パパがガイドブックで示したのは棘をたてたまんまるなハリセンボンの絵。福島海洋科学館「アクアマリンふくしま」の広告だ。
えーと、磐越自動車道で海沿いに出るの?
すると帰りは常磐道だね。
とほほ、これじゃやっぱり土湯峠の秘湯巡りは諦めざるを得ない。まあもともと我が家の行動パターンでは入れたとしても一湯で終わりだが。
気持ちを切り替えて、と。行く先には何があるだろう。
チェックアウトの時に帳場にいたのは、いつもの若いお姉さんではなく宿の女将さんらしい女性だった。
気になるお湯遣いについて伺ってみると、内湯は一部循環、露天は掛け流しということ。私が入った感じだと、露天も完全掛け流しとは思えなかったが、女将さんの感じがいいこともありそれは口に出さなかった。
「ここは
塩沢温泉の湯元なんですか? 近くでいくつか塩沢温泉と書かれている宿を見ましたけど」
「ああ、近くのペンションなどはみんな沸かし湯です。塩沢温泉を引いているのはうちだけですよ」
女将さんは、掛け流しにしたいけど源泉が30度しか無いのでねぇと言い添えた。
車を出そうとしたとき、駐車場にいた男の子と目があった。
さっきも朝風呂で見かけた赤ちゃん連れ一家の男の子だ。
赤ちゃんにお母さんを取られて複雑なのか、いつも気が付くとじっとうちの家族を見ている。その顔はいつも怒っているようにも見える。
思わず車の中からバイバイと手を振った。
ふと男の子の顔がほころんだ。
バイバイ・・・と、はにかんで手を振り返してくれた。
笑った顔、初めて見たよ。