗くなりスコールの音を響かせたり、芸が細かいのだ。
そしてここの目玉は超大型映像システム「アイマックス」。白神山地の四季を樹齢300年の老ブナが語るという筋立てだが、空中撮影などを多用して、吃驚するくらい綺麗な映像になっている。二歳のレナは30分間大人しくしているのが辛かったらしく、難儀したが、とにかくお勧め。本当にタダで見せてもらっていいの?って感じ。
ビジターセンターを出たら、空は青空だった。
雲が切れると、急に暑さが戻ってくる。
お腹が空いてきたところで、午後はリンゴ狩りに行こう。
やっぱり青森って言えばリンゴでしょう。
ほとんどのリンゴ狩り農園では、9月など秋からリンゴ狩りを行うが、ここ、岩木山観光リンゴ園は、1500本35種のリンゴの木を所有しており、県内で最も早くリンゴ狩りが出来るところだ。7月中旬から受け付けているという辺り、夏休み客を見込んでいるなぁと思われる。
今、もぎ取りが出来るのは、早稲のビスタベラと夏緑の二種。
食べ放題料金は、大人400円。子供200円。
ビスタベラは赤いリンゴ。さっぱり味で酸味が強い。
夏緑は小粒で緑のリンゴ。酸味は薄くて弱い甘みと渋みがある。
まあ、どちらも旬になると出回る、サンふじやジョナゴールドのような味というわけにはいかない。
どちらかというと、ヨーロッパの市場で買った小さな固いリンゴと同じ感じの味かも。素朴で作り込みすぎていない味。
でも自分でもいで、丸いままかじるのはまた、いつもと違って美味しいのよね。
リンゴでべたべたになった体をすっきりさせたいよね。
岩木山周辺にも沢山温泉がある。昨日、今日とぐるぐる回っただけでも、嶽温泉、百沢温泉、
湯段温泉、岩木山温泉…沢山の看板が目に付いた。
選んでみたのは湯段温泉。
看板を左折して岩木山を背にしばらく走ると、ぱらぱらと温泉付き民宿のような建物が目に付くようになる。湯段温泉ゆだんの宿と書かれた看板通りに右に曲がれば、4軒ほどのこぢんまりした旅館がある。公衆浴場とかあるのかなと思ったけれど、見つからず。
どこがいいのかさっぱり判らず、さんざん迷った末、選んだのは年月をかけて雰囲気を出した看板をかかげた
静明舘。
入り口を入ると、おばあちゃんがのそりとあらわれる。
「お風呂に入りたいのですが、おいくらでしょう」と問うと、後ろの手書きの張り紙を差す。大人250円、子供150円。千円札を出すと、ビニール袋に入れた小銭の中からお釣りを出してくれた。
脱衣所から見える景色は、田舎の民家の庭という感じ。ドアを開けるといい感じの浴槽。もちろんベビーベッドとか、露天風呂とかは無い。
源泉は無色透明らしいが、浴槽の湯はわずかに白濁。たまに黄色っぽい湯の花が浮いているのを見ることが出来る。浴槽はタイルで、外には木の簀の子が敷いてある。
ここの匂いと味は、自分が温泉の匂いを嗅ぐことに興味を持ちだしてから、嗅いだりなめたりしたことの無い匂いと味で、なんと表現したものかよく判らない。
はっきりとした匂いと味があるのだが、言葉にしようとすると難しい。
どちらも金属っぽい感じだが、鉄ではない。銅でもない…と思う。マグネシウムはこんな匂いと味なのだろうか。
カナにこれは何の匂い?と聞いたら、葉っぱの匂いと返ってきた。確かに植物の青臭さみたいな感じもしないでもない。
味も苦いのだが、食物系の苦さじゃない。やっぱりなにがしかの金属をなめた味?
浴槽は浅くは無いが、レナでもなんとか顔が出る。熱めだが、子供が入れないほどではない。
浴槽の淵に付着しているのはカルシウムだろうか。
男湯と女湯の間にもドアがあるので、子供達は時々出入りしていた。どちらも同じ造りらしい。
とても良いお湯だったが、天気もいいし、岩木山のふもとなのだから、岩木山の見える露天風呂に入りたかったなーと、パパは言っていた。
私は今度の旅行で一度はあんな感じの所に入ってみたかったから、嬉しかったんだけど、ごめんね。
コテージに帰ってから、夕食に使う炭が熾せるまで、子供達は施設内の遊具で遊ぶ。二人ともお昼寝もしていないのに元気だ。
早めの夕食を終えて、そろそろ時間なので相馬のねぷた祭りに行ってみよう。
集合場所の農協前は、既にこんな感じ。
時間になると行列はスタート。カナとレナも子供達の間に入れてもらう。みんなで小さなねぷたを曳くのだ。
ドォーンと胸に響く太鼓の音がして、かけ声が始まる。
ヤァーヤァドゥー、相馬のねぷたァ!!
ヤァーヤァドゥー、相馬のねぷたァ!!
これが子供達の曳いているねぷた。小さいし、一台しか無いが、造りは本格的。
その他に先導の車と、張り子の虎がいる。この三つで全てだ。
農協前を出発して、小さな店の前を曲がると、あっというまに中心地は抜けてしまう。これから村内を二時間かけて練り歩くのだ。
カナもレナも、一人前のつもりでねぷたを曳いている。あとはほとんど地元の子供達なのであろう。
集合時間にはまだ明るさの残っていた空も、だんだん黄昏て、提灯の灯りが映える。民家の軒先では、椅子を出して子供達のねぷたを観覧したり応援したりしているところもある。
ふと気がつくと、観光地でもなんでもない、ただの田舎道なのに、回りの建物が貫禄ある古く立派なものが多いことに気づく。あえて昔の風情を残した旅館などにありそうな、古めかしい屋根や入り口の大きな家が三軒に一軒はあるような感じ。立派な倉のある家もある。昔の街道筋か何かなのだろうか。
30分近く曳いたところで、祭りの列を抜けて引き返すことにした。
子供達の手を引いて、田んぼの向こうに行列が消えていくのを見送る。ねぷたの灯りがだんだん遠ざかり、お囃子が風に切れ切れになる。
気がつくと、灯りもほとんど無い、暗いリンゴ畑と田んぼの間の道を子供を背負って歩いていた。
雲が早い。白神山地の黒々としたシルエットがぼんやり遠くに見える。お囃子も消えて沢水の音だけが聞こえる。
何だか不思議な夜だった。
つづく