8.豪華な四万たむら
どっしりとした入母屋造り茅葺き屋根の建物が出迎える。
重厚だし、歴史を感じさせるし、何より建物までのスペースの取り方が、悠々として贅沢感を感じさせる。
本当にこんなところに泊まらせてもらって良いのだろうか。
正面に車をつけると、早速たむらの従業員が出てきて、お泊まりのお客様でいらっしゃいますか?と丁寧に聞いてきた。
「はい、花湧館ですが。えーと、予約は・・・」
「団体扱いでいらっしゃいますと・・・○×チューリップの会様ですか? それとも全国温泉友の会様?」
「あっ、それです。温泉友の会」
ちょっと恥ずかしい団体名だなぁ。でもいろいろ考えてだださんたちがつけてくれたのかな。
「お車はこちらで移動させていただきますので」
車を降りる時にカナとレナに聞いてみた。
「お腹空いた?」
「空いてない」
じゃ、今から小枝子パパの中島屋へ昼食を食べに行こうかと思っていたけど、予定は変更。先にたむらのお風呂に入らせてもらうことにしよう。
晶ちゃんから事前に、チェックインは2時からだけど11時からお風呂には入れると聞いていたので、早速玄関から入らせてもらった。
若そうな従業員のお姉さんが、「先にお風呂に入られる方ですね、ちゃんと伺ってます」とすかさず温泉タオルを渡して下さった。
早速カナとレナが、作ってきたばかりの手鏡を披露する。
「これね、自分で描いたんだよ」
「うわぁ、凄い。こんなの作れるんだ」
お姉さんは、ちゃんと子供に合わせて驚いてくれる。
「今、近くの薬王園の工芸体験で作らせてもらったんです」
まさかこのときは、この会話が後で役立つことになるとは思いもしなかった。
四万たむらのロビーはちょうど新湯川に面してガラス張りになっている。
川縁の紅葉が赤く染まっている。
これは露天風呂からの景観も期待できそう。
「お風呂は沢山あるみたいだけど、どこへ行く?」とパパ。
「森のこだま」
四万たむらの中でも一番景色の良い露天風呂が森のこだまだ。
チェックイン前に入れるとしたら絶対ここと決めていた。
お湯が良いところは他にもあるかもしれないけど、絶対森のこだまが一番人気だから混む前に入りたい。できれば独占したい。
それに冬の日は短い。
絶景露天風呂は絶対に少しでも日の高いうちに入っておくべき。
まるで館内は迷路のようだった。
方向音痴の私には、とても一度では覚えきれない。
エレベーターに乗ったり、ラウンジの前を通ったりして、ようやく森のこだまの入り口に着いた。
幸いにも先客は一名。
それもちょうど上がるところらしい。